悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

新宿鮫3 屍蘭 大沢在昌

シリーズ3作目です。
いつものように、Kindle Unlimitedで読みました。



 

登場人物

鮫島
新宿鮫と呼ばれ、ヤクザなどにも恐れられる優秀な警察官。
元キャリアのエリートなので警部補なのだが、出世の道は閉ざされ、防犯課では役職もありません。
しかし悪を憎む心、警察官の仕事に強い誇りを持っており、検挙率はずば抜けて高いのです。

 


鮫島の恋人。
フーズハニィというロックバンドのボーカルで鮫島より14歳歳下。
あまり化粧などはせず、女を武器にするようなタイプではないが、とても魅力的な女性。
今回も新宿鮫の恋人は命の危険にさらされますね。

 

桃井
新宿署防犯課の課長でどの部署も鮫島を預かりたがらないが、彼は何も言わずに迎え入れる。
元は非常に優秀な警官だったが、子供がなくなり、妻とも分かれてからは生きる屍のようであり、「マンジュウ(=死体)」と呼ばれています。

 

滝沢
鮫島と学生時代からの知人。
国税局のキャリア組のエリート。

 

浜倉
管理売春の元締めだが、手広くやっているわけではなく、数名の女性を使ってのビジネス。
細かい気遣いのできる人物で、管理している女性からも慕われています・


藤崎綾香
エステティックサロンの業界の風雲児。
須藤あかねビューティクリニックの経営者です。
「年相応の美しさ」ということをテーマにしています。

光塚
元刑事。
優秀な警察官だったが、プライドが高く、強引な捜査がもとで警察をやめた人物。
現在は藤崎綾香のボディガード兼運転手をしています。

須藤あかね
山梨の山奥にあるきれいな医療施設で、命はあるものの、少女の頃から眠ったまま生きながらえている女性。
彼女の部屋はいつもきれいな蘭がおいてあるのです。


島岡ふみ枝
釜石クリニックに勤務するベテラン看護師。
釜石クリニックは島岡企画という会社が管理しており、登記上の代表は彼女となっています。

 

あらすじ

浜倉という管理売春の元締めの男が死亡しました。
彼が扱う売春婦はいわゆる高級コールガールと呼ばれる女性。
しかし彼はお金儲けのためだけにこの仕事を行っているわけではなく、自分が管理している女性のことまで色々気を使うことのできる男性です。
新宿鮫と呼ばれる鮫島は、管理売春の元締めという仕事に対してはともかく、この浜倉とはよく知っているのでした。
その死因は血液が凝固するというものでした。
それまで特に健康面に問題を抱えているわけでもなく、また外傷もないため、謎の多い死体でした。

浜倉は管理している女性の仕事をしっかりフォローもするため、非常に慕われています。
浜倉の管理している女性は妊娠し、相手の男ともども子供を生むつもりでした。
しかしその産婦人科では強引に堕胎させられてしまったのです。
浜倉は、そのことで病院に交渉をしに行ったのでした。



感想

新宿鮫シリーズを3冊続けて読んでみたのですが、この物語は大変興味深く、そして切ない話でした。

殺人シーンも多いですが、「毒猿」などのような「殺し」とはぜんぜん違うタイプです。
見えない殺人者は、22年前にドナーとなる運命の可哀想な女の子に同情したことから生まれました。
殺人者は、「彼女」のためならなんであっても進んで汚れ役になるのです。
やっていることは恐ろしい殺人なのですが、もう動き出した歯車を止めることはできません。
殺人者は「彼女」のためにじゃまになる人物を次から次へと手にかけていきます。
その不気味さは、これまでの話とはずいぶんと違います。
最悪なのは、健康な胎児を「ビジネス」のために堕胎することです。
これは小説とは言え、読んでいて胸糞悪くなる話です。
一つの殺人を犯すとその殺人が明るみに出ないように次の殺人を犯します。
そして殺人を繰り返すうちに殺人に対する感覚が麻痺してしまうのです。
そして「ビジネス」のため、産婦人科を作り、胎児や臓器の闇マーケットというとんでもないことを継続して行ってきているのです。

屍(しかばね)と蘭と書いてあるこの本のタイトルは秀逸ですね。
凶悪な殺人事件を描いた小説なのですが、このタイトルどおり、詩的なものも感じますね。

エステサロン、産婦人科クリニックと言った舞台で繰り広げられる闇とビジネス。
美しい女性実業家と怪しいビジネスとの対比が強烈です。

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