悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

シャイロックの子供たち 池井戸潤原作の映画

画像は公式サイトより

池井戸潤さんの小説を映画化したものなんですね。
妻が見たいと言っていたので一緒に視聴しました。
面白かったですね。

映画の概要

原作:池井戸潤

監督:本木克英

脚本:ツバキミチオ

公開:2023年

上映時間:122分

キャスト

西木雅博:阿部サダヲ
主人公。
個人的にはとても不幸な状態にあるのですが、明るく前向きで銀行員として守るべき倫理観も高い人物。
支店の内勤の課長代理です。

滝野真:佐藤隆太
赤坂支店から転勤してきて間もない営業担当(外回り)。
妻子持ちで立派な自宅を所有。
この店の外回りの職員の中ではエース。

九条馨:柳葉敏郎
東京第一銀行長原支店店長で部下を怒鳴りつけたりはしません。

北川愛理:上戸彩
西木の直属の部下で信頼の厚い人物。
彼女もプライベートではかなり重い立場にありますが、志戸子には真摯に取り組んでいます。

田端洋司:玉森裕太
若手の営業外回りの担当者。
外資系の職場への転職を考えています。

古川一夫:杉本哲太
東京第一銀行長原支店副店長。
店長の代わりに怒鳴りまくるパワハラ人物。
上にはヘコヘコするものの、下には怒鳴り散らし、出世のためにキャリアに傷がつくことを恐れています。

黒田道春:佐々木蔵之介
東京第一銀行検査部次長。
かつては営業店勤務していましたが、現在は出世コースから外れた検査部にいます。


石本浩一:橋爪功
元は赤坂店で滝野担当と浅からぬ仲の顧客です。
表向きは不動産業を手掛けていますが、この物語の事件の鍵を握る人物。

 

沢崎肇:柄本明
テナントビルのオーナーですが、問題の物件を多数抱えており、飲み友達の西木二相談を持ちかけます。

画像は公式サイトより

あらすじ

お金を借りた人間は返さなければいけない。
ただ、返せばそれで良いというわけではない。
シェイクスピアの劇「ヴェニスの商人」を観劇していた夫婦ですが、男はポツリと呟きます。
「金は返せばそれでいいというわけではない」と。

東京第一銀行長原支店。
元気よく業務にあたろうとしているのは内勤の役職である西木雅博。
そしてオープンしてすぐに登場したのは西木の知り合いである沢崎でした。

赤坂支店から転勤になった滝野は外回りの人物。
数字は常に上げていく優秀な行員です。
この店においてもメキメキと頭角を表しますが、赤坂店で担当していた顧客の石本が彼につきまといだします。
もちろん顧客が銀行員にまとわりつくのには理由があり、それは融資を受けたいがためでした。
すでに自分は長原店の人間であり、赤坂店に相談するように告げますが、石本は滝野との「浅からぬ仲」であることをちらつかせて、無視させません。

長原支店は支店長の九条は物静かですが、その分副支店長の古川が毎朝、営業部隊を怒鳴りつけるのが日課です。
そんな中、転属になって間もないもののしっかりとした顧客管理をする滝野は期待値も高いのです。
数字が足りないため、滝野は石本からの融資希望の案件を持ち出しました。
10億円もの巨大な融資。
数字は埋まりましたが、問題はその後の管理。
石本は3ヶ月目には支払いが滞り、利息も払えないのでジャンプさせてほしいといいます。
そして当面100万円ほど都合をつけてくれと、なんとも虫の良いことを言うのです。
滝野はついに店のお金に手を付けてしまうのですが、成績優秀な滝野を疑う人物は皆無。
しかし、ゴミ箱を漁るなどの地道な作業で西木は振込伝票を発見します。
この振込伝票が何を意味するのかはすぐに分かりました。
ところが、100万円が紛失したのは行員の泥棒が原因で、その犯人の濡れ衣を着せられたのが西木の直属の部下の北川さんでした。
100万円紛失事件は一体どうなるのか?
また不良債権となってしまう10億円の融資はどうなってしまうのか?

感想

テレビドラマにもなっていたのですね。
全然知らなかったです。
キャストは映画版のほうが断然よろしいかと思います。
やはり主人公である阿部サダヲさんがとってもいい味をだしていますよね。
この映画ってなかなか殺伐としたテーマですけれど、コミカルでとてもいい人を演じきっていて、だいぶん救われた気がします。
脚本のツバキミチオって誰やねん?って思っていたら、なんと原作者の池井戸潤さんの別名らしいです。
そしてこの映画の内容は完全オリジナル。
いわば映画のために原作者による完全書き下ろし作品でもあるわけですね。
キャスティングが良かったですね。
胡散臭い奴を演じてくれたのが、橋爪功さんですが、まさにこれくらいのクラスになるとどんな役柄もそれなりの雰囲気をまとって演じてくれます。
終盤に彼の対抗馬として活躍する柄本明さんもやはり胡散臭さがものすごくていい感じでした。
副店長役の杉本哲太さん。
本来はこういう人物ではないと思うのですが、朝の会議から怒鳴り散らしている雰囲気が、実際の営業店の雰囲気と似ていると感じました。
私は大手銀行に努めたことはありませんが、短いサラリーマン生活で金融機関の営業店にもいましたので、殺伐として怒鳴り声というのもわかります。
朝、店を開ける前に金庫を開けて、それぞれのキャビネットなんかもそこから引っ張り出すというのも独特です。
お金を扱う商売、というかお金そのものを大量に扱ってその手数料、利ざや(金利格差)で稼ぐというのが銀行ですので、そこは本当にシビアです。
お金が足りないとどうなるのか?1円でも合わないと帰れないなんてことを言われる業界ですが、まさにそんな感じです。
新人のときに先輩と一緒に集金に行った時のお金が数千円合わず、結局先輩と二人でいったので足りない分を弁償(自腹)した記憶も蘇ってきました。
まあ、集金していたときから不安ではありました。
1000万円位を現金で集金したのですが、一万円札は3割位で、残りは千円札と硬貨でしたからね。
それはともかく、この映画では100万円という大金です。
行員が弁償できる金額ではありません。
これは窃盗事件であり、本来は警察にいうべき案件ですが、事件として問題となると自分たちの出世に響きます。
そういう意味で管理職の人間たちは「嘘」で終わらせるのです。
100万円くらいなら自腹を切ってもそういう選択をするというのですから、一部上場の銀行の所得って相当に高いのですかね。
それとも表には見えないお金を持っているのか、どちらかでしょう。
まあともかく主人公の西木たちの活躍によって、この事件は解決し、黒幕を懲らしめる、「倍返しだ!」ということなります。
最終的にはこの物語はハッピーエンド?なのでしょう。
そういう意味で精神的にたいへん救われる内容でしたが、気に入らない点もあります。
これが現実?ということかもしれませんが。

まずは同じ店舗にいる人間を陥れようとした行員。
ほんの出来心で?って、それはないでしょう。
許されざる行為です。
誤って済む問題じゃないです。
盗んだ犯人とされた女子行員に対して支店の役職者もそう思っていたわけですね。
犯人と決めつけていた上席は、どの面下げてその行員に指導ができるのでしょうね。
個人的にはこの部分にもめちゃくちゃ憤りがありましたが、この映画の本質の部分ではないので、軽くスルーされましたね。

2つ目は刑務所から出てくるラストシーンです。
「刑務所から出てくるのは彼ではないでしょう」と思います。
末端ばかりを罰して巨悪は罰することができない、今の世相をそのまま表しているのなら、これを書いた池井戸潤さんはなかなか裏の裏まで考えている人なんだろうなあと思います。

後、佐藤隆太さんの配役が良かったです。
佐藤さんといえば、何と言ってもビッグモーターのイメージキャラクターですよね。
彼のイメージは「ビッグモーター」によって相当に傷ついたと思いますが、この映画でも「嘘つき」の片棒を担がされてしまうものの、本質は善良な役柄です。

この映画には悪いことだとわかっていながらも抗えない人たちが登場します。
佐々木蔵之介が演じる黒田しかりですが、支店長もギャンブル依存症
話題になっている水原元通訳もそうですよね。

もう一点余計なことついでに書いておきたいですね。
銀行員って、転勤が多いです。
特に顧客担当、外回りの人間は転勤がつきものです。
その理由は、やはり顧客との関係が深くなりすぎるのを防ぐためと言われています。
銀行員(サラリーマン)はいくらエリートであっても使えるお金は限られています。
一方の顧客は商売が順調なら潤沢な資金が手元にあります。
商売や会社経営をしている彼らは、お金をとても大切にしますし、基本的に細かい人(=ケチ)が多いのですが、それにもかかわらず、銀行員、担当者に小遣いを渡すということが、度々起きます。
私なんかは新人でしたし、そういう顧客からは当然全く相手にされていなかったのですが、上司と一緒に外回りをしたときに、上司とともにお昼ご飯をごちそうになったりとかもありました。
休暇に海外旅行に行くといえば、小遣いをもらったり、挙句の果てには車を買ってもらったり、持ち家の頭金を出してもらったりとかもあるみたいですね。
なぜ顧客が銀行マンに接待をするようなことがあるのか?というのはやはりそこに損得勘定が働くからでしょう。
電話一本で建て替えておいたり、振込が間に合わなかったら代理で行ったりと、まるで私設秘書のような動きになってしまう行員もいるでしょうね。
みんなお金は大好きです。
資本主義で生きているとお金のもつ力には抗えませんから。
でもね、銀行員がお金に魂を売ってしまったらもうおしまいなんです。
商売には大きなお金が動きますが、常にプラス、なんてことは商売にはありません。
プラスに振れれば、マイナスに振れてしまうこともあるんです。
そんな時、商売人は背に腹を変えられません。
特定のお客様に恩義を感じてしまうと、そこに不正が発生します。
恩義というのがつまり個人的に色々とかわいがってもらったということですね。
ここで行員という一個人について述べていますが、これ、政治家と言い換えてもいいです。
お金のために嘘八百を並べて平然としている人々。
選挙資金やら票の取りまとめやら、とても世話になっている人たち=後援会の人を始めとした利権集団ですね。
そういう人達に頼まれて、嫌とは言えない。
もし嫌とか拒否をしようものなら次の選挙で手痛いしっぺ返しが来るでしょう。
あるいはとてつもないスキャンダルをリークされたりとか。

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