悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

灰色の犬 福澤徹三

福澤徹三さんの本を初めて読みました。
九州の言葉で書かれた会話がなんともいい感じでしたね。

 

登場人物

片桐遼平
大学卒業後、就職するもブラックな職場環境で辞めてしまう。
父が警察官で真面目な人間であることはわかっている。
詩織という交際中の女性はいるが、別れを切り出された。


片桐誠一
警察官。
仕事一筋の真面目な人物だったが、理不尽な理由で捜査四家を外される。
そして妻と離婚。
息子との二人暮らし。

刀根剛
堂島総業理事長補佐というわけのわからない肩書を持つ52歳のヤクザ。
懲役に行ったことがなく、シノギもなんとかやりくりしながら上納金をきちんと収めているある意味真面目なヤクザ。

重久
片桐誠一の部下。


武藤大輔
天邪鬼のリーダーで札付きの不良だが、片桐誠一には従順な17歳。


反町
堂前創業の若手ヤクザ。
シノギがうまい。

 

 

 

あらすじ

片桐遼一は、自分が就職した会社に嫌気が差して退職し、今は仕事を探しつつ、家でブラブラしている毎日でした。
彼の父親は真面目な警察官であり、不祥事を起こすことがあってはならないとは思っています。
しかし、交際中だった彼女とも別れ、キャバクラ、パチンコとその日をただ目的もなく過ごす毎日。
父との折り合いが悪く、ついには闇金融に手を出してしまいます。
父の誠一は息子を心配しつつも、刑事としての仕事があり、家をあけることも多かったのです。
以前は捜査四家の刑事として活躍していましたが、ある事件の濡れ衣によって外され、現在は生活安全課の警察官として仕事をしています。
ところが突如やってきた県警本部長の訓示によって、上層部が動き出します。
暴力団壊滅に向けての訓示で、どうしても「実績」が必要なのでした。
生活安全課に異動していた片桐誠一は、今更ながら戻る気は失せているのですが、上司の要請で仕方なく組織犯罪対策課の応援に行くことになります。
過去のつてを使っての「やらせ」でもいいから銃をあげろと言われる誠一は気乗りしないものの、致し方なく過去に多少知った刀根剛を当たるのでした。
刀根剛は堂島組のベテラン組員。
階級は堂島総業理事長補佐というわけのわからない肩書ですが、真面目にシノギで稼いだ金を上に収め続けてきました。
理不尽に感じることもありますが、プライベートでは妻と二人の子供を養うために「真面目」にヤクザ家業をしているのです。
そんな刀根は、警察の犬になるつもりはないものの、無視することもできず、銃を入手し、片桐誠一に流すのでした。
末端で苦労しながらあえいでいく刑事と組員。
片桐は警察官として窮地に立たされていきます。
また刀根も非常に辛い立場に追い込まれていくのです。
闇金に追われることになった息子の片桐遼一は、とあることから父の名を聞き、その情報を携帯で父に知らせます。
二人は真相を徐々に知っていくに連れ、これらの一連のことが自分たちをはめるために行われたことを知ります。


感想

この本の目次は1から101まで、シンプルに数字が割り振られています。
ただ、はっきりしているのは、この章立てで一人称の視点がコロコロ変わります。
片桐遼平▶片桐誠一▶刀根剛
この3人の一人称視点で描かれながら話が進んでいきますね。
優柔不断で流されやすい警官の息子、真面目で貧乏くじを引いた警察官、優柔不断でそんな役回りのヤクザです。



大変面白かったですが、途中で苦しくなるような展開も多々ありました。
小説なのですが、割と生々しいと言うか。
グロい描写はありませんが、心理的に追い詰められていくようなところがあります。
特に警察官の息子である遼平が落ちるところまで落ちていくのは、最初は自業自得だと思っていました。
救いようのないバカだとも思いました。
しかし、読み進めていくうちに、本来はどこにでもいるような気の弱い善良な青年なのだと言うことに気づきます。
だからこそ、こうやって闇に落ちていくのか?と思うとゾッとします。
この物語は腐った組織として、警察とヤクザがそれぞれクローズアップされていきます。
真犯人である人物はもちろん悪いのですが、その悪い根本を直さないんです。
そして組織そのものが腐っているので、自浄作用がありません。
保身のために、下のものに罪をかぶせて逃げるという「伝統」があるのでしょうか。
そういった保身のために切り捨てるという「伝統」はすべて上から順番に下のものに伝わります。
そして最下層に位置する現場では、そのツケを負わされます。
最も苦労をしている人が報われません。
父誠一がトカゲのしっぽ切りのように扱われていく様子が読んでいて辛いです。
若い息子の遼平もブラック臭溢れる職場で上司と揉めて辞めたのですが、おそらくその企業も同じような体質を持っていたのでしょう。
閉塞感にあふれる今の日本の縮図のような気がしないでもありません。
正しいことが行われず、上の不祥事を隠すために下っ端にしわ寄せが行く社会。
なにか虚しい気持ちになります。

上には上がいるように下には下がいる。
貧しいものがより貧しいものから搾取する、そんなことを学んだ遼平は落ちるところまで落ちていきます。
遼平の怠惰で決めきれない優柔不断さが招いたことですが、多くの人が遼平と同じだと思います。
自分は絶対に違うと言いきれるのか?と言うのはとても難しいでしょう。
持てるものと持たざるもの。
持てるものは力も富もあり、持たざるものから搾取する。
ケツの毛までむしり取るとはまさにこんな感じなのでしょう。

 

ヤクザですが、真面目に勤め上げて来ている刀根という人物も憎めない男です。
世間知らずの妻に頭が上がらないダメおやじですが、息子や娘の教育はきちんとしてあげたいという父親ぶり。
店を任せている子分の生活などにも気を配るなど、ある意味苦労ばかりしている中間管理職そのもののような気がします。
この刀根がいる組も親分が小汚い人物です。
もちろんヤクザですから、綺麗事ではありませんが、汚すぎます。

このタイトル「灰色の犬」と言うのは絶妙で、「犬」は警察官の隠語であると同時に、組織の下っ端という意味にも取れます。
つまり「灰色の犬」は片桐誠一の場合はそのままですが、相棒となる刀根剛も「灰色の犬」でしょう。
エンディングは一応ハッピーエンドと言えるのか?という点では、これもやっぱり「灰色」なんですね。


 

 

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