悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

腐蝕の構造 森村誠一

f:id:tails_of_devil:20220308012917p:plain

いつものごとく、通勤途中で読んでいたものです。
書評をまとめるのに多少手間取って遅くなってしまいました。

 

タイトルからはどんなストーリーなのか想像はできませんでした。
冒頭の部分を読むと登山関係の殺人事件?と思ったのですが、山のシーンはわずかです。
そして主人公はてっきり雨村という原子力の研究者だと思っていたのですが、割と早い段階で飛行機の墜落事故で行方不明となります。
そして夫を追いかける若妻の久美子を中心に話が進んでいくのです。

 

登場人物

雨村征男
有能な原子力技術の科学者。
研究所内で若手ナンバーワンの実力。


土器屋貞彦
土器屋産業という新興商社の2代目。
雨村とは学生時代からの友人だが、性格はまるで正反対。
強引な性格。

 

名取冬子
代議士名取龍太郎の娘。
どこか憂い表情のある美人。


雨村久美子
雨村の妻。
素直で美しく、雨村と同じ職場の総務として働く女性。
冬子と雰囲気が似ている。

 

名取龍太郎
大物国会議員

 

名取一郎
名取龍太郎の息子

 

松尾俊介
新和グループの社員でグループ内の汚れ仕事を引き受ける。

 

大町
久美子と行動をともにするようになる謎の人物。


中橋正文
国防官僚。
汚職に手を染めるほど悪いことはできないタイプだったが、立場を利用していい思いはしたい小悪党。
しかし、甘い罠にすっかりと嵌められてしまう。


三杉さゆり
男性を虜にするとびきり魅力的な女性。
若くして、銀座のブティックを経営。

 

あらすじ

(ネタバレが少しあります)

学生時代からの友人同士である雨村征男と土器屋貞彦はアルプスへに登山。
そこで見かけた憂いのある女性に心惹かれる土器屋であったが、その女性には男の連れがおり、いたずらで標識に細工をします。
そのカップルは遭難してしまいます。
連れのいたずらが原因ではないかと責任を感じた雨村はすぐに救助に駆けつけます。
そして女性の名取冬子だけは救い出されます。
亡くなったのは彼女の兄の一郎。
一郎と冬子の父である名取龍太郎は大物国会議員でした。

娘を救出したことがきっかけで、新興の商社である土器屋産業の跡継ぎでもある土器屋貞彦と冬子は結婚することになります。
奇しくも雨村も同じ日に職場の間島久美子と結婚することになりました。

政治家名取龍太郎と実業家土器屋貞彦は、利害で結びつき、お互い利用するための存在でした。

雨村は濃縮ウランの画期的な製造方法を見つけ出します。
しかしそのことがあらゆる方面から狙われることになると同時に、雨村は苦悩します。
雨村は純粋は科学者であり、原子力の平和利用を願っているのでした。
雨村は若いながらも、原子力に関してはすでにあらゆるところで注目される研究者でした。


土器屋は義父のコネからジリ貧となっている土器屋産業の復興を目指し、国防官僚である中橋正文を三杉さゆりを使って籠絡します。

新和グループは新興の土器屋産業と比べて遥かに実力のある財閥グループです。
国防における甘い汁に群がるという点では同じ人間たち。
そして彼らは大物議員である名取龍太郎がすすめる新潟に原子力発電所を誘致する計画に加わろうとしてきます。

邪魔な存在になるのは格下の土器屋産業です。
さらに原子力の世界で大きな発言力を持つキーマンの雨村の動向でした。
新和グループの総帥本田義和は、汚い仕事の手駒として使っている松尾俊介を使って、雨村の引き込み工作を行うのでした。

真面目な雨村はにわかに自分を引き込もうとする勢力の存在に気づきます。
同時に自身の研究に疑問を持ち始めるのでした。
雨村の新居には様々な勧誘のための連絡が入るのですが、彼はすべて断っているのでした。

雨村は、これまで飲酒をして帰宅するということはなかったのですが、ある夜深酒をしてから帰宅。
久美子は雨村の独り言を聞いてしまいます。
彼女は愛する夫が自分ではなく別の女性を愛していると悟ります。

雨村は原子力に関する会議があるため、出張となりますが、彼を乗せた旅客機は自衛隊機衝突事故で墜落します。
大勢の乗客が亡くなりましたが、雨村の死体は発見されませんでした。

諦めきれない新妻の久美子は事故現場へ足を運び、調べていきます。
そんな折、雨村が暮らしていた新居が何者かに襲われます。
雨村の研究成果を収めた資料を探しているようでしたが、久美子は夫の研究については何も知らないのでした。

雨村の事故当時の痕跡を追いかける久美子は、夫が事故旅客機には登場していないことを知ります。
彼女は雨村が会おうとしている人物こそ、雨村の本当に愛する女性であるのではないかと察し、後を追うのです。

そんな久美子を追いかける謎の人物が彼女を脅し、そして実際に襲いかかるのでした。
久美子を助け出したのがたくましい山男で、彼は大町と名乗ります。
夫を失い、不安な久美子の前に現れた大町に徐々に惹かれていきます。
また大町も久美子に強く惹かれるものの、彼には強い誓いを立てており、自分には久美子を愛し、愛される資格がないというのでした。

そんな中あるホテルで土器屋貞彦が射殺されるという事件が起きます。
土器屋の殺人事件の犯人は見つかりませんが、調べていくうちに様々な人物が浮かび上がってきます。
このホテルにいた国防官僚の中橋、その部下の坂本。
中橋の情婦とみられる三杉さゆり。
そして新和グループの息のかかった松尾俊介。

さらにその後、松尾と亡くなった土器屋の妻冬子との不倫関係が発覚します。

雨村は生きているのか?
どこに潜んでいるのか?
久美子を襲った謎の人物は?
心惹かれる謎の男、大町の正体は?



感想

(ネタバレが少しあります)

はじめは森村誠一さんお得意の登山の小説?とも思ったのですが、登山が出てくるのは冒頭のシーンとラストに描かれる事件の真相のところで、基本的には利権がらみ、政治がらみ、お金が絡んだ物語です。


はじめは雨村が主人公だと思っていたのです。
描かれ方も主人公にピッタリの人物で、どういう展開になるのか?と思っていたんですね。
でもあっさりと航空機事故によって、この物語から消えてしまいます。
そこからは妻の久美子が中心となって物語が進みます。
つまり主人公は雨村久美子ということになります。
この久美子という人物は取り立ててなにかに優れているわけでもなく、親の言うとおりの素直な箱入り娘です。
特に資産家でもなんでもなく、ごく普通の女性。
夫の雨村との結婚生活には満足しており、幸せの絶頂期を襲った不幸でした。

しかし雨村が久美子と結婚したのは意中の女性を諦めるためでした。
意中の女性とは冬子。
大物政治家の娘である冬子は研究者であり、サラリーマンである自分とは釣り合わないと考え、身を引くことがよいと考えた結果なのです。

幸せな新妻の久美子は、徐々に自分が冬子の身代わりであったことを知ります。
彼女は死を受け入れられない新妻でしたが、雨村から大町へ自分の気持が移りつつあることを自覚していきます。
このあたりの心情の変化も恋愛小説ほどにはくどくありませんが丁寧に描かれています。

さて、この謎の人物、大町ですが、登場したときから素性を明かさず、エンディングまで正体は明かされません。
この事件とどのように関係しているのかという点で非情に興味深い存在でした。
勘の良い読者なら、気づくんでしょうね。
ただ、二人は結ばれることはありません。
大町は冬子をかばって死んでしまうのですね。
冬子からの手紙が久美子に届くのですが、久美子にとっては疫病神のような女性でしょう。

冬子も気の毒なお嬢さんだと思いますが、雨村夫妻は彼女に散々な目にあったことは事実です。
もちろん、娘は自分の政治的な駒としか考えていない父龍太郎の犠牲者ですが、自分の運命に抗えなかったのでしょう。
自殺というか男を巻き込んで心中(彼女が主導したかどうかはわかりませんが)を図るのですが、死にきれなかった人物。
はじめは血のつながらない兄、一郎との恋を実らせることができなかったための、自殺未遂。
二度目は兄の身代わりとして犠牲となった雨村ですが、このときも彼女は死にきれなかったのです。
夫の土器屋貞彦も殺されます。
更には脅されていたとはいえ、松尾とも一緒に死のうとするのですね。
そのために大町は久美子の代わりに命を落としてしまうのです。
冬子には死がつきまとい、周りの男を次々と死へと追いやってしまうようです。
そこに物憂げな佇まい、影のある女性として、男性から見れば魅力的に写ったのでしょう。

似たような顔立ちでありながら、久美子とはぜんぜん違うんですけどね。
久美子にとっては、夫を奪われ、その後真実の愛を実らせようとしていた大町の命も彼女によって奪われた形ですね。

 

2時間サスペンスドラマを描くにはちょっと足りないかな?と想像していました。
調べてみると1970年代にドラマ化されており、全7話だそうです。
原作とは少し違う部分もありそうですが、見ごたえありそうですね。

 

 

 

Copyright ©悪魔の尻尾 All rights reserved.