悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

護られなかった者たちへ 中山七里

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Kindle Unlimitedにあったのでダウンロードして読んでみました。
あまり期待していなかったのですが、しばらく読みすすめるとのめり込んでしまいました。
ミステリとしての物語はシンプルでとても浅いのですが、実話をベースにしたこの物語は、強いメッセージを持って語りかけてくるような読後感があります。

 

登場人物

利根勝久
主人公?この物語のキーとなる人物。
大変真面目な性格だが、その性格のために暴力沙汰を起こしてしまい、刑務所に入っていたが、模範囚として仮出所する

笘篠
捜査一課の刑事。
東北の震災、宮城沖の津波によって愛する妻と息子を失った悲しき刑事。

蓮田
笘篠とコンビを組む若手刑事。
正義感が強く、加害者に同情する一面もある。

東雲
宮城県警の上層部。
今回の連続殺人事件において、犯人確保のために躍起になっている。

三雲忠勝
福祉保健事務所に務める役人。
生活保護を担当。
非常に優れた人物で、職場での評判はすこぶる良い人物。
妻からも信頼されており、恨みを買うようなことはないと、みんなが口を揃えて言う人物。

城之内猛留
宮城県議会議員。
品行方正を絵に書いたような議員であり、政治家特有の黒い噂は皆無。
公務はもちろんのことプライベートでもとても堅物で、浮いた話なども一切ない人物。

上崎岳大
塩釜福祉保健事務所で所長として働いていた。
妻に先立たれ、定年後の現在は「宮城セレブリティ倶楽部」の団体として、活動している。

遠山けい
利根とちょっとしたことで知り合った高齢の女性。
元看護師で竹を割ったようなさっぱりした性格。
ただし、看護師としての規定の期間に満たなかったため、年金はなく、貯金を取り崩しながらの生活で、ドンドン困窮していく。

カンちゃん
遠山けいのならびに住む少年。
父はおらず、母が夜の仕事をして帰宅が遅いため、遠山けいの家で過ごすことが多い。
小柄なため小学生に見えるが実は中学生。
料理が得意。

 

櫛谷貞三
利根の保護司。
元刑事で人間というものを観察し尽くした人物。
利根の人柄を信頼しきっている人物。

 

五代
利根が刑務所にいた頃の仲間。
出所後は「名簿屋」として羽振りは良い。
利根の人柄を見込んでいるが、同時にその危うさも感じている。

登坂
かつて利根を雇っていた鉄工所の社長。
非常に人情味の熱い人物で、利根にとっては居心地が良かった。
しかしそれが災いしているのか、経営は厳しい状況。

神楽
登坂の経営する鉄工所に融資した「ヤクザ」。
利根の腕っぷしの強さを見込んで「ヤクザ」にスカウトする。

あらすじ

消息を絶った福祉保健事務所に務める三雲忠勝が死体で発見されます。
体は拘束されていたものの、外傷は全く見当たらず、死因は餓死。
所持していた金品は取られておらず、強盗殺人などの可能性はなく、怨恨ではないかとにらみます。
この事件を取り調べることになった宮城県警捜査一課のベテラン笘篠と若手の蓮田は関係者から事情聴取をしたところ、働きぶりは真面目であり、悪口の一つも出てこない人物。
そんな中、第2の殺人事件として、城之内猛留が同じく餓死死体として発見されます。
笘篠たちは、三雲と城之内は塩釜福祉事務所で一緒に仕事をしていたことから、その関連を洗い出します。
そして福祉保健事務所は過去の記録を隠しているようなのでした。

刑務所を模範囚として景気前に仮釈放となった利根勝久は保護司の櫛谷貞三のすすめる職場へ面接に行くものの、前科者ということもあり雇ってもらえませんでした。
利根は櫛谷から離れ、仕事に就くことができましたが、彼には急いでやらねばならないことがあるのでした。
保護司の櫛谷は元刑事であり、利根がしっかりと更生し、まっとうな人間として生きていくことを信じています。



数年前のこと。
利根は元来真面目で曲がったことが嫌いな性格でしたが、チンピラ風情との喧嘩がきっかけで前科持ちとなったのでした。
そんないざこざから救ってくれたのが、「遠山けい」という老女。
80近いのですが、面倒見の良い人物で、けいの近所に住む「かんちゃん」とともに3人は家族のような付き合いをするようになるのでした。

利根の職場がヤクザに乗っ取られ、利根もヤクザものになろうとしているときにも親身になってくれたのがけいでした。

しかし年金のない遠山けいの生活は厳しく、食べるものも困る状況になります。
今度は利根がけいを助ける番だと、生活保護の申請を嫌がるけいを説得して福祉保健事務所を訪れます。
困窮した生活で食うに事欠く状況にも関わらず、遠山けいは生活保護を却下されます。
再三申請するも身内でもない利根は相手にされません。
そうしているうちに遠山けいは貧困の末、餓死してしまうのでした。
利根は生活保護を却下した担当が殺したと事務所を訪れます。
そして、ついカッとなって生活保護担当者に暴力を奮ってしまいます。
その時の担当が三雲であり、城之内でした。
さらに彼らの上席として所長だったのが上崎でした。
結局、この暴力がもとで前科もあるため、刑務所に送られることになりました。

大した弁護もなく、10年というとても長い刑となった利根ですが、真面目に勤め上げて模範囚として8年で仮出所しました。

利根は上崎の居場所を突き止めようとしますが、頓挫し、刑務所での知り合いである五代を頼ることになります。
五代は「名簿屋」と言う仕事をしており、情報通でした。
上崎が買春旅行を行っていることも知っているのです。
五代は利根に復讐の無意味さを伝えるものの、利根の心には憤りが強くなるばかりでした。
笘篠たちは過去を調べ上げ、利根の情報を知っている五代からも調べ上げました。
容疑者として利根は厳重にマークされるのです。

 

感想

映画化されていることも知らずに、この本の内容もまったく知らないまま読み始めました。
暗い話が続きます。
そして物語の進行から、行き着く先はやりきれない思いしか残らないのではないかというエンディングを想像するしかありませんでした。

エンディングは悲しい結末です。
そしてこの一連の事件の真の原因を作ったのは誰なのか、ということが笘篠、蓮田といった刑事たちの調べで明るみに出てきます。

 

大金を稼ぐ芸能人の親が生活保護費を不正受給しているというニュースがあった当時です。
この物語自体も実話をベースにしているといいます。

 

最後に真犯人が犯行に及ぶ前にSNSに残したとされる一文を記載します。
そのとおりだと思います。

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現在の社会保障のシステムでは生活保護の仕組みが十全とはとても 言え ませ ん。
人員と予算の不足、そして何より支給される側の意識が成熟していないからです。
不正 受給の多発もそれと無関係ではあり ませ ん。
声の大きい者、強面のする者が生活保護費を掠め取り、昔気質で遠慮や自立が美徳だと教え込まれた人が今日の食費にもことかいている。
それが今の日本の現状です。
そして不公平を是正するはずの福祉保健事務所職員のちからはあまりに微力なのです。

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この構造は、形を変えて日本の政治、行政そのまま当てはまります。
本来お金を使うべきところに行き渡らず、税を上げても有効に使えていない。
庶民のためにお金をばらまくにしても、クーポンにしてその事務経費が莫大になったとしても、それを委託する業者が為政者の「身内」みたいな組織、天下りの組織であったりするわけです。
声の大きいもの=権力、中枢に近い者たちによって貴重な税金、資金が無駄に使われているわけです。

 

佐藤健さんが主演の映画もあるそうですね。
まだ見ていませんが、機会があれば見てみたいものです。
でも先にこの原作を読んでいてよかったと思います。

読んでいて楽しいと言うタイプの本ではありません。
胸糞悪くなるような内容もありますが、これが現実なのかと思うと、やりきれないです。
セーフティネットとしての社会保障ってどうなっているんだろうと思うのです。

 

日大の前理事長、その周りにまつわる人物を見ていると、胸糞悪くなるばかりですが、これらの不祥事は国政を預かるものや社会の仕組みを司る行政のものの縮図だと思っています。
国のトップが責任を取らず、役人たちの忖度を受けてのうのうとしている姿を思うと、「国という組織も頭から腐っていくんだな」と言う気持ちになりますね。

 

 

 

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