我孫子武丸さんの本です。
このペンネームの名付け親はあの大御所、島田荘司さん。
私は我孫子武丸さんの本を読むのは初めてですが、名前は知っていました。
というか、私のように本は知らないけれど、「我孫子武丸」の名前を知っている人はたくさんいると思います。
TVゲームでヒットした「かまいたちの夜」のシナリオを書いた人です。
このCMがとても印象に残っています。
タイトルからして怖そうなイメージがありますが、タイトル通りの内容でした。
登場人物
蒲生稔
この本の主人公。
真実の愛を求めて、殺戮を繰り返す冷徹な殺人鬼。
サイコキラー。
蒲生雅子
若くして結婚し、出産。
しかし夫婦関係は冷めており、彼女の生きがいは子供との平穏な生活。
樋口武雄
妻を病気で失い、生きる希望を失った元刑事。
島木敏子
妻の入院中の担当看護師。
その後落ち込んでいる樋口を支え続けてくれた女性だが…
島木かおる
敏子に瓜二つの妹。
あらすじ
蒲生稔は、逮捕の際まったく抵抗しなかった。
樋口の通報で駆けつけた警官隊は、静かに微笑んでいる稔にひどく戸惑いを覚えた様子だった。
蒲生雅子は、二十歳のときに結婚し、2人の子供、息子と娘を産みました。
夫は子育てや家庭生活には無関心でしたが、それなりに稼ぎがあり、経済的な苦労はありませんでしたが、夫婦生活は冷めきっています。
雅子にとっての心配は、息子が犯罪者ではないのか?という疑いを持ったことです。
樋口武雄は元刑事でしたが、今は最愛の妻を失い希望もない抜け殻のようになってしまった人物です。
いつ死んでもおかしくない状態に手を差し伸べてくれたのが看護師の島木敏子でした。
島木敏子は妻が入院しているときの担当の看護師でした。
蒲生稔は女性を愛したことがありません。
知的で見た目も悪くありません。
女性との性行為は早くに経験していますが、愛することはできず、露骨に乱れる女性に対しては嫌悪感すら感じていました。
愛とは何か?がわからなかったのですが、初めての殺人で愛に目覚めてしまいます。
そしてその愛を求めて次なる獲物を殺めていくのです。
こうして次々に蒲生稔の愛を確かめるための犠牲者が増えていきます。
彼は最後に本当に欲しかったものに気づきます。
感想(ネタバレ要素あり)
蒲生稔は、逮捕の際まったく抵抗しなかった。
樋口の通報で駆けつけた警官隊は、静かに微笑んでいる稔にひどく戸惑いを覚えた様子だった。
この本のエピローグで書かれている部分、しかも、その冒頭で書かれている文章です。
つまりはこの本の殺人鬼は初めからわかっています。
そしてその殺人鬼を一人称にした部分もかなりの分量を占め、その殺戮の方法がおぞましく、とてつもなく残虐であるため、この小説はグロいという評価を受けていますし、そのとおりだと感じました。
わりと残酷な映像の映画を見たりするなど、ホラーなどにもある程度は耐性がある方だと思うのですが、それでも文章による叙述は時として映像以上に迫りくるものがあります。
初めから犯人がわかっている小説なので、グロさや犯罪行為ばかりを注目してしまう流れとなっていますが、ミステリーとしても作品全体としてのし掛けがあり、ほとんどの人が騙されてしまうでしょう。
そうですね、初めから騙されてしまうのです。
文章そのものがトリックになっているというか、やられたと感じます。
ラストシーンもまた衝撃のシーンなのです。
3人の主人公がそれぞれ代わる代わる心の中を描いていきながらこの物語は進められていきます。
一人目はサイコキラーの蒲生稔。
二人目は息子を心配する蒲生雅子。
そして三人目は元刑事の樋口武雄です。
犯人の狂いっぷりがすごく、読後感もあまり良くはありませんが、最後に騙されたとなる小説なので、ミステリーとしては楽しめる作品ですね。