悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

人間の証明 森村誠一

先日散髪屋で森村誠一さんの小説「殺意の造形(ヘアー)」を思い出したわけですが、それをきっかけに森村誠一さんの小説を読んでいます。

 

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人間の証明」は私がまだ子供の頃、テレビのコマーシャルをガンガンやっていたのを思い出します。
「読んでから見るか、見てから読むか」
こんなキャッチフレーズもありましたね。
今でこそ、メディアミックスなんて言葉があり、書籍も映像も、インタラクティブなゲームなどもすべて同じタイトルでファンを作っていくという手法が当たり前になっていますが、今から40年以上前からこういうことを行っていた角川映画角川春樹さんというのは凄腕の人だったのでしょう。
角川映画という新しいジャンルができた頃です。
そういう大人の事情というものがわからず、やたらとコマーシャルが多いなあ、と思いつつも、「角川映画はつまらない」という先入観で避けてきたところがありました。
確かに、広告によって期待値が高まり、映画を見に行ってガッカリというのはよくあることです。
広告は成功し、営業的にはプラスだけど、客が喜ぶというのはまた別なんでしょうね。

 

大層な広告をうち、小説もとても売れた時代です。
この「人間の証明」という小説もベストセラーでした。
森村誠一さんの本は「日本アルプス殺人事件」を始めとしていくつかの作品を読んでいますが、この代表作はこれまで読んでいませんでした。

ジョー山中さんの主題歌

この楽曲もよく流れていました。
たしかこの曲が大ヒットした当時、「ザ・ベストテン」という歌番組があり、1位をとったと思うのですが、大麻取締法違反で捕まっているときだったと記憶しています。
改めて聞くとなかなかジーンと来ますよね。


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あらすじ

ある黒人青年が殺されます。
東京の高級ホテルの最上階にある高級レストランに向かうエレベーターの中で息が切れているのを発見されたところから始まります。
日本人ではなく、ニューヨークハーレムからやってきたジョニー・ヘイワードという青年でした。
彼は胸をナイフのような短剣で刺されたまま亡くなっていました。
棟居刑事はこの不可解な事件の解明に挑みます。
手がかりも乏しく迷宮入りしそうなこの事件。
しかし棟居には悪を憎むのはもちろん、人そのものに対して強い憎しみの感情がありました。
それは彼の生い立ちにもその理由があるのでした。
棟居たち警察は、地道な捜査によって、わずかながらの手がかりを得ます。
ジョニーを高級ホテルに送り届けたタクシー運転手の証言から、彼が発した謎の言葉「ストウハ」。
そして東京ビジネスマンホテルに送り届けた別のタクシー運転手からは遺留品と見られる西條八十の詩集が発見されます。
また「キスミー」に行ってくるといっていたこともわかりましたが、全く意味が不明でした。

若く美しい人妻の小山田文枝は夫の病気をきっかけに夜の仕事をはじめます。
そこで知り合ったエリートサラリーマンの新見との禁断の恋に落ちていきますが、突然の行方不明となります。
文枝の夫の小山田は浮気相手が隠したと思い、その浮気相手を突き止めました。
ところがその浮気相手の新見は不倫がバレて、もう会えなくなってしまったのだと思っているのでした。
彼にとって彼女は「浮気」という対象ではなく、「本気」だったのです。
そして本來は協力しあうはずもないこの二人が行方不明になった女性を探すために共同戦線を貼ることになります。

時の人となっているのは売れっ子の評論家、八杉恭子。
彼女は美しく、夫は代議士の郡陽平です。
彼女は息子の日記などを参考に子育てなどの家族問題についての本などがベストセラーとなり、良妻賢母の鏡のような存在としてもてはやされていました。
しかし現実は、表の顔と裏の顔を使い分けるしたたかな女性です。
その母の真の姿を知っているのは息子の郡恭平でした。
彼は幼い頃から物質的には恵まれた生活でしたが、母からの愛情はあまり受けていないという気持ちでした。
幼い頃から恭平の身の回りの世話一つしてもらったことはなく、それらはすべてお手伝いさんが行っていたのでした。
幼い頃に、お手伝いさんが休みのときにちょうど遠足があり、そのときに母のお弁当を期待していましたが、お弁当の代わりに渡された現金。
そしてリュックサックの中には「くまのぬいぐるみ」が入れてあるのでした。
恭平は母の仕事の道具として、良き息子を演じているのでしたが、その反動として乱れた生活をしているのでした。
彼は大学生でありながらも、母から与えられたマンションに住み、高級なスポーツカーを乗り回しているのでした。
ある夜に、車を暴走させていたときに事故を起こしてしまいます。
周りに人はいませんでしたが、何かに当たったようでした。
どうやら人を轢いてしまっていたようです。
すぐに病院へ行こうとしましたが、死んでしまいます。
事故として処理すればよいのですが、結局彼が選択したのは、死体を隠蔽して何食わぬ顔をするということでした。
その後恐怖に苛まれ、日本を脱出し、ニューヨークに身を隠すために逃避行します。

棟居刑事は少ない手がかりからも推理を働かせ、執念深くこの事件を追跡します。
「ストウハ」がストローハット、つまり麦わら帽子であること、そして西條八十の詩集から「麦わら帽子と霧積」をテーマにしたものがありました。
その詩は、幼い頃のは鳩の思い出が描かれているものでした。
同時に霧積という地名から「キスミー」がこの霧積に違いないと思うのでした。
棟居は霧積で手がかりを得ようとしますが、そこで重要と思われる人物の老人がダムに転落して亡くなってしまいます。
明らかに何者かの手によって突き落とされた、殺されたものだと直感します。

アメリカのハーレムでは地元の刑事がジョニーの殺人事件について調べていました。
日本へ渡航するための費用がとてもあるようには思えないジョニーでしたが、その費用は父親の交通事故によって支払われた示談金でした。

新見と小山田は一人の女性を愛したという点では共通の人間でした。
二人の執念深い操作によって、導かれた結論は文枝は郡恭平によって車で轢き殺されたということでした。
そしてついに事故の車を発見します。

息子の交通事故の件で大変な状況になった八杉恭子でしたが、棟居刑事の狙いは郡恭平ではありません。
あくまでジョニー殺しについてのことを明らかにすることです。
決定的な証拠はありませんでしたが、様々な点をつなぎ合わせ、棟居は真相を突き止めます。
それは代議士郡陽平と結婚する前の八杉恭子の前半生のことでした。
彼女は戦後間もない頃に、黒人男性のウィルシャー・ヘイワードと結ばれ、息子のジョニーを生みました。
しかし当時の状況から、彼女は結婚できず、ウィルシャーは軍人として本国へ戻ります。
しかしながら正式な妻でない女性を連れて行くことはできず、幼い息子のジョニーだけを連れての帰国となったのでした。
その後、八杉恭子は代議士となる郡陽平と結婚し、そして自らは評論家として大変有名な人間経となっていきます。
そんなおりに、現れた隠し子ジョニーは彼女にとっては、これまで築き上げた自分の地位をすべて奪い去る忌むべき存在だったのです。
そこで彼女は息子を刺殺し、自分の過去を知るわずかながらの人も殺したということなのでした。
棟居刑事は、決定的な証拠もないながらに、彼女に人としての良心が多少でも残っていることにかけました。
まさにラストシーンこそがこの本のタイトルとなる理由です。

 

実感がわかないけれど、読み応えあり

母親として、人間として八杉恭子が追われていくさまをもっと描いてくれればよかったのでしょうが、そうなるとサスペンスとして成り立たないからでしょう。
物語はあくまで操作する側、刑事側を主体に進められていきます。

そして八杉恭子の息子である郡恭平もある意味で可愛そうなところはあります。
教育者としていくら立派なことを言っていても、実子一人まともの育てるということがいかに大変なことかと言うのは今も昔も変わらないと感じましたね。
郡恭平はただの甘えたボンボンですが、そうさせたのも郡陽平と八杉恭子の夫婦です。

読んでいて小説だなあと思うのは、妻を盗まれた小山田と盗んだ新見が協力して文枝を探すということ。
でもそういう設定が小説としては面白くもありました。


また棟居刑事の子供時代の記憶とこの事件とのからみもありますし、ニューヨークの刑事にも絡んできます。
こんなにも偶然が重なり合うと、もう小説やドラマの世界しかありえないと思ってしまうのですが、よくできた話でもありますね。

読み終えて、ベストセラーだったことを実感します。
同時に毛嫌いしていた角川映画の「人間の証明」も見ないといけないのかな?と思っています。
小説とストーリーが異なっているという点が、賛否両論なんでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

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