悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

信仰 村田沙耶香

画像はAmazonより

電子書籍なので、こういう装丁というのは知らないですし、こんな帯がついていたこともブログを書くときに知りました。
そそいて米シャーリィ・ジャクスン賞中編小説部門候補作という何やらすごそうな感じもします。
村田沙耶香さんは「コンビニ人間」で第155回芥川賞を受賞していますので、そもそもすでに評価の高い作家です。
この賞がどれくらいすごいのか?芥川賞と比較してどうなのかということは専門家に任せて、高い評価を受けている本なんだ~と今更ながらに知りました。

 

短編小説集だと思うのですが、中編小説部門とされています。
まあ、星新一さんのようなショートショートではないので、それなりに読み応えはありますが、中編と言うには短いかと。

 

tails-of-devil.hatenablog.com

 

信仰

主人公永岡がチャラい同級生石毛から、カルト宗教を始めてバカどもからお金を分捕ろうという計画を聞きます。
永岡は頭の悪い石毛が詐欺をするなんてことは無理で、友人たちの笑いのネタにしようとそんな計画に乗るつもりはないのに、石毛の誘いにノコノコと話を聞きに行くのです。
しかしそこでは石毛と違い真面目で地味な斉川という同級生もやってきます。
石毛はともかくおとなしい斉川さんに被害が及ぶといけないと思い、永岡は斉川と話をします。
斉川は過去に浄水器を販売するというネズミ講をやっていました。
その結果、多くの信用を失い、借金だけが残ったのです。
彼女は浄水器こそが人間に幸せをもたらすと考えていたのですが、今回のカルトはその時のリベンジだと語るのです。

ホラー小説ではないけれど、不気味です。
コンビニ人間」を面白いと笑い飛ばせる人間には、ジョークとして面白い作品なんだろうと思いますが、私は不気味だと感じました。
主人公永岡は「まとも」だと自分で思っているわけで、読者である私達も最初はそう思っています。
ところが途中でそうではないと気付かされ、何が正しいのか分からなくなります。
浄水器を高値で売りつけるのがマルチで詐欺、それと高級ブランド皿のロンババロンティックがひとつで何十万円もするというのは一体何が違うのか?
ものすごく鋭いです。
「天動説ってどうかな?」という斉川さんもぶっ飛んでいるというか不気味です。
「信仰」とは騙される人というのがこの内容のテーマで、信じる者は救われるということかもしれません。
始まりはカルトだって、それで世界中の人が救われたら、それは真実になるわ。そう思わない?
こういった言葉も怖いですが、こういう内容普通に淡々と小説として文字にしている村田さんってやっぱりなんかすごいですね。

 

生存

未来のお話。
人間をランク付けするお話です。
そのランク付けとは65歳までの生存率。
生存率Aと判定されている彼と生存率C判定の主人公はミスマッチカップル。
生存率アドバイザーのカップルに対するコメントからこの物語は始まります。

この次の作品も傑作でしょう。
生存率で人間を分ける。
大問題になりそうですが、現実にはランクというのはありますし、それを具体的な数字で表している偏差値なんかも同様ですね。


土脉潤起

姉が急に、「私は野生に返る」と言って家を出てから、三年が経った。
という内容で始まるものすごい設定です。
「野人」というキーワードで、一つ前の「生存」の続編?と思ってしまうようなところもあります。
「どみゃくうるおいおこる」というタイトルも怪しげな感じがものすごいですね。

彼らの惑星へ帰っていくこと

「イマジナリー宇宙人」というキーワードが重要です。
こどもの頃から宇宙人は、私にとって人間よりも身近な存在だった。
という文章で始まりますが、この作品が一番「コンビニ人間」に近いかもしれません。
かなり短い作品です。

カルチャーショック

この作品もショートショートですが、ちょっとわからない内容でしたね。

 

気持ちよさという罪

前の作品「カルチャーショック」と同じようなテーマに感じます。
もう一つ前の「彼らの惑星へ帰っていくこと」も根本的には同じテーマを扱っています。
始まりの文章は
子供の頃、大人が「個性」という言葉を安易に使うのが大嫌いだった。

これは小説ではなく、村田さんのエッセイのような作品です。


書かなかった小説

自分のクローンを「だいたいルンバと同じくらいの便利さ」という感覚で家電量販店であるヨドバシカメラのクローン家電コーナーで買ったお話です。
店や商品が具体的すぎて驚きますが、内容は星新一さんのショートショートにとても影響を受けた作品なのかな?と思ってしまいます。
不気味です。
売店ヨドバシカメラの店員のトークに乗せられて4体も同時に購入するんですね。
その後の展開も「不気味の谷」を感じさせます。
結局これは作品として成り立っているのかどうかも不明です。
なので「書かなかった小説」としているのかもしれません。

最後の展覧会

この作品も星新一さんの影響を強く感じる作品でした。
それに村田さんのエッセンスが加わって、ちょっとついていけなかったですね。

 

感想

なにか村田沙耶香さんの生き様が垣間見れるような気がします。

割と謎に包まれている方ですが、「気持ちよさという罪」というエッセイのような作品にヒントがたくさんありそう。
コンビニ人間」を書いた作者はやっぱり「コンビニ人間」の気持ちがわかる人なんだろうという気もしますし。

この作品に出てくる独特の単語、そのネーミングセンスにも驚きます。
ロンババロンティックって言うブランドが本当にあるのかな?と思ってしまったくらいです。
ヒュポーポロラヒュンというのも意味不明ですが、なんだか和む語呂。
トコロンロン星というのもドラゴンボールに出てきそうですね。

 

Copyright ©悪魔の尻尾 All rights reserved.