いつものように通勤で読んだ本です。
伊坂幸太郎さんは、超売れっ子の作家さんですね。
いくつか本を読みましたが、この作品も有名です。
というか、この作品がデビュー作なんですね。
デビュー作がいきなり注目される!
売れっ子にはそういうのが必要なのでしょうね。
長年注目されなかった作家が、ある作品をきっかけに売れる場合もありますが、多くの人気作家さんはデビュー作からすごいものを書いているようですね。
登場人物
伊藤
この物語の主人公。
ソフトウェア会社を辞めた28歳。
日比野
荻島案内人
優午
予知能力のあるカカシ
草薙
島の郵便配達員。
百合
草薙の妻。
城山
元同級生で今は警官
轟
荻島
静香
伊藤の元恋人。
園山
島の住人。妻を失い、気がふれた元画家
田中
足の不自由な島の住人
祖母
伊藤の祖母。
伊藤は彼女の影響を強く受けて育つ。
桜
島の住人。拳銃を所持し、島の住民を殺す人。
簡単なあらすじ
伊藤はなんとなく仕事をやめてしまいます。
そしてコンビニ強盗ということをやらかしてしまいます。
正確には強盗は成立しなかったので未遂でしたが、警察に捕まりました。
その時の警官が同級生であった城山でした。
恐ろしい城山から逃れるために、パトカーが事故を起こしたスキに逃走。
気がついたときには知らない場所で寝ていたのです。
そこは荻島という日本には存在が認識されていない孤島でした。
連れてきたのは轟という熊のような鈍重な男。
そして島の案内役を買って出てくれたのが日比野という島のペンキ屋でした。
この長閑な島では、普通の日本の国とはどこかが違っています。
未来予知ができるカカシの優午と会い、驚くものの、伊藤はその不思議さを受け入れます。
そして伊藤は優午から色んな話を聞いていくのです。
善人を絵に書いたような郵便配達人の草薙夫婦がいます。
草薙は妻の百合をこよなく愛する人物です。
また妻をなくした元画家の園山や足の不自由な田中と言った独特な島の住民たち。
市場にも巨体過ぎて動くことができないウサギという女性や地面に寝転がって自分の心臓の音を確かめる少女などユニークな人物たちと触れ合っていきます。
のどかな島ですが、結構殺人があるのです。
そしてその殺人のうち一部は、島全体に認められていることでもあるのです。
処刑執行人のような存在の桜です。
彼は大変美しい姿をもち、詩を愛する静かな人です。
ある日、優午が殺されました。
未来が予知できる優午なのですが、自分の死を予測することはできなかったのでしょうか?
伊藤は様々なことから有後の殺害事件を突き止めていきます。
感想
胸の谷間にライターをはさんだバニーガールを追いかけているうちに、見知らぬ国へたどり着く、そんな夢を見ていた
という書き出しで始まるこの文章。
純文学ではないですが、大衆文学として今の時代、走り続けている伊坂幸太郎さんのデビュー作ですが、この書き出しを見るだけでも、なにか違うな、と感じさせてくれますよね。
この本には、第一章とかそういう区切りがありません。
伊坂幸太郎さんの本には多いのですが、その代わり、アイコンのような小さなイラストが間に入ります。
こういうやつですね。
上は、主人公の祖母のイラスト。
祖母とのやり取りが描かれるシーンですね。
祖母は孫の人間をよく理解しているのか、彼の未来を予測しているようです。
まるで預言者のように。
なぜ祖母なのか。
主人公の伊藤は幼い頃に両親を事故で失っています。
祖母がいたため、祖母と暮らすことになったのですね。
なので彼の人間形成の上では祖母は外せない人物ということになります。
そしてカカシは預言者優午のシーン。
優午はこの物語にとってはキーマンの一人です。
れっきとしたカカシなのですが、喋ることのできるカカシなんです。
そして彼は未来を知っているのです。
彼の言葉は島の人達にとって重要な意味を持っています。
カカシは未来のことがわかっているのですが、人間にそれを教えることはありません。
未来を教えることを自分で禁じています。
そして人間とは話をするが、親しくしているわけでもありません。
彼の友達は鳥です。
鳥を追い払うのがカカシの役割なのに、そこがまた不思議ですよね。
途中で殺されてしまうという展開なのですが、その謎を解いていくのが主人公です。
冒頭の始まり通り、「不思議の国のアリス」のような不思議な世界ですが、日本です。
ちなみにこの島の存在は日本に知られていません。
唯一日本とこの島人のやり取りができるのが轟という人物なんです。
彼はボートを所有しています。
そして島の人達からのリクエストを受けて物品を調達したり、郵便を出したりします。
知られていない島なのに普通に郵便が出せる?というのがまた不思議な世界なのですが、そういうものと思って読み進めていくしかありません。
違和感はありません。
カカシとの話の中で、リョコウバトの話が出てくるのです。
リョコウバト、とてつもなく大群で移動する渡り鳥で、北米には空を覆い尽くすほど大量に生息していました。
しかし、この大量の渡り鳥はその数の多さもあり、その肉が美味でもあることもあり、あるいは簡単に狩猟できることから、ハンターたちの格好の的となりました。
今とは違い、瞬く間にこの種を絶滅に追い込んでしまいました。
ジョン・ジェームズ・オーデュボンという学者がリョコウバトの絵を詳細に書いて残しました。
この本のタイトルであるオーデュボンは彼の名前です。
タイトルの意味がじんわりとわかるような本ですね。
オーデュボンの祈りはカカシの優午の祈りでもあるのでしょうね。
桜という殺し屋?は特に依頼を受けてお金をもらって殺しているわけでもなく、桜が殺したいと思った人間は有無を言わせず殺害します。
そしてそのことを避難する人は殆どいません。
この島のルールなんですが、これまた伊藤は疑問に思いつつもこの島のルールになじんでいきます。
この桜がめちゃくちゃカッコいいですね。
普通に考えて人殺しなのですが、桜の殺人はそもそも超法規的な存在なのでしょう。
桜による人殺しは、誅殺のようなところもあり、悪いことをしたら桜が現れないかとビビりながら生活をすることになるのです。
ある意味この島の治安を維持する役割とも言えます。
桜のようなキャラクターがいれば、当然悪いやつもいるのです。
この物語では何人か死にますが、「悪」の象徴のような人物が存在します。
この島の人間ではないのですが、島にやってきます。
不思議な世界のゆる~いファンタジー小説のような気もしますが、カカシ殺害事件の犯人を探すというミステリー部分もあります。
謎がたくさんありすぎますが、それらの謎が終盤につながってくるような仕組みになっていて、読後感は良好です。