悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

高層の死角 森村誠一

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昨日もずっと雨、今日もずっと雨が降っていました。
職場で「七夕の夜はいつも雨」という会話を小耳に挟みましたが、たしかに雨がよく降る時期ではあります。
本日も引き続きかなりまとまった雨が降っていましたね。

 

かなり以前にセールか何かで買った電子書籍だったと思いますが、積ん読にしておくにはもったいないと読んでみました。
長編小説なので、手軽にさっと読むという感じではなく、読み応えはあります。
最近の推理小説ではなく、1969年の小説です。
時代にそぐわない点、例えばスマホや携帯電話と言ったものがない時代の話ですが、当時の最先端のホテルマンたちの世界の話になります。
私には全く縁のない世界ですが、だからこそ新鮮に読めたのかもしれません。

  

あらすじ (ネタバレあります)

東京都内の一流ホテルの一室3401号室に常駐しているホテルのオーナー社長の久住氏が何者かによって殺害されます。
久住氏はワンマン社長で敵も多い人物ですが、ビジネス上のライバルとはいえ、殺害されるというのは異常な事態です。
そしてホテルは密室状態であり、鍵を管理している内部の犯行であると飲み方が強まり、操作を進めていきます。
久住社長の秘書で美人で評判の有坂冬子の疑いが濃厚でしたが、彼女には完璧なアリバイがあるのでした。
そしてそのアリバイが完璧すぎることにも疑問を投げかける刑事もいましたが、彼女のアリバイを完全に証明するのが、この操作にも加わっている警視庁捜査一課所属の刑事である平賀高明でした。
平賀は有坂と交際中であり、事件当日には二人は濃密な関係に及んでいたためです。
平賀は、数年前にホテルで受付をしていた有坂に一目惚れし、猛アタックした結果、忙しい中でも時間を捻出してデートに誘い出しているのでした。
平賀との関係は食事に行くなどの浅い関係ながら、突然その日になって彼女と結ばれたのでした。

彼女は殺人事件に関しては、当然真っ先に疑いがかけられる立場にあり、それを防ぐためにアリバイを作っていたかのような動きをしています。
そしてそのアリバイをより完璧なものとするために、交際相手である刑事の平賀を利用したのです。
彼女の後ろには共犯者である「男」の存在を感じます。
平賀のショックは大きく、上司の村川に辞表を出しますが、とりあえずは保留になります。
美人で評判の有坂を知らないホテル業界人はいないほど彼女は有名でしたが、身元は固く、男の影は浮かびませんでした。

そんな中、彼女は九州へ旅行へ行き、そこで何者かによって殺害されます。
自殺とも考えられましたが、その前後の行動から自殺である可能性はありません。
そして彼女の体からは男性の存在が確認されるとともに、謎のメモが発見されるのでした。
平賀は有坂冬子を背後で動かす「男」こそが真犯人であると考え、彼女のためにもますます真犯人への憎悪が強まり、この事件の捜査の鬼となります。

平賀の愛した有坂冬子には愛する男がおり、久住社長殺しを実行するために、その男が社長の部屋に入れるように細工するとともに、自身のアリバイを完璧にするために、平賀と寝たと考えられるのです。



彼女と男性の接点を探すのは非常に難しい状況でした。
その中で浮かび上がったのが、ライバルの東都ホテルの企画部長の橋本国男でした。
一流ホテルの部長ともなれば、かなりの年齢と思われますが、独身で非常に若く、優れた資質を見込まれている人物です。
同時に彼を推しているのが、東都ホテルのオーナー前川社長で、社長の令嬢との縁談もあり、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの出世頭です。
有坂との交際が社長令嬢との結婚の障害になり殺害した可能性はあるわけです。
彼のアリバイは微妙なのですが、有坂殺しを証明できないのです。
それは殺害現場が九州福岡のホテルの一室だったためです。
橋本は、東京の別の巨大ホテルの一室で11時間に及ぶ長い時間、ホテルに閉じこもって仕事をしていたというのです。
そして彼のホテルのチェックイン、チェックアウトからその前後のアリバイは確定しているのですが、その間に九州へ行って、有坂を殺害して帰ってくるというのがほとんど無理なので、そのアリバイ崩しのために、考え抜いての捜査になります。

緻密な捜査、九州の刑事の協力もあり、トリックを見破り、橋本を逮捕。
橋本は頭が切れ、完璧に近い行動をしていたのですが、近辺を洗う刑事たちが革新の触れてくるに連れ、この様になってしまうことを覚悟していた様子で、素直に罪状を認めました。

 

社会派ミステリ、感想

よく推理小説には、本格派ミステリとか社会派ミステリと言った言葉を聞きます。
密室殺人という事件の謎解きなどが本格派ミステリの代表的なものですね。
この作品は、密室殺人や時間的不可能というアリバイ崩しがメインの本格派ミステリとも言える部分がありますが、社会派ミステリと言えますね。
この小説では、密室部分の点は割と早めに解決するのですが、アリバイ崩しという点が大部分という感じですね。
第一の殺人である久住社長はもっとストーリーに絡んでくるのかと思ったのですが、そうでもなかったのですね。
やたらと航空機の乗り継ぎによる日帰り九州ツアーというものを証明できるかどうかという点がポイントなのですね。

主人公の平賀刑事が愛した女性が第二の殺人の被害者ですが、第一の殺人事件には実行犯ではないものの、かなり深く関与しています。
それだけ相手のことを深く愛していたわけですが、それにも関わらず、自らのアリバイ証明のために、自分に好意を寄せてくれている刑事と肉体関係を結ぶ、という点がどうもしっくりきませんでしたね。

この手の小説は、もう少し短いほうが良かった気もしますね。
長編ではやはり「人間の証明」「野性の証明」が内容的にもずっと良かったですね。

森村誠一氏の作風

この本は森村誠一氏が作家として評価されるようになった作品です。
第15回江戸川乱歩賞受賞作品です。
この作品だけでなく、「超高層ホテル殺人事件」などホテルを舞台にしたものはいくつかありますが、それは森村誠一氏が若い頃、ホテルマンとして働いていた経験からくるものですね。
また「日本アルプス殺人事件」など山登りを題材にしたものも学生時代にかなりのめり込んでいた経験からくるものですね。
小学生の頃はもちろん知らなかったのですが、中学生になると、やたらと角川映画外からみもあって、「森村誠一」という名前の作家は日本で一番人気のあった作家というイメージが強かったのです。
あんなに売れていた森村氏ですが、やはり「悪魔の飽食」で何かと問題になってから鳴りを潜めたのかな?と思っています。

 

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