悪魔の尻尾

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筒井順慶の悩める六月 中南元伸

Amazonより

中南元伸さんの歴史小説です。
失礼ながらお名前も知らない作家さんでした。
筒井順慶という戦国大名としてはなんとも微妙な主役になりづらい人物を描いた小説です。

関西人には筒井順慶の話す言葉が妙に生々しくて、大変面白かったです。

戦国時代、本能寺の変直後の話なので、登場人物もだいたい有名な人が多いですが、こと筒井家となると全然知りません。
そこで一部紹介しましょう。

筒井順慶
この小説の主人公で、「御館様」です。
自分よりも長老もいるため、そのあたりへの気遣いもあり、また母親には頭が上がりません。

松倉右近
筒井家筆頭家老

島左近
戦上手な筒井家家老

慈明寺左門
筒井順慶の叔父(父の実弟)であり、義理の兄(実姉の夫)。
筒井一門の長老。

井戸十郎
譜代の家臣。
槇島城城主。

筒井藤四郎
子のない筒井順慶の養子となった慈明寺左門の次男。

 

日和見で山崎の合戦にほとんど間に合わなかった筒井家を面白おかしく描いた歴史小説です。
現実には日和見をしたくてしたわけではなく、様々なしがらみの中でそう動かざるを得なかった筒井順慶の苦悩が描かれています。
この物語は本能寺の変が発生してからわずか2週間の出来事を描いています。
「序」からはじまり「初日」「二日目」「三日目」…と章は日付で構成されています。
そして山崎の合戦という本番が「当日」、「翌日」「翌々日」ととてもわかり易い章立てになっています。
序は本能寺の変
つまり明智光秀が主君の信長を討った。
中国攻めの最中であった羽柴秀吉がその情報を入手するや瞬く間に和議をして中国大返しをやりのけてしまう。
明智光秀側としてはじっくりと畿内の勢力を固め、善政をして民を味方につければという計算だったのかもしれません。
筒井家は本来なら明智家の味方となるはずの親交の厚い間柄。
しかし裏切りはいかん、と本当に筒井順慶が思っていたのかどうかわかりませんが、この小説ではそこが味方しないことの決め手になったように描かれています。
とはいえ、本音でいうと、「勝ち馬に乗りたい」ということが全てであり、明智にすぐにお味方にという親明智派の家臣たちも次第に、「明智派では冷や飯を食う」ことになることがわかってジタバタするシーンなども面白いです。
筒井家を取り囲む武将たちの中にも気骨のあるやつもいれば、権威を傘に偉そうにするだけの薄っぺらいやつもいて、その描き方にクスリと笑ってしまうようなシーンが多かったです。
大和国、つまり奈良ということで大阪に住む私にはとてもわかり易い方言で楽しく読めました。
また秀吉や明智家の武将は中部地方の言葉で、その方言の生々しさが妙に心地よかったです。
筒井家といえば戦国武将として余り目立つことはないですが、あの松永久秀と激しく戦ってきたわけですから、なかなか苦労は絶えなかったのでしょう。

とても有名な史実、「本能寺の変」と「山崎の合戦」の間のとても短い期間に絞っていますが、それだけにわかりやすく、読みやすく楽しめましたね。

 

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