冬至ですね。
帰宅してオフロに入ったら、柚が入っていました。
嬉しいですね。
きっと母親が買ってきたものだと思います。
さて、本日ご紹介するのは、「コンビニ人間」という小説。
芥川賞作品となったときから気になっていたものの、ずっと読んでいなかった小説です。
そしてKindle Unlimitedにあったので、これは幸いと読んでみました。
登場人物
古倉恵子
この物語の主人公。
コンビニ人間。
大学時代からコンビニアルバイトを続けて18年。
独身、彼氏なし、職歴なし。
店長
コンビニの店長。
オープンしたときからコンビニで働いている主人公にとっては8人目の店長。
白羽
コンビニにアルバイト募集でやってきた男性。
麻美
主人公の実妹。
ごく普通の女性で、姉を心配しつつ、姉に普通に生きていく術を伝えます。
あらすじ
主人公の古倉恵子はこどもの頃からちょっと変わったこどもでした。
幼稚園の頃、小鳥が死んでいて、お母さんが「かわいそうだから、お墓を作って埋めよう」という言葉に対して、「これ、食べよう」と言ったこども。
その理由はお父さんも「焼きとりが好きだから」ということでした。
小学生の頃には男子生徒のケンカを止めるためにスコップで男子生徒の頭を殴りました。
大事になったわけですが、古倉恵子にはケンカを止める最短の方法だと思っての行動で、なぜいけないことなのかがわからないようです。
両親は心配し、カウンセラーなどにも見てもらいましたが、根本的な解決に至らず、大事にならないように目立たぬ学生生活を送りながら、おとなになっていきます。
そんな主人公は大学生となり、コンビニが大学のそばにオープンします。
そこのオープニングスタッフとしてアルバイトを経験することになり、研修を受けます。
そしてそのままコンビニで働くことで彼女はようやく自分が社会の一員、社会の一部品となったことを実感することになりました。
彼女はオープニングからずっとこのコンビニで働き続けている唯一の人物。
オープニングスタッフは当然誰もいませんし、店長でさえ、今の店長は8人目です。
彼女はすでに36歳で、コンビニ勤務18年です。
朝、コンビニに出勤し、必要なことをすべて行い、休憩時間はコンビニの食材を食べ、帰宅してもコンビニの食材や飲料で過ごすため、彼女にとってコンビニは人生のすべてなのです。
そんなコンビニですが、アルバイトの欠勤など人手不足で店長はなかなかゆっくり休みも取れない状態。
新たに人手を探して採用したのが白羽という古倉恵子と同世代の男性でした。
彼は当初から挙動不審であり、仕事はサボるし、愚痴は多いという問題人物。
このアルバイトを選んだ理由が「婚活」という極めて不純で、危ない人物でもありました。
コンビニアルバイトメンバーたちからも白羽は嫌われています。
そんな中、白羽はお店に来る常連の女性の住所を調べていたことが発覚しクビとなります。
そんな白羽が女性の家を付け回しているのを発見したのが主人公で、彼女は純粋にコンビニにとってそういう行為は駄目だから、そんなことをしないでくれといったのでした。
そこからは白羽が自身の置かれている立場を語りだします。
そんな白羽のことを見苦しいともかわいそうとも思うこともない古倉恵子は彼にある提案をするのでした。
感想
この小説はコメディなのでしょうか?ホラーなのでしょうか?
とにかくなんとも言えない不気味さがこの主人公から漂ってきます。
作者の村田沙耶香さんは、仲の良い小説家たちから「クレージー沙耶香」と呼ばれているとか。
さて、この主人公の古倉恵子は犯罪者でもありませんし、性根が悪い人間でもないのです。
むしろ純粋で無垢な人間でしょう。
ただ、この人間の社会に馴染むことができない、感性というか感情というものがどこか壊れてしまっている人物なのでしょう。
だからこそ、どうすることもできないもどかしさがあります。
両親や妹は彼女のことを大変心配していますが、彼女の心の拠り所にはなっていませんし、彼女の理解者ではありません。
そこがまたこの物語の主人公の救いがたいところです。
彼女は「普通」の人ではないことを自覚して社会に溶け込もうと努力しています。
ただ、「普通」とは何か?ということがわかっていません。
なので素直に妹に教えてもらった通りの言い訳や人との溶け込み方を実践するのみ。
理解しての行動ではないので、彼女にとっては非常に辛い行動なのでしょう。
社会というのは「異質」なものを排除しようとします。
そういうことを幼い頃から学んだ彼女は、自分が「異質」であることをわかっていて、「普通」の人、社会から排除されないように必死な姿です。
それは不気味でもあり、決してコメディとして笑える話じゃないなあ、と思います。
マニュアルによって行動指針を示されたコンビニの仕事、そのコンビニで働くことを中心とした生活は彼女にとってはやっと見つけた自分の居場所だったのでしょう。
だからこそ、「普通」を演じるために、白羽と同棲したりするんですね。
白羽のようなダメンズと付き合うということ自体がかなり異常な気もするけれど、36歳独身でコンビニしか働いたことがない人間のほうがよほど「異質」だということですね。
考えてみれば、社会にとって白羽と主人公だとよほど主人公のほうが役に立っていますが、気持ちわるがられるのはきっと彼女の方でしょう。
白羽は気持ちわるがられる以上に嫌われるでしょうけどね。
「普通」ってなんだろうか?と改めて考えてみます。
それは同調圧力の塊のような気もします。
「正欲」のところにもあったあの強烈な「同調圧力」。
その「同調圧力」に対してまったく怯むことなくわが道を進む主人公は、ある意味本当に強い人、「無敵」の人なのですね。
世間では、コンビニアルバイトの経験しかない彼氏なし独身36歳女性というのは、様々な批判にさらされたりするのかもしれませんが、考えてみれば、誰にも迷惑をかけずに生きている彼女を誰が責めることができるのでしょうか。
ただ、社会という器の中で共通の認識がなくバラバラで「無敵」の人ばかりになってしまうと、諍いが耐えず、それを抑えるために長い時間を書けて醸成されてきたものが、コモンセンス、常識、普通というものなのでしょう。
作者の村田沙耶香さんの小説を読むのは初めてですが、小説とはいえ、本当に強烈なキャラを生み出してくれましたね。
大変面白かったですね。