悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

イコン 今野敏

 

昨年読んだ「蓬莱」も良かったのですが、それに引き続き読んだものがこのイコンです。
いつもながらどういう小説なのかという情報もまったくなしに読み始めました。
ゲームと政治を絡めた「蓬莱」とは、テーマはぜんぜん違うんですが、ネットに存在する「アイドル」というものの存在にスポットライトを浴びせた内容です。

 

登場人物

宇津木真(うつぎまこと)
警視庁生活安全部少年課警部補

安積剛志
神南警察署刑事課強行犯係警部補

有森恵美
人気アイドルだが、テレビではなくネットを中心に活躍。

 

三輪義郎
アイドルファンであり、有森のコンサートの企画もするスタッフ。
本業はコンピューター会社に務めるサラリーマン。

 

峰岸裕一
エミタンというハンドルネームの有森恵美のファン。
三輪と同じく有森のコンサートの企画も行うスタッフ。
塾の講師が本業。

 

古橋洋一
第一の被害者。
東青学園という高校の2年。
パソコン通信で知った有森恵美のファンとなり、友人である阿部、相川に伝えています。

 

阿部輝彦
古橋とは中学時代の友人。
突っ張って入るものの幼さもある典型的な不良タイプの少年です。

 

相川渡
古橋、阿部とは中学時代の友人。
しかし3人の中では一番頭がよく、ボス格。
古橋、阿部とともに中学時代は札付きのワルだったらしいです。

 

葉山由里子
古橋、阿部、相川と同じ中学校でした。
彼女も有森恵美のコンサートに来ていました。
不良の彼らとは違い、お嬢様風の生徒ですが、どこか女王様のような佇まいをしています。

 

あらすじ

一部の若い世代に熱狂的な人気を誇るアイドル有森恵美。
警視庁生活安全課の警察官である宇津木真はアイドルには全く興味はありませんが、仕事柄、コンサートをチェックしていました。
アイドルに夢中になるであろう同世代の息子、娘を持っているのですが、ほとんど会話もなく、顔を合わせるのも億劫になっています。
有森のコンサート会場で乱闘が起き、その間に一人の若者が殺されます。
同期の安積剛志は殺人事件ということで、この案件の捜査にあたることになりました。
安積は現場にいた 宇津木と交通課の速水に協力を要請します。
出世しか興味がない警察官の宇津木にとっては、子供のことを専門にしながらも、アイドルやパソコン通信というものに全く理解はできません。
その点は安積や速水も同じでした。
安積班の調査により、殺された古橋には中学時代の仲間、阿部と相川が絡んでいることがわかります。
阿部は、殺された古橋のことをアイドルの掲示板に書き、それに対して有森が返事を書いたのです。
阿部は、憧れのアイドル有森から返事をもらって有頂天になっていましたが、彼は大学の学園祭で殺されます。
関連のある彼らの仲間とアイドル。
有森恵美というアイドルを知るためにアイドルCDを買って見た宇津木。
CDを聞くために息子のラジカセを借りますが、息子は父の買ったCDに興味があるようです。
捜査のためという前提で、息子に有森恵美のことについて聞いてみることにしました。
普段は避けあっている親子ですが、この事件をきっかけに言葉をかわすようになります。

感想

かなり前の小説であることがわかります。
インターネットというものではなく、パソコン通信掲示板を中心に人気が出たアイドルを中心に起きた連続殺人事件です。
今の若い世代にパソコン通信と言ってもピンとこないでしょう。
LINEやTwitterが当たり前に使っている時代です。
現在のようにSNSなんてものもない時代に書かれた作品です。

安積刑事とその部下たちが活躍するのはいつものことのようですが、今回は同期というだけでそれほど接点のなかった警察官たちが活躍します。
この作品のある意味主役とも言える宇津木刑事は、家庭崩壊寸前の状態。
離婚して独り者でいる安積と離婚はしていないけれど、そのために家が居心地が悪い宇津木との対比も面白いです。
この事件を通してアイドル、若い世代の文化に触れ、特に捜査の協力という口実で有森のアルバムを購入したことをきっかけに息子との関係が改善していきます。
取り返しのつかない(と思いこんでいる)安積と違い、宇津木は本来あるべきあたたかい家庭を取り戻していくという点も良かったですね。

今ではアイドルというものは、本人が名乗ればそれでアイドルと言えてしまうほど、その概念は私が若い頃とはずいぶんと違うなあという気がします。
考えてみれば、私が学生だった40年近く前のアイドルはテレビのブラウン管を通して輝いている存在。
今のように身近に触れ合えるアイドルというものは考えづらかったですね。
まあ、当時も「おっかけ」なるものや親衛隊なんてものもいましたから熱狂的なファンなら、そういう機会もあったのかもしれませんが、今ほど〇〇アイドルという冠がつくアイドルってなかったように思います。
〇〇アイドル、略して○○ドルと言うようなものがいたるところにありますよね。
グラドル、バラドル、ママドルとか~。
今の時代への過渡期だったこの小説でも、チバレイこと千葉麗子さんをパソコンアイドルとして述べているシーンなどがあり、懐かしいです。

カメラ小僧を「カメコ」、親衛隊を「エータイ」、愚連隊を「グレン」となっています。
イムリーな世代として生きてきていますが、そのあたりはピンときませんでした。
興味がそれほどなかったからかもしれませんけどね。

それにしても今野敏さんは私よりも一世代上の世代なのですが、この当時から世相を反映した小説を書いていたようですね。
流石にこういうネタは時間とともに古臭さを感じてしまうものですが、書かれた年代を考えると凄いとしか言いようがありません。

 

 

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