悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

水曜日の手紙 森沢明夫

森沢明夫さんの本です。
いつ読んでもほっこりする気持ちになれます。

この本の目次

1章 井村直美の空想

2章 今井洋輝の灯台

3章 光井健二郎の蛇足

4章 井村直美の食パン

5章 今井洋輝の遺言

あとがき

登場人物

井村直美
町工場を営む夫を支え、二人の息子の世話をする主婦です。
夫の両親は健在で、色々気を使いながらも生活は楽ではなく、疲れています。
40代になり、自分の人生に不満があり、日記に「毒」を吐き続けています。

今井洋輝
美大グラフィックデザイン科出身の30代の独身男性。
絵本作家になるという夢を封印し、サラリーマンの道を歩みます。
中小のステーショナリーメーカーに就職し、当初は商品お企画開発だったが、現在は営業マン。


光井健二郎

元漁師で今はセミリタイア。
鮫ヶ浦水曜日郵便局というのが今の勤め先。

あらすじ

井村直美は40代の主婦。
優しい夫には不満はないのですが、家業である町工場は火の車で、生活は楽ではありません。
大学生と高校生の二人の息子の将来を思いながら、朝早くから働き詰めです。
息子に仕事を任せて、仕事もせずにいる夫の両親との関係もあまり良くなく、不満はいっぱいあります。
ただ、優しい夫が身を粉にして働いている姿を見ると、愚痴をこぼすこともできず、日記に毒を吐きながらバランスを保っていました。
直美は高校時代の友人の伊織と洒落たカフェで話す機会がありました。
久しぶりの非日常を味わうつもりでしたが、余裕のある友人の態度に腹を立て、その場から逃避行してしまいます。
家に帰った後、友人には悪いことをしたと思い直します。
同時に伊織が直美に提案していた「水曜日郵便局」のことが気になりました。
早速WEBサイトで便箋をダウンロードし、手紙を書くことにしました。

今井洋輝は、ステーショナリーメーカーに勤めるサラリーマン。
30代になり、自分の人生に迷いのありました。
彼は美大グラフィックデザイン科を卒要しました。
将来は絵本作家になりたいという夢を持っていましたが、結局はサラリーマンとして行きていくことを選びます。
同期入社の小沼は2年後、独立するために会社を辞めてしまいます。
そしてアルバイトをしながら、なんとか生きているという状況でした。
そんな元同僚とは今も仲の良い友人ながら、サラリーマンを辞めずに良かったと思っていました。
ところが、それから数年後、元同僚はようやくイラストの仕事で食べていけるようになり、会社の代表となっていきます。
友人の生き方に羨望を覚える洋輝でしたが、結婚を考えている彼女もおり、サラリーマンで安定した生活を手放すことはできずにいます。
そんな彼も水曜日郵便局に手紙を書くのでした。

 

光井健二郎は元漁師でしたが、今はセミリタイヤしている人間です。
片田舎であり、仕事もなく、ようやく手にしたのがこの水曜日郵便局の仕事でした。
鮫ヶ浦水曜日郵便局では、見知らぬ人の手紙を見知らぬ人に届けるというものでした。
知った人間ではなく、新鮮な気持ちで相手の手紙を読めるというのが魅力のサービスで、それなりに仕事の内容には満足しています。
手紙の内容が、公序良俗に反するようなものがないのかチェックしたりするのが仕事です。
そして本来はランダムに手紙を交換するのですが、この手紙にはこの人に渡そうと彼なりの「遊び心」もあるのでした。
彼は、井村直美と今井洋輝を手紙を通じてそれぞれつなげることになります。

 

井村直美は高校時代はテニス部に所属。
明るく前向きな女性で、母親と一緒にクッキーを焼いたりしたものを部活に持っていったりしていました。
そこでも好評だったので、彼女は将来、手作りパンの店でも出せたらいいな~とささやかな夢を持っていたのです。
現在の生活に疲れていた直美は、水曜日郵便局の手紙に、自分が果たせなかった夢を書いて送るのでした。
それは自分の理想の将来像でもあるのでした。

今井洋輝は井村直美の手紙を受け取り、自分の夢をもう一度叶えたいと思うようになります。

感想

小説だとわかって入るのですが、とても気持ちのいい話です。
井村直美さんの生活についても大変ですし、日記で毒を吐くというのも分かります。
彼女は日記に毒を吐く行為を「浄化」と呼んで、つらい日々を乗り越えるための日課の一つとなっていたわけです。
私ももともとはブログに毒をぶちまけようと思っていたクチです。
今でもたまに毒を吐いていますが、毒を吐くたびに虚しさが募るというのもとても分かります。
とは言え、理想の姿をつらつらと文章に書いて手紙を出すか?というとそれはちょっとむずかしいかもしれません。
しかし、毒を吐くよりも夢を書くほうがよいと判断した直美は間違っていませんでしたね。
またちょっとした言葉の綾で仲違いしてしまった高校時代の友人。
やり場のない怒りを自分とは立場の違う彼女にぶつけた気持ちもわかるんです。
負の感情を吐き出すこと自体は否定しません。
ガス抜きは誰しも必要だと思います。
ただ、それが常態化し、当たり前となってしまうと、全てが負のエネルギーに包まれてしまい、プラス思考の考えというものはどんどん否定されてしまいます。
高校時代のテニス部の友人の伊織、彼女の言葉のおかげで救われたんですね。
マイナス思考からプラス思考へ、それが人生を変えていく、彼女は確実に良い方向へ人生の舵を切ることができました。
「嘘」から始まった手紙でしたが、それを読んだ今井洋輝も、自分の心に正直になっていきます。
すぐには実現できないけれど、夢を諦める必要なんてないんです。
直美の夫もとても素敵な人柄なんですが、洋輝の婚約者も本当に良いパートナーです。
こんな人を手放してはいけません。
でもその人のために自分の素直な気持ちを封印してしまうのは、結局は自分の人生を生きておらず、「誰か」のための人生を生きてきたという後悔に繋がります。
そんな人生にしたくないと思い始めるのですね。
「成功者」としてまばゆいばかりに感じている手紙の中の直美さんの影響を受けて、彼は自分の人生をもう一度練り直していきます。

この物語に登場する人物には、底意地の悪い人は本当にいません。
実は現実社会でも本当に底意地の悪い人と言うのはあんまりいないと思っています。
ただ、立場であったり、仕事であったりするため、言葉の出し方、受け止め方で大きく変わってくるものなんですね。

森沢さんの本、文章はとても読みやすくて、読書というエンターテイメントを楽しませてくれます。
この本も読みやすくてスラスラと読めてしまいます。
読後感もとてもいいです。
オススメですね。

 

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