悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

震える天秤 染井為人

染井為人さんの「震える天秤」という小説を読みました。
今まで2作品を読んだのですが、今回の作品もとても面白かったですね。

デビュー作品で評価の高い「悪い夏」。
コメディ要素もあるのですが、題材が生活保護やら貧困やらで、それを笑いに昇華するには渇いた笑いしか出てこないという感じでした。

tails-of-devil.hatenablog.com

 

 

2本目はYouTuberで動画配信で人気ものになったダメ人間が、ヤクザな仕事に手を染めている本物のクズを懲らしめようとして、その人間とともにさらなるクズをぶちのめすという痛快な小説でした。

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登場人物

俊藤律
フリーライター
150ccのベスパに乗って東京からやってきました。

 

里美
律の離婚した元妻。
裁判官。

石橋昇流
福井県にあるコンビニエンスストアの店長。
オーナーは彼の父。
軽トラックが店に突っ込んできたために死亡しました。

 

石橋宏
事故のあったコンビニオーナー。
本業は金融業。

 

内方七海
埜ケ谷村出身の17歳の女性。
このコンビニでアルバイトしています。

落井正三
埜ケ谷村出身の老人。
軽トラックを運転してコンビニに突っ込んだ当事者ですが、老人性の痴呆のため、当時のことをあまり覚えていないと言います。

あらすじ

とことん真実を究明しないと気がすまないフリーライターの俊藤律は、高齢者の運転問題についてと言うテーマで記事を書くことになりました。
福井県で起きた高齢者の運転する軽トラックがコンビニエンスストアに突っ込むという悲惨な事故があり、店長がそれに巻き込まれて死亡したと言う事件がきっかけで、現地に取材に行くことになりました。
事故のあったコンビニの店長は石橋昇流。
ほぼ即死だったようです。
コンビニの状態は事故当時のままでした。
オーナーは店長の父親の石橋宏ですが、彼の本業は金融業で、金の亡者のような人物。
亡くなった石橋昇流は石橋宏の拾の息子ではなく、再婚した妻の連れ子でした。
そのためとてもドライで、亡くなった息子の補償が彼にとってはいちばん大切な状況。
ところが加害者は落井正三という86歳の老人で、事故当時のことをあまり覚えていないと言います。

 

感想

今回の小説は、タイトルからはどういう小説家全く想像がつきませんでした。
ただ、読み始めると徐々に引き込まれていきます。
初めは、高齢者の運転問題についてのシビアな話があり、意外な感じでした。
ところが、謎の美少女七海が事故のあったコンビニでバイトしていたこと、また、彼女も埜ケ谷村出身で、主人公が調べていくと「これは単純な事故じゃない」というふうに思えてきます。
このあたりがこの物語の肝で、面白かったところですね。
謎解き要素というほどの推理小説っぽさはないのですが、埜ケ谷村という特別な地域の住人たちが絡んでいるので、深読みしてしまいたくなります。
中盤から後半にかけてはどんどんこの事件にまつわるバックグラウンドが明るみに出てきます。
同時になんとも言えない悲しい出来事に対する憤りとともに「私刑」に対する同情する気持ちも大きくなっていきます。
もちろんどんなに悪い人間であってもこれが事故ではなく、計画された「殺人」ならば、その行為は許されるものではないのですが、心情的には「よくやった」と思ってしまうんですね。
そして物語を面白くするキャラクター、特に亡くなったコンビニ店長のオーナーで父親の石橋宏は成金によくあるタイプですが、あまり仲良くなりたくないタイプですね。
物語の中では際立ったキャラクターです。
最初は犯罪に絡んでくるのでは?と思っていましたが、物語を読み進めるうちに同情したくなるところもありました。
まあ、義理とはいえ、息子が死んだけれども全く悲しむ素振りも見せなかったことはこの人の人間性ではなかったのでしょう。
おそらく義理の息子がまともな人間であったなら、こういう人物でもまともな悲しみ方をしたのだろうと思いますね。
謎めいた存在感を放つ美少女の内方七海とボケ老人とは程遠い感じの落井正三との関係もまたミステリアスです。
染井為人さんの本はストーリーはもちろん、展開もスピーディで飽きさせず、気がついたら読み終えてしまったという感じです。
後もう少し読みたい~と思わせるような絶妙なボリューム感も良かったですね。

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