悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

踊る手なが猿 島田荘司

画像はAmazonより

島田荘司さんの短編集です。
通勤時にいつも通り、愛機Kindle Paperwhiteで読みました。
短編集となっていますが、1話のボリュームはあります。

踊る手なが猿

新宿地下街の喫茶店に勤める三十路の女性、亀永純子。
この店の雇われ店長の田川とは、ただならぬ仲。
向かいのケーキ店には「手なが猿」の人形が飾ってあり、その腕にはリボンが巻かれています。
そしてそのリボンは時々、その位置を変えているのです。
変えているのはその店の娘らしき若い女性。
父と娘の二人で営んでいる店のようですが、母親の姿はありません。
この店の主人は60歳くらいの地味な男性。
優しくておっとりした性格。
一方の娘の方は明るく快活なタイプで、性格は随分と違うようです。

田川はときおり店をベテラン店員の純子に任せていなくなることがありました。
この日も田川は戻ってきませんでした。
翌日警察から事情聴取を受けることになります。
田川が昨夜亡くなったのです。
遺書があるので自殺とされていますが、自殺のはずがないと純子は思うのです。

Y字路

アルファ・ロメオ・スパイダーのオープンカーに乗っている美しい女性三田瑛子。
彼女は多摩川にある小洒落たマンションに住んでいます。
坂道にある建物で駐車場が一つあり、そこにこの車を停めています。
婚約者の山岸はお金持ちのボンボンで、知り合ったのは彼女が銀座のホステス時代。
山岸の一目惚れでしたが、彼女も玉の輿に乗るチャンスなのです。
山岸の母親はこの結婚にはそもそも反対。
銀座のホステスということは内緒にしているので、今は銀座勤めを辞めて青山のブティックの手伝いをしています。

ある日、勤務から戻ると見知らぬ男性が彼女の部屋で死んでいました。
うろたえる瑛子は山岸に連絡を取ります。
最初は警察に連絡するしかないと考えていた二人ですが、山岸の母は瑛子のことをよく思っていません。
こんな「事件」に巻き込まれると、結婚も水に流れてしまう恐れがありました。
そこで二人は事故を作り上げる計画を即興で立てるのでした。

赤と白の殺意

子供の頃に住んでいた軽井沢に父親の別荘がありました。
しかし父は事業に失敗し、軽井沢の別荘を手放してしまいます。
大人になってからも彼は軽井沢には行くことがありませんでした。
友人と色んなところへ出かけるのですが、軽井沢だけは避けているのです。
なぜそうなのかは自分でもわからないのですが、非常に嫌悪感が湧いてくるのです。

暗闇団子

校舎改築工事中に人骨が発掘され、考古学者に依頼が来ます。
発掘作業で驚くほどの繊細な細工を施した櫛を発見します。
それとともに当時の資料からとても興味深い文章を発見します。
「お告げ 小塚原、新吉原、浅草寺
三冥府、南より一本の竹串で貫くは暗闇団子なり。櫛のたもとにて食せば、怒りたち街にして鎮まるべし。」


感想

タイトルになっている「踊る手なが猿」とは「新宿の地下街図」のことで、それを発見した純子はすごい執念ですね。
この作品にはこの秘密のやり取りと年の離れた夫婦というトリックがあり、それとともに田川の女癖の悪さも後に露呈します。
本当に2時間もののサスペンスにぴったりな題材だと思いました。
よくできていますね。


「Y字路」もとても楽しく読めました。
ただ、ちょっと作り込みすぎているというか出来すぎています。
玉の輿に乗るということで周りが見えなくなった若き主人公が哀れですね。
大阪の下町の駄菓子屋の娘というのも個人的には親しみを感じてしまいますし、気の毒ですね。
捜査に当たった吉敷刑事も気の毒に感じていたようです。

「赤と白の殺意」も良い雰囲気の作品なのですが、良作揃いの中では地味ですね。
読む順序が違えば評価も変わるかもしれませんが、私の中では印象は薄めでした。


「暗闇団子」がこの短編集では圧倒的に良かったです。
島田荘司さんの作品でこんな時代劇タッチのものがあるとは知りませんでした。
もともとこういう江戸の長屋、八丁堀、深町を舞台にした時代小説というのが好きなのかもしれません。
過去には宇江佐真理さんの「髪結い伊三次」シリーズを読んだりしたものです。

 

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とにかく花魁と主人公の四方助(よもすけ)の恋のものがたりなんですが、ちゃんと時代を超えたミステリーとして成り立っています。
ミステリーと言うよりは江戸の下町人情劇なんですけどね。
とにかく最後の作品が一番面白かったので、3作目の印象がとても薄くなってしまったなあとも思ってしまいます。

 

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