悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

異常の太陽 森村誠一

森村誠一さんの短編小説集です。
長い間積読になっていたものですね。

毎度のことながら、通勤時に読みました。

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目次

鳩の目

異常の太陽

赤い蜂は帰った

残酷な視界

肉食の食客

奔放の宴

七日間の休暇

 

内容

鳩の目
鳩車という民芸品はファンには評価が高く、手作業で作っているため、注文を受けてお渡しするまでに時間がかかるのでした。
そんな鳩車の鳩に目をつけるのを忘れた職人が、自分の作品似合ってはならないことだとして、目のない鳩を渡してしまったお客様を探し出します。
そこから殺人事件の真相が判明します。

異常の太陽
この本のタイトルになっている作品です。
主人公砂本は刑事で、家庭を省みる時間があまり取れませんが、子供の参観に行き、そこで貼られている奇妙な絵を見つけます。
父が変死した事件の子供、沼田順吉でした。
砂本は刑事の本能からか、我が子の参観よりもその奇妙な絵に興味を惹かれ、担任の先生に彼の他の絵も見せてもらうのです。
不思議なことにその絵以外は、あまりにもまともで個性がなく、それは大人の指導によって子供の自由な奔放さが取り払われた、いわゆる死んだ絵でした。
その少年は絵画教室に通っており、絵の先生である友谷からかなり制限されて絵を書いていることがわかります。
絵画教室の先生である友谷を調べていくうちに事件の真相がわかってきます。
しかし、本当の真実は別のところにあったのでした。

赤い蜂は帰った
滝沢と吉木という若い講師が大学の研究室で蜂の研究をしています。
吉木は美しい婚約者がいました。
時折研究室に遊びに来て、三人でおしゃべりしたりするような関係でした。
二人は研究のために蜂に赤い着色をしています。
そして蜂を離れたところで放って、どれくらいの割合で帰巣するのかを調べているのでした。
ある日、吉木が蜂を放ったところから、帰ってこなくなりました。
心配する滝沢と吉木の婚約者。
事件に巻き込まれた可能性が出てきました。
現地はそれほど危険のないところですが、ハンターによる猟銃の事故の可能性が疑われ、その後吉木の死体が見つかります。
滝沢は吉木が放った蜂を見つけたとのこと。
そこから犯罪の地域の特定がされます。
その地区の近くには、有力者がおり、そこのドラ息子の犯行であることがわかりましたが、その裏にはある人物の影も見えたのです。

残酷な視界
デパートで働くOLの志賀邦枝には、双眼鏡で覗き見をするという趣味がありました。
彼女は偶然、駅のホームで酔っ払いの男を突き落とした現場を見てしまいます。
彼女は不安になりましたが、事件に巻き込まれたくもなく、特に警察にも何も報告はしませんでした。
彼女は数日後、高層アパートから転落死します。
彼女の愛用のドイツ製の高級双眼鏡を首からぶら下げたまま、誤って転落したものと考えられていました。
しかし、その夜は転落した窓の反対側で火事があり、そちらを見るために落ちた方向とは逆だったのです。

肉食の食客
主人公の叔父は、祖父が孕ませた女中の子供でした。
地方では名家で財力もある家で育ちました。
父は厳しい祖母のもとで育てられ、真面目な人柄です。
それに引き換え、叔父は仕事もせず、ただブラブラと家にいるだけ、ただの寄生をしているだけの人物でした。
農繁期で忙しくても、叔父だけは全く手伝うこともしなかったのです。
祖母は自分の子でなくても、別け隔てなく父と同じように叔父を育てたのです。
祖父や祖母がなくなり、叔父にも財産分けがあったのですが、あっという間に使い果たし、相変わらず仕事もせずに居候をしているのでした。
そしてあろうことか、母と駆け落ちしてしまうのでした。
主人公は、姉に家を任せて郊外に家を持ちます。
そこにあの忌まわしき叔父がやってきて、寄生してしまいます。
一度寄生すると駆除するのが大変なシロアリのような存在なのです。

奔放の宴
妻と新婚生活に満足していた朝川ですが、妻はある男に脅迫されていることを知ります。
妻の口から告白された過去を知って、愕然とする朝川でした。
彼女は学生時代の級友に騙されて、秘密のパーティに参加したことがあるというのです。
そこでの行いとともに、そのパーティで一人の人間が亡くなったことも告げられたのです。
朝川は、真相を掴むために脅してきた男を興信所を使って調べ上げ、排除することに成功しますが…。

七日間の休暇
父親のいない子供として、いじめられてきた井川賢。
彼に暖かい態度を示してくれたのは小学時代のクラスのアイドルである佐山美弥子でした。
しかし彼女は無謀運転の犠牲となって亡くなってしまいます。
悲しみに打ちひしがれた井川少年は、無謀運転をした男の家に火をつけようとするのでした。
彼は張り込んでいた警察に捕まりました。
まだ幼い小学生の事件で穏便に処理されましたが、優しかった母も亡くなり、孤児として社会に放り出されます。
彼は学校にも、社会にも馴染めず、自ら残飯などを漁る浮浪児として行きていくのでした。
その後、飯場で知り合ったサキという男の紹介で米軍の関係の仕事でベトナムへ行きます。
危険の多い仕事でしたが実入りはよく、久しぶりに帰国したときにはある程度まとまった金がありました。
そんなときに交通事故にあった女性を助けます。
彼女は事故の影響で記憶を失っているのでした。
警察や病院へ行こうと薦めるのですが、警察には行きたくないといいはる女性。
彼女は自分の名前も忘れているのでした。
昔の思い出から、賢は美弥子と彼女を呼びます。
美弥子は記憶を取り戻すまで一緒にいてほしいというのでした。
賢は休暇中のため、了承するのです。
そしてこれは神様が与えてくれたことだと思うのでした。
彼女が記憶を取り戻す手伝いをするために、移動しますが、美しい女性であったため、たちの悪い連中に絡まれてしまいます。
ナイフを持っていた賢は、美弥子に襲いかかる男を刺してしまうのでした。
賢はすぐに自首したいというのですが、彼女は拒否します。
自分が襲われたのでそのための正当防衛だと証言するというのです。
彼らはなれない土地で迷い、宿にたどり着けず、空いた別荘に入ります。
体調を崩した美弥子は高熱を出し、賢は医者を呼びに行こうとしますが、美弥子が話してくれませんでした。
そんなときに、女性を誘拐して別荘に立て籠もっているとして地元の警察に囲まれてしまうのです。
美弥子は今にも死んでしまいそうなのです。
賢は美弥子を抱きかかえて警察の前に出てきますが、新米警官によって射殺されてしまうのです。
病院に入れられた美弥子の容態は回復し、記憶も戻りましたが、賢と過ごした記憶はすっぱりと消え去っているのでした。

 

感想

どの物語もあまりにも後味が悪いと言うか、嫌な感じでしたね。
タイトルにもなっている「異常の太陽」は、二時間サスペンスドラマにぴったりです。
ストーリーとしても良くできていて、子供の描く絵の異常性から、犯罪を読み解いていく刑事が主人公なのです。
そして犯人逮捕に結びつけるわけですが、刑事にとっては計算外のおまけが付いてくるのです。
その結末がとても悲しいです。
主人公の刑事が哀れすぎるんですね。

それ以上に哀れな主人公が、最後の作品である「七日間の休暇」。
小学校時代のいじめもひどいのですが、彼を理解する人間がそばにいなかったのが悲しいです。
そしてこれほど純粋できれいな心を持つ人が、犯罪者(女性)に利用されて、死んでしまいます。
永遠の冤罪となるのですね。
救いようがありません。
なんだかやりきれません。

「奔放の宴」はかなり官能小説っぽい展開もありますが、サブタイトルを付けるとしたら、「奥様は魔女」ですね。
なんとなく怪しい気はしていましたが、ラストでそれがはっきりします。
いくら男好きする女性だとしても、妻の本性を知ってしまうと、一緒に暮らすのはかなりつらいでしょう。

「肉食の食客」では、たちの悪い叔父が、ものすごくねちっこく攻めてきます。
殺されても致し方ない人間だとは思うのですが、そういう人物につけこまれてしまう女性が悲しいです。
その女性というのが自分の母なので、怒りは何倍にも膨れ上がるでしょう。
真面目に家を継いできた父親が合われすぎます。
そんな大嫌いな叔父ですから、自分の妻には絶対に近づけないはずです。
しかしこういう害虫ほど知らない間に忍び込んでくるんです。
蟻を見るのが好きだったこの叔父ですが、家の土台を食い荒らして、家を崩壊させるシロアリだったんですね。

嫌な話ばかりが多い中、「鳩の目」も詐欺犯人が共謀した女性を殺害するストーリーなのですが、犯人が最後は追い詰められる展開が予想される終わり方で、ある意味スッキリです。

この本では、時代が違うと行ってしまえば、それまでなのですが、女性に対する考え方も現在とは大分違うという印象です。

「鳩の目」に登場する犯人と共謀する女性はそろそろ30にもなるハイミスという表現が使われています。
また、「残酷な視界」に登場する主人公は32歳のOLですが、ハイミスという言葉で表現されています。
現在なら、そのあたりの年齢の女性がハイミスと思われるようなことはありませんし、そもそも「ハイミス」という言葉自体が使われなくなっていますから、死語ですね。
考えてみれば、女性の年齢に対する言い方というのはたくさんあったなあ、と思います。
ハイミス、オールドミス、いかず後家、いき遅れ
今、そんな言葉を使おうものなら、ハラスメントでどえらい問題になります。

 

 

 

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