悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

ウィザード・グラス 根本聡一郎

Kindle Unlimitedで読んだ本です。
いつものごとく通勤電車内で、Kindle Paperwhiteで読みました。
葉室麟さんの「実朝の首」という小説も一緒に読んでいたのですが、とりあえず、こちらが先に読み終えたので、紹介したいと思います。
根本総一朗さん。
全然知らない作家さんですが、なかなか良かったです。

ちなみに私の愛機Paperwhiteもバッテリーのもちが悪くなってきました。
以前は一度充電したら、ひと月くらいは充電しなくても使えていたイメージがあるのですが、最近はちょっと油断するとバッテリーがかなり減っていたりします。
先日は読もうと思っていたら、バッテリーが無くなって起動できなくなってしまいました。
2016年末頃に購入したので、6年目ですから、仕方ないのでしょうね。

 

 


 

目次

1.Wizard of LOG

2.Entrance

3.通学列車

4.Trade-off

5.Rock on!

6.Yellow Brick

7.Emerald City

8.通勤列車

9.Private

10.Public

11.おくりもの

12.ひみつきち

13.告発者

14.協力者

15.Entropy

16.Home, Sweet Home

登場人物

高峯陽輝(はるき)
明政大学文学部3年。
軽音楽サークルに所属するものの幽霊部員。
地味な性格で女性に奥手。

天瀬那月(なつき)
陽輝の兄。
一緒に暮らしていたのは幼い頃で、父とともに離れ離れになり、アメリカに渡る。
世界的な検索エンジンであるGlooveの社員でウィザードグラスの開発に携わっていた。

冬村つぐみ
隣に引っ越してきた大人しそうな女性だが…

黒須壮平
陽輝の大学の友人で美少女ゲームが好きなオタク。

倉内穣司
大学教授で情報社会論を教えている。

諸星大河
大学の軽音楽部に所属するパンクロッカー「Riot Lion」のボーカル。
反体制でスマホを持たない生活を続ける男。
黒担々麺好きで、なぜか陽輝とはウマが合う。

霧島千明
軽音楽部のアイドルグループ「PRISM」のボーカル。
ビジュアルも素晴らしく、人気者。

 

あらすじ

幼い頃二両親が離婚した陽輝は母と暮らすことになり、仲の良かった兄の那月は父親と暮らすため、二人は離れて暮らします。
二人の兄弟にとって一緒に遊んだゲームの思い出は深く、ゲームを毛嫌いしていた母にゲーム機は全て捨てられてしまいましたが、兄との思い出が詰まっているゲームソフトだけは必死で捨てられないように守り切りました。

そんな兄から突然送られてきた謎の品物。
それがウィザードグラスと呼ばれるものでした。
それはメガネの形をしているスマートグラスです。
ただの情報を取得するだけのスマートグラスではなく、それはスマートフォンで検索した直近の内容5件が表示されるものでした。
検索結果は個人の嗜好や興味を表します。
つまりその人にとって、今、一番知りたい内容と言えるのです。
そしてそのスマートフォンを持っている人が利用しているSNSのアカウントも表示されるのでした。
兄の那月から送られてきたウィザードグラスには暗号とも思えるような短いメッセージがついているのでした。
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俺やグラス
については
絶対に検索
しないこと

正しいことに
使ってくれ

------------------------

陽輝はメッセージに従い、そのウィザードグラスを正しいことに使うことにします。
電車内で陽輝は、ウィザードグラスの力によって、痴漢を撃退しましたが、その痴漢は芸人、つまりちょっとした有名人でした。
彼の痴漢騒ぎはたちまちのうちにTswisterで拡散します。
陽輝はちょっと微妙な気分でした。

陽輝には大学に友人が少ないけれどいます。
オタクの黒須壮平、そして反体制を売りにしているパンクロッカーの諸星大河です。
諸星と同じく陽輝も軽音楽のサークルメンバーですが、ほとんど参加していない幽霊メンバー。
しかしなぜか諸星とは気が合うのでした。
サークルにはとびきりキュートなアイドルグループのボーカルの霧島千明もいます。

ウィーザードグラスを使って痴漢を撃退しましたが、今度は法学部の江草教授が痴漢冤罪として捕まるのです。
冤罪であることは、陽輝にはわかりきっていました。
それは、目の前で行われたのを一部始終見ていたからでした。
教授をはめたのは霧島千明。
なぜ彼女がそのようなことをしたのか、調べていくうちにある闇の組織が浮かび上がってくるのでした。

そしてその闇の組織からついに陽輝もマークされることになるのです。
敵の存在すらわからないまま、陽輝は迷います。
そんなときに陽輝は拉致されてしまいます。

 

感想

ここに登場する巨大IT企業の名前は一応別名にしてはいるものの、誰もがすぐに分かるほど有名企業です
なんといっても敵はGAFAですからね。
Gloove=Google
Apprica=Apple
Friendbook=Facebook
Amaze=Amazon

もうまるわかりです。
そしてそれ以外にも登場するIT企業やゲームなども誰もが知っているものです。
Twister=Twitter
Instagraph=Instagram
LIME=LINE
Pokesto Go=Pokemon Go
ポケットストーリー=ポケットモンスター

SNSでは匿名で個人情報はお互いわからないということを前提にしています。
Facebookなどは実名主義ですが、それでも趣味や嗜好などはわかりません。
むしろ見えるからこそ、そういうふうに表しているという可能性が高いです。
Facebookでは見栄を張ると言うか、リア充自慢が溢れていますよね。
そしてインスタ映えという言葉が生まれたように、どこかで「いいね」をたくさんもらえることに奔走する、止まらない承認欲求。
そういったものに警告を発しているかのような小説です。

そんな中で、スマートフォンや携帯電話なんかくそくらえとばかりに生きている男がいます。
反体制を売りにしているパンクロッカーの諸星大河です。
格好いいですね。
彼のセリフがかなり的を得ています。
彼のセリフを一部引用
「…好きに殴っていいようなやつが出てくるとさ、急に『社会を正す正義の味方』になっちまうやつっているんだよな。Twitserとか、そんなやつばっかだろ」
「会うべきやつとは携帯なんかなくても会える」
これ以外にも格好いいセリフがたくさんあります。

 

江草法学部教授が霧島千明によって痴漢冤罪に巻き込まれます。
江草?一瞬植草という名前が浮かびましたが、たまたまでしょう。
とにかくこの小説には通勤電車内での痴漢騒ぎが事件の発端になっています。
有名漫画家もファンと名乗る少女にハメられますし、この江草教授も学生にはめられてしまうのです。
情報をつかんだものは、その情報の力によって、彼らを兵士に仕立て上げることができるのです。
手をくださずとも、この社会では「死」と変わらないような状況に追い込むことができるのです。

ウィザードグラスというアイテムの存在も面白いのですが、それを動かしているところ、情報を束ねているところこそが黒幕なのです。
その黒幕とは、個人情報を集めまくり、AIによって様々な情報を加工、個人をコントロールできるようになっているのです。
そう、あの企業です。
まるで、苫米地英人さんの「現代洗脳のカラクリ」をもとに作られたのか?と思ってしまいます。

テクノロジーは私たちの暮らしを便利に、豊かにしてくれている部分があります。
しかし一方で、それがあるがゆえの不幸も確かにあるのです。
同時に、それらを悪用する人たち、人を支配するために利用するといったことは当然考えられます。
剣を突きつけ、銃を突きつけて人を脅す、そういう直接的なことはしなくても、情報を握ることは、それ以上に支配力を高めることになりそうな気がします。
そしてこの小説のように情報によって脅すのではなく、知らず知らずのうちに、そのように考えてしまうようなイメージ、情報を流すということによってコントロール=洗脳されていくのではないかと考えると、空恐ろしい気がしますね。

ちなみにこの小説では検索履歴というパーソナル的な闇、誰にも知られたくないセンシティブな情報がこのツールによって暴かれます。
ウィザードグラスは持っていませんが、昔PCのサポートカウンターで働いていた時には、お客様のデータを覗き見するわけではないのですが、見えてしまうと驚く場合があります。
また法人作業などである組織のPCの設定などをしたりするときに、その席のPCにログインしますが、「仕事中に何をやってるねん~」というふうなブラウザの履歴がワンサカ出てきたりします。

検索窓の履歴は、その人の黒歴史であったり、見られて一番恥ずかしかったりします。

 

 

 

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