悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

毒を売る女 島田荘司

8月もあっという間に終わった気がします。
もう9月ですね。
朝夕が少し涼しい風が舞い込むようになったかな?と思いますが、日中は相変わらず暑い日が続きますね。


通勤中に読んだ、島田荘司さんの短編小説集です。

毒を売る女

主人公の女性の夫は医者で、呼吸住宅街に住んでいます。
娘を有名幼稚園に通わせていますが、そこに大道寺靖子というちょっと空気が読めない派手めな女性が子供をベンツで連れてくるのです。
自分の娘里美と大道寺靖子の息子豊ちゃんが友達、つまりママ友ということで彼女との付き合いが始まります。
大道寺靖子は夫が医者と知って相談をしたいというのです。
これまでもそういう相談を受けることがあったので、快く夫を紹介します。
彼女の相談は、夫が急に倒れたというのです。
精密検査を受けた結果は、あっけらかんと彼女は「梅毒」だったというのでした。
彼女はお嬢様育ち、つまり世間知らずでした。
夫が梅毒なら、夫婦である彼女も感染している可能性は高く、主人公は彼女を避けたい気持ちで一杯になりますが、そうしようにもつきまとうようになります。



渇いた都市

美味しいパスタの店で声を荒げる美しい女性。
その店のトイレで「事故」がありました。
トイレは男女共用になっており、鍵が中途半端な状態だったため、この女性が用を足していたときに男性が入ってしまい、あられもない姿を見られてしまったのです。
この女性は腹を立て、捨て台詞を吐いて去りました。

レジャー用ゴムボートの生産販売をしている会社に勤める田中昂作は真面目ですが、地味で冴えない中年男性。
妻と二人の子供がいましたが、狭い安アパートから脱出し、家を手に入れるための貯金はかなり貯まって来ました。
田中が通う安いスナック「おた福」にアルバイトとして入ってきた萩尾恵美という若い女性。
美人で気立てもよく、たちまち「おた福」は繁盛するようになり、田中も恵美にぞっこんになります。
ところが恵美はこの店のママのお金を持ち逃げしました。
田中はある時、銀座の高級クラブに連れて行って貰う機会があり、そこで偶然「恵美」を見かけるのです。
恵美はルミと名乗っていました。
そしてお金を持ち逃げしたルミの「汚点」を交渉の材料に、なんとか一晩だけでも自分の女にできないものかと考えるのでした。
練りに練った作戦でルミに近づくことに成功しますが、彼女を囲うためにこれまで必死でためてきた貯金を使い果たしてしまいます。
金のない田中といても意味がないルミは離れようとしますが、田中は怒り狂い、ルミを殺めてしまうのでした。

 

糸ノコとジグザグ

主人公はDJで、かつてラジオ番組の放送をしていました。
リスナーにフリートーキングという企画で、3分間自由にメッセージを送ることができるものでした。
そこで不思議な1本の電話があり、その内容がものすごく気になった番組のスタッフが主人公にその内容を伝えます。
そのメッセージは自殺を示唆しているもので、番組でこれを取り上げ、この人の自殺を止めようという企画になり、多くのリスナーを巻き込んで盛り上がるのです。

ガラスケース

ガラスケース内で生命の進化が描かれていきます。

バイクの舞姫

水城爽片子は、由緒ある日本舞踊の家元の一人娘で、美しく才能も有る女性でした。
主人公は、今持って彼女と愛し合っていたのが不思議でなりません。
あまりにもかけ離れた存在で、この恋は実ることなく彼女の自殺で終わります。
その彼女が突然、バイクに跨って、自分の目の前を通り過ぎていきます。
すぐにそのバイクを追いかけていくと、そこには

ダイエット・コーラ

蓑村八兵衛はダイエット・コーラを発明し、大ヒット。
そしてとてつもない大金持ちとなります。
彼には不思議な事がありました。
就寝時間と起床時間が毎日1時間ずつズレていくのです。
大金持ちになった今、彼はそれをなんとかしようと社員の知恵を集めます。
その中で、地球の時間を25時間にすれば良いという意見がありました。
その方法とは一日に15度ずつ西へ移動して眠れば、1時間の時差で一日が25時間になるというものでした。

 

土の殺意

警視庁捜査一課殺人犯の吉敷は、かつて奇妙な事件を担当します。
その事件は銀座の裏路地で磯村精次郎という元役人の老人が殺害されたものでした。
その日、息子と一緒に映画を見て、銀座で久しぶりに一緒にお酒を飲んだのです。
その時に横に来たガラの悪い地上げ屋とちょっとした口論になったのです。
その地上げ屋をようやく見つけ、彼は口論になったことなどは認めましたが、断じて殺していないというのです。
そしてその時演説のように喋っていた磯村老人の録音が地上げ屋のマイクロカセットにあるのでした。

数字のある風景

数字の羅列(暗号)に意味を見出すことができる特殊な能力を持つ男の話です。

 

感想

島田荘司さんの短編集です。
タイトルになっている「毒を売る女」、そして「渇いた都市」という作品は短編としてそれなりのボリュームのある小説で読み応えがありました。
「毒を売る女」の「毒」とは「梅毒」です。
エイズ以前は「梅毒」というものがとても恐ろしい性病として知られていましたが、ある潜伏期を過ぎてしまうと完治できず、最終的には脳までやられてしまい、姿も変わり果ててしまいます。
無知なセレブの奥様が、梅毒になったこと、そしてそれを避けようとする主人公の女性との激しい攻防を描いています。
この小説は心理的なホラーですね。

「渇いた都市」というのも、モテない冴えないサラリーマンが身の程をわきまえず自滅していく話です。
主人公の田中昂作は、笑いのネタとして描かれている部分もあります。
あまりにひどい書かれようなので気の毒にも思いましたが、人殺しにまでなってしまいます。
魔性の女というのはそういうものなんでしょうか。
私はそういう女性とは出会ったことがないので、よくわかりません。
冒頭の部分が最後に結びついていきます。
面白い作品ですね。

「ガラスケース」「数字のある風景」というのもなかなか変わった作風ですが、あまりに短く、本当に短編です。
どちらも星新一風というような感じですかね。

「土の殺意」というものはバブルで土地が高騰化し、相続したときの税金が払えなくなるということが引き金となった、なんとも後味の悪い内容です。
もうブラックな感じが詰まった作品ですが、面白かったですね。

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