悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

パリタクシー

Amazonより

U-Nextのポイントで妻と一緒に見ました。
私もどこかでこの映画がなかなか良いという評価を読んだ覚えがあります。
妻もどこかでそういうことを知ったのか、見てみようということに。
ちなみに息子は興味がないようでした。

タイトルからは「ドライブ・マイ・カー」のような映画なのかな?
それとも「タクシー運転手」のような映画かも?
と想像していましたが、そのどちらとも違いましたね。
どちらかといえば「ドライブ・マイ・カー」寄りではありましたが、もっとシンプルなお話でした。

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監督はクリスチャン・カリオン。
主演のタクシー運転手シャルルを演じているのが、ダニー・ブーン
そしてもうひとりの主演である乗客の老婦人マドレーヌ役にはリーヌ・ヌノーという方。
失礼ながらいずれも知らない名前でした。
上映時間は90分と比較的コンパクトな映画です。

あらすじは簡単に言うとタクシー運転手が依頼を受けた老婦人をパリの外れにある介護施設(老人ホーム)へ送り届けることになる間のお話です。
なのでメインの部分は一日に満たないお話なのですが、「真面目」に送迎するだけなら半日にも満たない仕事なのでしょう。
乗り込んできた老婦人マドレーヌはとても気品があって凛とした女性。
乗客に興味のない不機嫌そうで無愛想な運転手シャルルはおしゃべりな彼女の相手も面倒そうでした。
そんなシャルルを全く意に介さずおしゃべりを続けるマドレーヌ。
彼女はファーストキスの味から自分の人生を語り始めます。
興味のなかったシャルルですが、次第に彼女の過去の話に耳を傾けていくのでした。
話をしながらパリの街中を走るタクシー。
マドレーヌの要望で寄り道をすることに。
ただ送るだけのシンプルな仕事でしたが、二人は妙に意気投合するのです。
途中で一緒にタバコを吸ったり、素敵なレストランで豪華なディナーを一緒に食べることにもなります。
養護施設からは遅くなってもやって来ないので連絡が入りますが、彼らの要求は軽くスルーしてシャルルとマドレーヌは素敵な時間を共有するのです。

ここから先を語るともうネタバレになってしまうのでやめておきますが、大体見ているとエンディングも想像がつきます。
だからといってつまらない映画なのかというと、とんでもないです。
この映画に登場するシャルルと同じく、気がついたらこの映画の世界にどっぷりと引き込まれてしまいました。
不思議な映画です。
シャルルも老人を迎えに行ったときには、不機嫌で呼び鈴を鳴らし、すぐに出てこないと車のクラクションをならすなど、決して行儀の良い親切な運転手ではなく、言葉は失礼ですが、「雲助」さながらの運転手。
元々はそういう人物ではないのですが、経済的に苦しい立場で不幸にかこつけているどこにでもいる人物なんですね。
一方のマドレーヌはそんな運転手に対しても、一向に怯むことなくマイペースです。
もう人生も終着駅間近であることを自覚している彼女は、恐れるものはなく淡々と自分の過去を語りだします。
それは他人の人生に過ぎないのですが、壮絶な内容でした。
以下ネタバレを含みます。
彼女は第2次世界対戦前に生まれていた92歳。
16歳の当時に恋をしますが、その相手がアメリカからやって来た青年でした。
その青年との恋は結婚には結びつかなかったのですが、彼女に大切なものを残していきました。
それは最愛の息子。
つまりは未婚の母となります。
フランスと言えども、当時女性一人で生きていくのも辛い時代。
彼女は手に職がある労働者と結婚することになります。
その後の彼女、息子の人生は壮絶です。
フランスの男性とかの問題ではなく、時代は男性中心。
結婚相手は粗暴な男性でした。
美しいマドレーヌには興味があるものの、連れ子の義理の息子にはとてつもなく冷たく意地悪な人間でした。
彼の言い分は邪魔な子どもは親に預けて二人で暮らそうというものでした。
彼女にとって息子の存在は唯一無二で人生そのもの。
普段から妻に対する暴力をなんとも思っていない結婚相手でしたが、ついには息子にまで暴力を振るうようになります。
彼女は息子を母のもとに連れていき、決意を固めて男のもとに戻ります。
そんな女心の一つもわからない男は、妻が持ってきた睡眠薬入りのお酒を飲んで体が動かなくなります。
シラフならとても敵わないと考えた彼女は、眠った相手に対してこれまで受けた暴力のお返しをするのでした。
男は一命をとりとめましたが、裁判で彼女は殺人未遂の有罪となり、囚人となります。
懲役25年。
模範囚として刑期は短く釈放されましたが、すでに息子とは心のつながりはなくなっています。
息子は私生児と呼ばれ差別され、母も殺人未遂の犯罪者であることでつらい人生を歩んでいたのでした。
彼はカメラマンとなり、このパリから飛び出したかったのです。
そしてベトナムで亡くなります。

この時点でで彼女の人生は終わってしまったのでしょう。
彼女を生かしていたのは何だったのかと思ってしまいます。
時代のせいにするには当事者である自分や息子は惨めすぎます。
彼女は受けた棒料の報復として行ったことはもちろん罪ですが、そう追い込んだ社会などに対して強い恨み、不合理さを感じていたに違いないのです。

そういうことをこのタクシーの中ではほとんど話しませんでした。
ただ、運転手シャルルとは妙にウマがあったのか、それとも普通の人との会話はこれで最後だと自覚していたのか、彼女はこの日一日をとても楽しい思い出として感じていたのですね。
本当にわかりやすいエンディングを迎えてよかったのですが、今あらためて思い出しながらこの映画の感想を書いていると感極まってきます。

タクシー運転手と乗客との出会い。
ただこれだけのことですが、とても深い映画でした。
冒頭でこの映画は「ドライブ・マイ・カー」寄りと書きました。
「ドライブ・マイ・カー」はやたらと長かったのですが、この映画はその半分くらいの長さで、内容も絞り込んでいるだけにわかりやすくとても印象に残りましたね。


余談になりますが、パリのきれいな風景も見ることができます。
私のような庶民にはパリってこれからも実際に見ることはないのかもしれませんが、観光した気分にもなります。
ところが、後で知った話ですが、この映画はロケでパリを走って撮影した映画じゃないらしいんです。
タクシーを設置したスタジオで撮影。
つまりは風景は合成らしいのです。
ものすごく丁寧に作られた映画というイメージでしたが、これだけ違和感なく作られるとしたらもはや実写という意味がわからなくなりますね。
ただ、この映画の女優さんもかなりの高齢なので撮影はスタジオの中のほうが良いでしょうね。


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余計なことついでにもう一言。
この映画はフランス映画なのですが、音楽がまた素敵でした。
フランス映画で音楽ならシャンソン、そしてボタン式のアコーディオンの音?なーんて思っていたら、ジャズでした。
アメリカです。
それは彼女の良き時代、アメリカの青年兵士との短く濃密な恋の時代の音楽です。
ダイナ・ワシントンの歌声が素晴らしいです。

 


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こういう感じの音楽って流れてなかったような気がしますね。

 

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