悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

津軽百年食堂 森沢明夫

順序を間違えたのですが、先日「ライアの祈り」を読んでから、こちらを読みました。
森沢明夫さんらしい、ホロリとするポイントがいくつもあって、読んでいて気持ちが良いですね。
エンディングもハッピーな気持ちになれるので、言うことないです。

 

tails-of-devil.hatenablog.com

 

登場人物

森陽一
この物語の主人公。
百年も続く大森食堂の4代目となります。


筒井七海
陽一の彼女。
惚れ込んだカメラマンに押しかけて弟子になったカメラ女子です。

大森哲夫
大森食堂3代目。
陽一の父親です。

大森明子
大森食堂のおかみさん、つまり哲夫の妻で用意地の母親です。

大森賢治
大森食堂の初代、創業者です。

大森桃子
今回は脇役ですが、存在感たっぷりの陽一の姉。
弟とは違って前向きで明るくパワフルな女性です。




あらすじ

弘前で3代にわたって続く老舗の食堂、大森食堂があります。
創業者の方針を守り、変わらぬ津軽そばを食べさせてくれる貴重なお店です。
3代目店主の大森哲夫は、今日も変わらぬ仕事をこなしています。
哲夫は麺打ちを、妻の明子は出汁を担当しています。
そして今朝の出汁の出来具合を確かめるのも店主の重要な役割です。
哲夫には長女の桃子と長男の陽一という子供がいます。
桃子はデザインの仕事で上京し、そこで知り合った男性と結婚したものの、うまく行かず離婚。
今は帰郷し、地元のめがね店で働いています。
陽一は大学に入った後、修行として中華料理店で働いていましたが、途中で辞めてしまい、今は広告代理店の仕事をしていると言っています。
ある朝、哲夫は怪我をしてしまいました。

陽一はピエロの格好で特技であるバルーンアートを披露しています。
華やかな東京ぐらしですが、彼の仕事はピエロでショッピングモールなどでバルーンアートを作って、子どもたちに上げることでした。
あるいは、老人会や子供会などで、バルーンアートの講師などもやっています。
食堂の一人息子として、父の背中を見て育った陽一は食堂を継ぐものと思っていました。
父である哲夫の方針で中華料理店に見習いとして就職します。
ところが、その店で喧嘩をして辞めてしまいました。
大抵のことは辛抱強い人間でしたが、自分の父をバカにされた事に腹を立てたためでした。
その後、学生時代からの特技であったバルーンアートの技術を生かして、このような仕事をすることになっていたのです。

筒井七海はプロカメラマンの卵。
彼女は一人娘でしたが、自分の師匠の写真に惚れ込み、夢を実現するために、両親は東京へ送り出してくれました。
厳しい師匠のもとで修行中です。

あるショッピングモールでピエロの陽一は、怒鳴りつけられている若い助手の姿を見ています。
ちょっとしたことで、2人は会話をすることになり、お互い青森県出身ということがわかりました。
それどころか、陽一の高校の後輩であることがわかり、仕事の後、食事をすることになりました。
2人は意気投合し、やがてなくてはならない大切な人になっていきます。

東京での生活を満喫している2人でしたが、陽一がいずれ大森食堂を継ぐために戻るのではないかと七海は思っています。
陽一のほうは父親に顔向けできない自分の立場をはじているのです。

そんな時に姉の桃子から連絡がありました。
父親が交通事故にあったと言うのです。
命に別条はないが、たまには帰ってきて父親を助けてあげてほしいというのでした。


感想

青森県で百年も続く大森食堂。
老舗には違いないですが、決して華やかでもなく、家族の協力があって初めて成り立つ素朴な食堂のお話です。
大森食堂の創業時の話もあり、その頃から麺は主人の仕事、出汁は妻の仕事となっているのは今も変わらず。
そして出汁の出来栄えを朝にチェックするのもやっぱり主人の仕事というのも変わっていません。
この店の主人はよく働き、そして妻もそれに答えています。
2代目のような人もいるのが、「あるある」と言う気もしますが、それでも店を潰さずに繋いできたのは凄い。
ただ黙々と働く父の背中を見て育った陽一は、意気地なしでもなんでもなく、生き方が下手と言うか、今の時代には損なタイプです。
そんな陽一の本当の姿を知っているのは両親や姉はもちろんですが、ひょんな事で知り合った同郷の七海がすぐにその人柄にひかれていきます。
百年続く食堂の物語ですが、同時に陽一と七海の恋愛物語でもあり、ほっこりとすると同時に甘酸っぱい気持ちにもなります。

森沢さんの本で、今回はとんでもない悪人というのはほぼ登場しませんが、ちゃんと2人がスムーズにくっつくわけではなく、ギクシャクしてしまうところなんかも微笑ましい。
もう、登場人物が出揃ったときに先が読めてしまうようなところはありますが、推理小説ではないので、二人の先をじっくりと楽しみながら読んでいました。

ドロドロした不倫小説何かとは違い、爽やかな恋愛小説でもあり、読みながらも応援したくなります。

陽一の高校時代の陸上部の仲間も、いい奴なんですね。

 

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