悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

新宿鮫2 毒猿 大沢在昌

日本シリーズが始まっています。
残念ながら土日が仕事で帰宅が遅くなり、全然見れていません。
昨年と同様に非常に白熱した試合を繰り広げていますね。

通勤時には相変わらず読書をしています。
新宿鮫シリーズは今回の「毒猿」と「屍蘭」という作品がKindle Unlimitedにあるので、読みました。

今回は、新宿鮫の2作目ですね。
数多く出ている「新宿鮫」シリーズにあって、評価も高い作品のようですね。

 

登場人物

鮫島
主人公。
新宿鮫と呼ばれ、ヤクザにも恐れられる一匹狼の警察官。


鮫島の恋人でフーズハニィというロックバンドのボーカル。

桃井
新宿書防犯課の課長。
元は優秀な刑事だったが、子供を失い、妻と離婚してからは、仕事にも人生にも光を失った人物。
マンジュウ(死体)と呼ばれるほど感情の起伏がない人物。


新宿署鑑識課の警察官。
変わり者だが、鮫島にとっては数少ない味方と言える人物。

奈美(田口清美、戴清娜)
「ローズの泉」という風俗店に勤める女性。
中国残留孤児。

(ヤン)
奈美と同じ「ローズの泉」二最近入ったばかりのボーイ。
日本語が不自由。

郭栄民
毒猿と呼ばれる殺し屋の素性をよく知る台湾警察の凄腕刑事。
元水鬼仔(ツイクイア)と呼ばれる特殊な舞台の訓練を受けてきた人物。

葉威(イェーウェイ)
台湾ギャング四海のボスの一人。

毒猿(ドゥユアン
この物語のタイトルになっている殺し屋としてのコードネームのようなもの。
本名は、劉鎮生(リュウツェンシェン)
元水鬼仔のエリート戦士。
彼の実力はトップクラスで、中でもテコンドーの達人。

石和竹蔵
武闘派で知られる暴力団石和組の組長。
台湾マフィアの葉とは利害関係で付き合いがあり、現在は葉を匿っています。

 

 

あらすじ

新宿署に勤める鮫島は、ヤクザをはじめ怪しいビジネスに手を染める人たちにとっては恐れられる人間です。
あることをきっかけに彼は台湾からやってきた郭栄民という警官と出会います。
郭は体術の達人でしたが、彼が日本にお忍びでやってきたのには理由がありました。
毒猿と呼ばれる超一流の殺し屋を捕まえるためでした。
毒猿はその力量からとても危険な人物です。
しかし、彼の素性をよく知る郭にとっては、毒猿を捕まえることは大変であり、日本の警察やヤクザには捕まえられないと考えています。
なぜ毒猿が日本に来たのか?
それは葉威という台湾の大物マフィアに対する復讐でした。
葉が行っているマフィアのビジネスを通して日本の暴力団石和竹蔵とは深い関係にあり、葉は石和のもとで身を潜めているのです。

中国人残留孤児の田口清美にとっては日本という国は居心地が悪く、疎外感がありました。
結局のところ、彼女は源氏名を奈美という風俗嬢となってしまいましたが、そこに働く中国人楊に興味を持ちます。
楊は日本語がほとんど話せず、寡黙でどこか不気味な男。
「ローズの泉」の店長である亜木は、風俗嬢である奈美に手を出そうとしていました。
亜木はこの店の商品である女性にも厳しい人間でしたが、ボーイなどをしている外国人労働者に対しては、酷い扱いをする男でした。
しかし亜木は楊に殺されてしまいます。
そして奈美は自分の意志で楊を匿うことにしたのです。

「ローズの泉」の実質の経営は安井という暴力団です。
奈美の住まいを張り込んでいた安井は、楊がここにいることをつきとめます。





感想

売人は紺のジャンパーに黄色のコットンパンツをはいていた。
シンナーの売人の張り込みシーンから始まります。
純トロやスリーナインといったシンナー密売という裏稼業の用語が飛び交い、雰囲気があります。
前作もアクションシーンを中心としたハードボイルド小説でしたが、犯人探しというミステリーの部分もありました。
今作はそういうミステリー要素はかなり少なく、読みすすめると簡単にその後の流れが想像できる内容です。
だからといってつまらないわけではなく、暴力的なシーン、アクションシーンは後半にかけて怒涛のように展開していきます。
毒猿を追いかけてきた台湾の刑事の体術も凄いのですが、毒猿の実力はこんなものではないというのですから、そういうシーンが待ち遠しくなります。
そして実際に毒猿という名前は語りませんが、その実力が発揮されていきます。
ネリチャギというテコンドーの技、脳天踵落としで頭蓋骨を割る、なんてことが本当にできるのかどうかは定かではありませんが、この小説では行っています。
さらに、体術だけではなく、UZIサブマシンガンを自分の得意の獲物として多数の敵を相手にしても全く問題なく退けてしまいます。
一匹狼の殺し屋ですが、その技量は凄まじいです。
武闘派の石和組長なんか、毒猿の引き立て役にしかなりません。
無敵の殺し屋である毒猿ですが、実は虫垂炎を患っており、薬がないと耐えられないほど悪化しています。
「死」に対して恐怖はなく、彼を「殺し」に突き動かすものは裏切り者は許さないという「信念」なのでしょうか。
あるいは不幸続きの自分の人生に対して、どこか達観してしまっているのですね。
奈美は、彼の中に優しさを見出したことが唯一の救いです。

殺しにかけてはプロ中のプロだが、人間の中身は本当にやさしい一面を持っています。
映画「レオン」などと同じようなものなのでしょうかね。
「死」に対してはどこか割り切っているというか、自分の命に対してもそうなのでしょうか。

鮫島は偶然知り合った郭栄民という台湾人刑事との約束を守り、毒猿を殺さずに逮捕します。
よくもまあ逮捕できたものです。
鮫島はスーパーマンではありません。
元キャリアのエリートで、体は鍛えているものの、格闘に優れていたり射撃に優れていたりするわけではありません。
彼もどこかで「死」に対して割り切っているのでしょうか。


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