悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

密閉山脈 〜山男の栄光と恋〜 森村誠一

いつもと同じく、Kindle本で通勤中に読みました。
久しぶりの森村誠一さんの本ですね。
タイトル通り山岳を舞台にした長編推理小説です。

 

この本の目次

美しき遭難者

八ケ岳行

魂の香煙

婚前山行

闇の沈黙

燃え尽きた=夫=

不運な遺品

虚無の充填

ヘルメットの矛盾

分骨の陥穽

アルプスのアリバイ

動機なき容疑者

単独登攀者の死

殺人山行

実験登攀

多重電飾

ヒマラヤの星

明日なき孤独

 

登場人物

湯浅貴久子
財閥系の大手総合商社「菱井物産」に務めるOL


影山隼人
 
都内の雑誌社に勤めるサラリーマンだが、大学時代からザイルパートナーの真柄とともにその名を馳せた名クライマー。
名を挙げたのはヨーロッパのアルプス最悪の壁と呼ばれるブライトホルンの北壁の冬期初登攀の成功によるもの。


真柄慎二

影山とともにブライトホルンの北壁の冬期初登攀により、クライマーとして名を馳せる。
今は銀行マンだが、現役のクライマーでもあり、日本登山界きってのロッククライマー。


中井敏郎

名門大学出身の菱井物産の社員。
貴久子とは同じ部署であり、先輩に当たる。

 

熊耳(クマガミ)
山岳遭難救助チームの隊長。
自分の初動捜査のミスから犯人を追い詰める執念を見せる。

 

 

あらすじ

影山隼人と真柄慎二は大学時代からザイルパートナーとして数々の山を登った登山家でした。
ただ、今はお互いサラリーマンとして、貴重な時間を作って山に登っています。
彼らは山で若い女性を発見。
登山とは思えぬ軽装で倒れていたのです。
直ちに二人は救助し、山小屋で介抱します。
とても美しい女性で、二人の山男の心は奪われてしまいます。

若く美しい湯浅貴久子は、財閥系でエリートたちが集まる菱井物産に就職しました。
中井はエリートであり、野心もある男性でしたが、美しい貴久子に惹かれます。
菱井物産では結婚したら退職するという暗黙のルールがある古い体質の会社。
まだ結婚を考えていない二人の関係は会社では秘密でした。
お互い激しく愛し合う二人でしたが、あっけなく別れることになります。
中井に縁談があり、その相手が会社では次期社長と言われていた専務の娘でした。
専務の家にたまたま訪問することのあった中井は、専務の娘に一方的に気に入られたのでした。
女性としては貴久子のほうが魅力がありましたが、エリートとして今の職場にくすぶるよりは飛躍したいと考えた中井は貴久子を捨てる決断をしたのです。
貴久子はショックでした。
ポッカリと空いた空虚を埋めるすべはなく、死んでしまおうと考えたのです。
貴久子は山に入り、途中で疲れ果てて倒れてしまったのでした。

死のうと思っていた貴久子でしたが、命を救われたのです。
二人の命の恩人は、どちらも貴久子にとっては魅力的な男性に見えました。
はじめは3人で会っていたのですが、そのうち二人の山男はふたりきりで会いたがるようになります。
都内の出版社に勤める影山は細く引き締まったタイプで、おしゃれな男でした。
一方の真柄は筋肉質な男性で、銀行に勤める実直なタイプ。
二人は大学時代からの登山のパートナーであり、貴久子にとってはその二人の関係がとても眩しく見えたのです。
二人が自分に異性として興味を持っていることは十分わかりました。
貴久子にとってはどちらの男性にも興味はありましたが、二人を選ぶことはできません。
結局、貴久子が選んだのは、影山でした。

影山と真柄はまたしても登山に出向くのです。
しかし真柄は急な出張で来ることはできず、影山は単独で出かけていきます。
フィアンセの貴久子に山の上からサインを送ると約束し、彼女もそのサインを待ちわびているのでした。
しかし、山頂から送られた彼のサインは救難信号だったのです。
直ちに救助に向かいたいところですが、翌日早朝に救助チームが組まれます。
そんなときに出張から戻ってきた真柄が合流し、救助チームとともに救出に向かいます。
影山は落石による頭部への障害で帰らぬ人となっていました。
頭部を守るヘルメットも壊れ、影山は死んでしまったのです。
状況的に事故として処理され、影山の遺体は山で火葬されます。
その後、遺品として残ったピッケルはザイルパートナーの真柄に、頭部を守ることができなかったヘルメットは貴久子の手元に残ることになりました。
警察官であり、救助隊の長を務める熊耳(くまがみ)は、少し引っかかりのようなものを感じており、あまりに簡単に事故として片付けたことを後悔します。
そして影山のフィアンセであった貴久子からヘルメットを借り、詳しく調べたところ、落石によるものではないことがわかったのです。

 

 

感想

娘さん、よく聞けよ、山男にゃ惚れるなよ〜♪
という歌がぴったりな物語です。
命をお互い預け合うため、同じくらいの経験と技量を持ち、信頼関係がなければ絶対になれないザイルパートナー。
若くて美しいヒロインを山で見つけた二人は彼女を巡って微妙な関係になっていきます。
日本アルプスを舞台にした森村誠一さんらしい登山家の小説でもありますが、同時に悪癖に挑む登山という特殊な「密室」と犯行時の鉄壁のアリバイを崩すのがこの物語のテーマとなっています。
美しきヒロイン貴久子は男を虜にする女性のようです。
ただ、彼女を愛した男はすべて幸せにはなれませんでした。
元を辿れば、最初の恋人であった中井が悪いのですけどね。
恋では真柄に勝った影山ですが、殺されてしまうのですね。
山岳地帯、登山という背景が「密室」の要件を満たしている事件。
本格推理小説の定番である密室殺人の様相もしっかり伝わってきます。
更には鉄壁のアリバイです。
これを崩すのは容易ではありませんでした。
ただ、種明かしが終盤にあるのですが、あっけない感じでしたね。

山も海も好きですが、命をかけて山に登るという「山男」「登山家」の気持ちは到底わかりません。
困難であればあるほど、達成感が強いので、悪壁を困難な条件で制覇することに命をかけていく、まさに死を求めていつまでも続くのがこういったアルピニストたちなんでしょうか。
ただ、影山も真柄も最後に正体を明かされてしまいます。
アルピニスト、山男の矜持というものが多分に美化されているという背景を逆手に取ってこの作品が描かれているというのもポイントですね。
育ちの良いヒロインですが、この物語を通して彼女は3人の男性を愛します。
中井、影山、真柄と対象が変わっていくのですが、魅力的な女性として描かれているのはわかりますが、彼女自身も自分の美しさに対してそれ相応の自信を持っていて、この事件のきっかけは彼女の煮えきらない態度だったということなのですが、彼女自身がそれに気づいていないというのがかなり痛い気がします。
魔女ですね。
美しい女性を巡ってのライバル関係という点で、日本アルプス殺人事件とちょっと似ている気もします。
森村さんはやっぱり登山が好きなんですね。

 

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