悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

エミリの小さな包丁 森沢明夫

 

以前に読んた「ヒカルの卵」。

この小説がよかったので、この作品を手にとって読んでみる気になりました。

「ヒカルの卵」は山奥の限界過疎集落が舞台。

 

tails-of-devil.hatenablog.com

 

「エミリの小さな包丁」は海辺の小さな田舎町がぶたいですが、主人公エミリが都会から逃げてきたところから、始まります。

 

 

目次

プロローグ

第一章 猫になりたい カサゴの味噌汁

第二章 ビーチサンダル アジの水なます

第三章 彼女の毒 サバの炊かず飯

第四章 夜のブランコ チダイの酢〆

第五章 失恋ハイタッチ 早良のマーマレード焼き

第六章 やさしい武器 黒鯛の胡麻だれ茶漬け

エピローグ

登場人物

エミリ
タイトルにもなっている通り、この本の主人公。
あまり目立たず、友達も少ない。
とあることが原因で、都会から逃げ出します。

大三
もうひとりの重要人物がおじいちゃんの大三さん。
御年80歳にもなる老人ですが、無口で無骨。
風鈴作りを生業にしている職人気質で、ちょっと人が近寄りがたい雰囲気を纏っています。
釣りの名人であり、この作品で数々の美味しい料理を見せてくれる料理の達人でもあります。



 

あらすじ

両親が子供の頃に離婚し、母はとっかえひっかえ新しい男を作っているような女性でした。
兄は高校卒業後にそんな家を飛び出し、今はアメリカで暮らしています。
エミリは街で働いていましたが、耐えられない出来事があって、逃げるようにして「海のおじいちゃん」のところへ転がり込むのでした。

おじいちゃんは母方の祖父で大三という風鈴作りをしている人。
寡黙で近づきがたい雰囲気はありますが、釣りの名人であり、料理もとても上手なのです。
エミリが転がり込んできた日に、一緒に釣り上げたカサゴを料理して振る舞ってくれました。

龍浦という街は、海が近い綺麗なところですが、若者がほとんどいない田舎です。
それでもこの土地には同世代くらいの若者もいるのです。
一人は漁業をする心平さん。
そしてもうひとりはカフェを営みながらも、良い波が来ると店を放り出して海へと行くサーファーの直人さん。
心平さんと同級生で仲良しだが、エミリはすぐに気になる存在になります。

そしてエミリにはとても気になる人がいました。
直人さんと幼なじみの京香さん。
この街には似合わないほど洗練された美人で、人のあしらいもとても上手な方です。
直人さんとの関係がとても気になるエミリでしたが、ライバルにもならないほど素晴らしい人でした。

この街にも慣れ、きれいな海で釣りをし、美味しい魚の絶品料理を食べることで、癒やされてきたエミリ。
そしてエミリがいることで街の食堂へ働きに出ることになったおじいちゃんの大三さん。

そんなときに街から逃げてきたのに、友人の沙耶が押しかけてくることになりました。
エミリは本当は彼女のことはそれほどスキでもないのですが、もともと友人が少ない彼女にとっては貴重な人間の一人だったのでしょう。
強引に押し切られるようにやってくるのでした。
エミリにとってはあまり会わせたくなかったものの、直人さんや心平さん、京香たちと一緒にお酒を交わすことに。

そこで事件は起きてしまいます。
エミリの過去を知る沙耶は直人さんが目当てですが、京香さんがいることで面白くありません。
お酒が深酒になり、絡み酒となって、エミリの過去を酒の肴にぶちまけてしまうのでした。


感想

「ヒカルの卵」もとっても良い話でしたよね。
今回の主人公のエミリもとっても魅力的な可愛らしい女性なのですが、自分をアピールすることができずにいつも控えめなのです。
そして幼い頃父を離婚ということで失ってからは、恋愛も歪な方向に進んでしまって、その泥沼から逃げ出してきたんですね。

エミリは全く悪くありません。
ついでにいうなら、エミリの母の麻衣子もきっと同じで悪い母ではないはずです。
そんなことは十分わかっているのが、80年という長い人生を武器にしている大三さんです。
彼の作る風鈴はとても味わいがあり、趣があります。
この小説の所々に挿入される-凛-という音。
これは音を表しているのか、心の音を表しているのかはわかりませんが、良いタイミングでエミリのところに響いてくるのです。

そしてこの小説は料理、グルメの小説でもあります。
こういう小説としては「鴨川食堂」と言うシリーズがありますが、あれとちょっぴり近いかも知れません。
あの小説は短編で、それぞれの登場人物の人生を描いていますので、ドラマ「深夜食堂」に近いといったほうがい良いですかね。
鴨川食堂でも毎度食事の説明があるのですが、この小説でも大三じいちゃんが手作りの料理の解説があるのです。
おそらくどんな料亭へ行っても食べられないだろうな、と思わせるような逸品があるのです。

自称エミリの友人である沙耶は、もうメチャムカつく女で、この小説にはなくてはならないヒールです。
彼女の見たエミリは、男に上手に媚びて要領よく生きるずる賢い女に見えているらしいです。
人を見る目はその人を鏡のように映し出すと言いますが、まさにそれはそのまま自分のことを表しているのでしょう。
結局は魅力的なエミリに強い「嫉妬」をしていたのでしょう。
だからこそ、彼女をこき下ろすことによってのみ自分の存在が確認できるというか、悲しい人ですね。

 

最後は本当にほろりとさせてくれます。
良い小説ですので、興味のある方はぜひお読みくださいね。

オススメします。

 

 



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