悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

特殊清掃人 中山七里

先日、ブラブラと歩いているときにすれ違った若者を見て、何かを思って、それをネタにブログにでも書こうと思っていたのですが、肝心のその内容が思い出せない!!!

ああ、メモでも取っておくべきだったと思いつつも、忘れてしまったことは仕方がない。
それにしても忘れっぽいなあと最近思うのですね。

さて、今日も読書感想を少し。
中山七里さんの特殊清掃人です。

 

この本の目次

一 祈りと呪い

二 腐蝕と還元

三 絶望と希望

四 正の遺産と負の遺産

 

登場人物

五百旗頭亘(いおきどわたる)

エンドクリーナー社長。
とは言っても自分を入れて3人の小さな会社で、実働部隊の一人です。
特殊清掃というビジネスを手掛けています。
孤独死などの増加で業務自体は忙しいのですが、仕事は3Kそのものです。
元警視庁に勤めていた人物です。

 

秋廣香澄

エンドクリーナー社員。
前職の会社が倒産し、退職金もあまりもらえない状況。
背に腹は変えられず、ブラックな職場のイメージはありましたが、お金のためにこの会社に入りました。

 

白井寛

エンドクリーナー社員。
この会社では一番若い社員ですが、秋廣よりは1年前にはいっているため、かなりの仕事を社長に任されるようになっています。
彼もブラック企業だけには就職したくなかったのですが、コロナ禍で就職していたイベント企画会社が倒産したために、エンドクリーナーという会社で働くことになりました。
元ミュージシャンです。

関口弥代栄
孤独死した関口麻莉奈の母親です。
麻莉奈は、外車のディーラーという高給のOLでしたが、職場を辞めてからは生活が乱れ、孤独死
第一話


伊根欣二郎
イネ・ライジングという企業を立ち上げた40代の社長。
独身で会社の女性社員複数と関係を持っていました。
第二話。

川島瑠斗
白井寛が学生時代に一緒にバンド活動をしていた人間。
第三話。

 

あらすじ

特殊清掃というビジネスを手掛ける五百旗頭亘はいつも愛想笑いを浮かべながらの人物。
社長とは名ばかりで、秋廣香澄と白井寛の二人しか従業員はいません。
高給で募集をかけるのですが、続かないのです。
その理由はこの仕事がきついからです。
そして汚いですし、油断すると病気にもなる危険な職場、いわゆる3Kです。
特殊清掃とは、孤独死などで死臭がこびりついた部屋を清掃し、故人の遺品を整理する仕事です。
死臭によって発見される死体は腐乱しており、その匂いは風呂に入ったくらいでは取れないほどの異臭です。
様々なウジ虫や病原菌もあり、現場では全身防護服とマスクをつけての作業おとなります。
汗だくになりながらの仕事で、クタクタですが、肉体以上に精神的にきついものが有るのです。
五百旗頭は元警察官。
特殊清掃の現場では様々な裏事情が渦巻いています。

一 祈りと呪い
孤独死した関口麻莉奈は会社のディーラーという華やかな企業に務めるOLでした。
突如会社を辞めて、引きこもりになります。
そして乱れた生活となり、死亡。
その現場から独身女性がホストに入れ込んだ挙げ句、絶望して亡くなったと思われていましたが、現実は大きく異なっていました。
麻莉奈の母にとっては自慢の娘でした。
子離れできていない母親という印象。
彼女がなぜ職場を辞めたのか、調べていくうちに色々と見えてくるのでした。

 

二 腐蝕と還元
ビジネスで成功した社長が無惨な孤独死
彼は女性社員複数と関係を持っていましたが、入浴中に死亡し、追い焚き機能がある風呂でずっと浸かりっぱなしの状態で発見されました。
警察は入浴中の自然死と判断していましたが、五百旗頭は遺品の形見分けの際に社員たちと接見し、事情を聞き出して不審に思うのでした。

 

三 絶望と希望
現場を任されている白井寛が担当した案件が、学生時代にバンドを組んでいた仲間でした。
ミュージシャンを目指していた川島瑠斗は音楽の才能はありましたが、結局プロになることはできずに絶望と貧困のために死亡しました。
彼が最後に残した魂のこもった楽曲「change up!」は素晴らしく、形見分けとして元のバンドメンバーに渡そうと考えます。
バンドメンバーで唯一女性でプロとして、地味ながら今もなんとか活動している”みかろん”こと山口美香は、新曲「真夜中に叫べ」が大ヒットします。
この曲は完全に川島の曲を盗作したものとしか考えられない曲だったのです。

 

四 正の遺産と負の遺産
平成最後の相場師と呼ばれていた諏訪連司郎が孤独死しました。
3人の娘がいますが、豪邸には一人住まいであり、彼の身の回りの世話をするのは看護師資格を持つ家政婦の桂幸恵。
諏訪千鶴子は長女で婿養子をとっていますが、同居はしていません。
次女は杁山梨奈で賛助は岡田彩季で、彼女たちも別に住んでいます。
たまたま家政婦が休暇であったときに亡くなり、特殊清掃が必要な状態になったのです。
同時に遺品整理も請け負いますが、連司郎のベッドの下には隠し金庫があり、そこから遺言状が出てきたのです。
遺産争いをする3姉妹の話です。

 

感想

特殊清掃なんて仕事があるのはもちろん知りません。
ただ、現実には孤独死や自殺、他殺などで通常では考えられない死体が残った部屋を清掃するのは並大抵のことではなさそうな気がします。
やや大げさなのかな?と思いつつも、それならやってみるか?と言われるとちょっと無理でしょうね。
ともかくかなりレアなこの仕事を通して、生きていたときの人間の姿が浮かんでくる、それがまた一筋縄ではいかない、というパターンのお話です。
中山千里さんの小説だけあって、結構孤独死、放置したふらんした死体のあとという部分の表現はなかなかエグい部分もあります。
ホラーではないので、怖さはないのですが、ホラーではないだけに逆にリアリティがあってなんだか嫌~な感じが漂ってきますね。
この本は小説ですが、法医学の偉い人、上野正彦先生が書いた本、「死体は語る」などは実話というか体験談をベースに書いています。
こちらはかなり前に読んだんですが、ちょっと似ているなあ、と思いましたね。

ここからはネタバレも含みます。
第1話は、なぜ高給が得られる華やかな外車ディーラーの仕事を辞めたのか?というのがポイントで、それには亡くなった彼女の本来の姿が浮かび上がってきます。
母の言いなりになった人生に絶望しての「自殺」に近い自暴自棄の上での孤独死なんですね。
彼女は外車ディーラーに努めていましたが、ある展示会でコンパニオンのようなことを行いました。
それはゲームのキャラクターである人物のコスプレで、男装だったのです。
彼女のコスプレは大変評判になりましたが、突如それをやめることに。
彼女は性同一性障害の可能性があり、女性は女らしくあるべきという古い意識の塊である母親にとっては、そういった行動は許しがたいことだったのでしょう。
ある政党団体を動かして、クレームをその会社に入れたのです。
結果、娘は自分の存在を否定され、生きていくことを諦めたのでしょう。
この母親は娘の性同一性障害を恥じ、そういった生き方をせずに済んだことにホッとしている様子だったのがなんとも悲しいですね。

第2話はベンチャービジネスで一山当てた独身貴族の社長です。
社員の複数と肉体関係を持つ奔放な人物のようでしたが、その死に方はあまりにも残酷な状態でした。
付き合っていた女性たちとの話を勧めていくうち、社員とは別の女性の姿も浮かび上がります。
そしてその人物こそが「殺し」の犯人であることも最後に明かされるのですね。
ただこの独身貴族の社長は自分の生い立ちから、家族というものに絶望していたのでしょう。
なんとも悲しい話です。
腐蝕と還元」というタイトルが皮肉というかスパイスが効きすぎたタイトルだと思うのはちょっと深読みし過ぎなのでしょうかね。

第3話はここまで割と地味な役割だった白井寛が中心に話が進んでいきます。
学生時代のバンドメンバーで最も才能があった川島瑠斗はプロミュージシャンを目指して努力を重ね、お金を工面するためにホストになったりもします。
同じメンバーだった”みかろん”が川島の最後の作品を盗作して大ヒット。
やるせない気持ちになりましたが、実はミュージシャンとして疲れ果てた川島が、プロとしてやっている山口美香に最後の曲を世に出してほしいと頼んでのことだったのですね。
これは悲しいけれど、ジーンと来るいい話として終わっていますね。

第4話は富豪の死と相続争いというなんともいやらしい話でした。
長女次女はある新興宗教に多額の金を貢いでおり、その事情を知った故人が財産を彼女たちに渡さないように遺言書を書いて、秘密の金庫に納めていたのですが、その後次々に現れる遺言書。
一番ミステリーっぽくなった話でしたが、宗教に踊らされている長女と次女がアホすぎて滑稽に感じました。
それにしてもこの姉妹のやり取りはえげつなすぎて、相続は争族とか言われたりするのがわかりますね。
ただ、笑ってばかりではなく、現実は、統一教会をはじめ怪しい宗教団体は後を絶ちません。
人の心の闇というか隙間に漬け込む宗教というものをもう一度しっかりと考えてほしいですね。
安易に宗教などにすがるのは多分精神的に楽なのでしょう。
宗教を盲信する人というのは、孤独死と同様に精神的には死んだも同然なのでしょうね。


 

 

 

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