悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

ライアの祈り 森沢明夫

森沢明夫さんのジーンとくるお話です。
物語を簡単にまとめるとバツイチ女性の恋愛のお話ということになるのですが、そんな単純なものではないです。
そんなに重くはないけれど、誰でも物語があります。
この小説の主人公もその一人。
読んでいて幸せな気分になれる、そんな物語。
そういう物語を書かせたら本当に森沢明夫さんは抜群にうまいというか、読んでいて心が洗われます。

登場人物

大森桃子
主人公。
八戸市のメガネチェーン店の店長。
実家は弘前市にある百年も続く老舗の食堂です。
男前な明るい性格ですが、バツイチで、誰にも打ち明けていないことが彼女の悩ませています。

佐久間五朗
合コンの数合わせにやってきた40歳の独身男性。
通称クマゴロウ。
縄文文化を探究する考古学者です。


桃子のお店で働く若い女性。
とても気立てがよく、女性から見てもうっとりするほどの美女。

ライア
太古の時代。
男勝りの彼女はすばしっこく、弓の腕前もあって若いながらも狩人として生きて行くつもりでした。
巨大なイノシシとの遭遇、死闘を繰り広げ負傷し、狩人ではなくシャーマンとして新たな人生を歩み始めます。

 

マウル
ライアと同じく両親を失った孤児で、ライアとともに長老の家族として育てられています。
ライアにとっては頼もしい兄ですが…。

サラ
ライアの幼なじみ。
いつもライアのことを心配してくれている優しく美しい少女です。

 

あらすじ

メガネチェーン店の雇われ店長である大森桃子はバツイチながら大変元気な女性です。
店で働くアルバイトの桜ちゃんに誘われて、合コンの人数合わせにつきあわされることになりました。
そこでは、男性陣にも人数合わせでやってきた40歳くらいの大柄でのっそりとした男性がいました。
佐久間五朗という考古学者で縄文時代の研究をしています。
ふたりとも人数合わせでやってきたのなら、ふたりともいなくても良かったということであり、お互いに笑い合いながら、意気投合します。

その後、2人はお互いのことを認め合いながらも惹かれ合いますが、そのまますんなり行かないものなのです。
桃子の心をかき乱した一本の電話。
そして桃子の過去を知らないクマゴロウの一言によって、二人の仲はギクシャクしてしまいます。
しかし彼らの運命は1万年の過去を超えた結びつきを感じさせる「奇跡」が待っているのでした。

感想

またしてもやっっちゃいました。
事前に何も確認せずに、適当に読み始めてしまったのでした。
この本を読む前に「津軽百年食堂」を読むべきでした。
そのほうがキャラクターのバックグラウンドがわかってより楽しめるのでしょう。
とは言え、読まなくても何も違和感なく楽しめる小説でもあります。

現世であるこの時代と過去(縄文時代)とがリンクしている不思議な小説ですね。
出てくるキャラクターがまた良いのです。
登場人物はほとんど善人ばかりで読んでいて気持ちが良いのですが、それだけだとやっぱりアクセントがない。
というわけでこの小説において、アクセントになっているのは別れた夫ですね。
(あと、元夫の母、つまり義母ですかね)
ほとんど登場シーンはありませんが、タイミング的に登場してすぐに吐いた言葉が桃子の心を深く傷つけてしまいますが、結果として彼女のもやもやを一気に解決するきっかけともなりましたね。
家族ってやっぱり大切な絆。
大森家は本当に素敵な家族ですね。

この物語は大森桃子と佐久間五朗との恋愛が中心でもあるのですが、このモッサイ感じのクマゴロウがいい味を出してくれています。
まるで「ヒガルの卵」に登場していた主人公のムーさんそのものですね。
もちろん無効は養鶏場の経営者で、クマゴロウは考古学者ですが、大変似たキャラクターをしています。
見た目はアレですが、懐が深く不器用でいて、とても優しい男性です。
メインは桃子さんとクマゴロウさんとの恋愛。
そして桃子さんの過去、バツイチの原因となった心の闇を打破する、そんな物語です。
主人王の大森桃子さんはとても魅力的な女性で、男性からも女性からもモテまくる人。
たまにいますよね、そういう魅力のある人って。
でも、実際は心の中にぽっかり穴の空いたところがあったりするのですが、まわりは気づかないものなんです。
クマゴロウさんは女性の心の機微がわかる人ではありませんが、善人を絵に描いたような人ですから、桃子さんにとって心の拠り所となっていきます。

お互い惹かれ合って、結ばれるハッピーなお話なのですが、縄文時代の話がこの物語には間に挟まれています。
というか、タイトルは「ライアの祈り」。
ライアは縄文時代に生きていた少女です。
狩人として男まさりな彼女でしたが、怪我をしたことによって狩人になることを諦め、シャーマンとして生きていくことになります。
このあたりのはるかに古い時代とのクロスオーバーがまたこの小説の魅力となっています。

 

この小説を読んだ後、大森食堂の原点となる「津軽百年食堂」を読みました。
そのお話はまた次の機会にしたいと思います。

面白かったですよ。

 

 

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