悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

偽造の太陽 森村誠一

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通勤中に読んだ電子書籍です。

雪山が出てくるので、森村誠一氏の登山の小説かな?と思っていたのですが、それは最初のシーンだけでした。

 

 

登場人物

北村勝平
地元では全く良いところがなく、大学入学を機に上京したものの、人生が好転する兆しもありません。

赤松
謎の人物。
企みを持って北村に近づいてきます。

安養寺高康
長野県皇海市を支配する「殿様」一族の長。
この土地で彼らに逆らうことは許されません。

石山
赤松が連れてきたヘリコプターのパイロット。
ギャンブル狂でお金に常に困っている人物です。

大浜英策
一代で築き上げた事業家で、北沢と偶然知り合います。
男子に恵まれず、3人の娘がおり、末娘の杏子の婿として北沢を迎えることになります。

島田正道
大浜の長女克子の婿。

柳瀬敏章
大浜の次女恵子の婿。

小池
北沢がはじめて持ったお店である喫茶「ラシエル」のマスター。
頭の回転がよく、北沢の信頼を得ています。

あらすじ

北沢勝平は長野県皇海市に生まれました。
父は真面目な人物で市長秘書として定年まで勤め上げたのですが、秘書とは名ばかりで、実際はこの市の支配者である安養寺公康の運転手だったのです。
皇海市は安養寺家が支配する土地であり、安養寺の運転手である彼の父は仕事の保証はあるもののほとんど奴隷のような扱いでした。
勝平は幼い頃から運転手として市長に付き添う父を見て、様々な思いを持ちながら育ちます。

大学入学のために、上京し、そのまま就職したものの、上司と折り合わずに2年で退職します。

一山当てようと、競馬場などでお金を使い果たすという悪循環から逃れられません。
そんな彼と顔見知りになったのが赤松という男。
赤松が何をしている人間なのか知らないのですが、そんな赤松はいつも金回りが良さそうで、酒を飲ませてもらったりしているうちに、相談を受けます。
それはある山荘に大金があり、そこを襲って奪おうという計画でした。
その山荘は険しい山の奥にあり、そこには現役を引退して隠棲している安養寺公康が住んでいるのです。
山荘は冬になれば誰も近づけないほどの険しい環境にあります。
大学時代に登山で鳴らした北沢は、この土地出身でこの山を知り抜いている人物でした。
さらに、赤松は、北沢が安養寺に根の深い恨みを抱いていることも承知しているのでした。
赤松は北沢のことを何もかも調べ上げているのでした。

お金に困っているヘリコプターパイロットの石山とともに3人は山荘へ向かい、石山をヘリに残して、北沢と赤松は山荘へ到着。
そこで赤松は所持していた銃で安養寺を射殺してしまいます。
北沢は金品を奪うということは聞いていましたが、「殺人」となれば話が違います。
しかし、この計画の首謀者である赤松によって、強盗殺人となってしまうのです。
現金を奪い、3人は3等分しました。
それぞれ9000万円ものお金を得ることができたのです。

それから5年経過。
当時は大事件でした。
地方の財閥である安養寺が殺され、3億円もの金品が奪われたのです。
しかし警察の捜査も虚しく、犯人は見つかりません。
北沢は得たお金から足がつかないように、大きなお金を動かすと行ったことはせず、地道に仕事に打ち込みます。
これまで負け犬人生だった北沢ですが、9000万円という大金を得て、人生が好転します。
茶店を始めるのですが、それがあたり、その喫茶店経営を拠点として夜の水商売へと進むことになりました。
その力添えをしたのが大浜英策でした。
車の故障で立ち往生していた大浜を助けた縁で知り合います。
大浜は裸一貫で起業し、一代で財を築き上げた人物。
敵対する者たちを排除してのし上がってきた人物なのですが、北沢との相性が良いのか、彼と共同経営を持ちかけたりするなど、北沢を見込んでいる様子です。

北沢は大浜の眼鏡にかなった人物で、期待に答えて成功していくのでした。
そして自分の3人の娘のうち、未婚の末娘杏子を彼の妻として目合わせるのです。
大浜には長女、次女ともにすでに婿がいましたが、大浜にとっては自分の後継者としてとても物足りなく思っていたのです。

北沢は結婚し、またたく間に大浜ファミリーの後継者レースに参加することになります。
そして、杏子との間にすぐに男児が生まれます。
長女の克子、次女の恵子ともに子供がいなかったため、大浜英策にとっての初孫となり、その喜びはひとしおでした。

山荘を襲ってお金を得てから、北沢はツキが回ってきたかのような人生となりました。
しかし北沢は強盗で得たお金はほとんど手を付けず、ビジネスが順調であったため、むしろお金は増え続けている状態でした。
そう思うと、若い頃に起こしたあの事件のことが気がかりでなりませんでした。

彼は大浜ファミリーでは次期後継者として有望でしたが、自分の城としては直営の喫茶「ラシエル」がありました。
そこは大浜英策と知り合う前から経営していた喫茶店であり、マスターとして任せている小池も頭の切れる男でした。
大浜ファミリーの副社長となった今もこの店に時折訪れましたが、なんと二度と会うこともない、あってもお互い知らない者同士と約束していたたった一度の強盗仲間であるヘリコプターパイロットの石山が北沢に会いに来たのです。

北沢はビジネスで成功しましたが、石山は強盗で得た大金はギャンブルで使い果たしてしまい、ヘリコプターパイロットもやめ、妻にも逃げられた状態。
脛に傷を持った人間として、現在成功者となった北沢を強請るために近づいてきたのです。

 

北沢は、殺人については赤松の独断で行ったことだと石山に伝えます。
はじめは北沢に詰め寄る石山でしたが、次第に首謀者である赤松に対象は移り、赤松の行方を追いかけることになりました。

石山から手がかりを掴んだとの報告を受けたあと、石山は消息を経ち、数日後、遺体となって発見されるのです。
妻に逃げられ、家賃も対応を繰り返す惨憺たる生活ぶりから、彼は自殺として処理されました。
北沢は、石山が自殺することは考えられず、赤松に消されたと考えます。
赤松は山荘襲撃を実行するために綿密に計画を立て、自分を引き込むために、調べ尽くした男です。
ここに来て赤松という男の恐ろしさを感じるのでした。
石山の遺体発見現場の付近で北沢はルージュのついた海外タバコの吸い殻を発見します。
北沢は自分の店にスパイが紛れ込んでいる可能性を考えます。
そして自分の手駒である小池を使って、独自に調査を進めていきます。
喫煙女性をそれとなく聞き出す指示を与えたのでした。
しかし、小池は頭の回転の良い男で、自分の雇用主の北沢と石山が過去に人に言えぬ関係があることを確信し、石山は自殺ではなく、殺された可能性を考えます。
北沢から指示されたとおりに動きつつ、彼は背後にいる人物を突き止めます。
その人物は意外な大物でした。
小池は北沢の手駒として終わらず、その人物から強請ろうと考えたのでした。


感想

森村誠一さんらしい社会派推理小説です。
山荘を襲撃し、お金を奪うという計画は実は殺人のカモフラージュであり、本来の目的は安養寺を殺すことにあったのです。
そして首謀者である真犯人のことは誰もわからないままに、その影に怯える北沢勝平という主人公の心模様を描いています。

北沢は殺すつもりもなく、実行犯でもありません。
しかし、その罪を警察へ自首するということもできません。

同時に、大浜英策という富豪の娘を妻に迎えて、飛ぶ鳥を落とす勢いのある北沢は大浜ファミリーの婿たちとの駆け引きが絡んできます。
主人公を巡る物語としては大きく展開していきます。

北沢を快く思っていない二人の義兄、長女克子の夫である島田正道と次女恵子の夫である柳瀬敏章。
彼らがこの小説を盛り上げるための材料となってくれています。
結局真犯人は、最後まで登場せず、最初から北沢は殺人犯としてはめられてしまったことに気づくのです。

赤松が何者なのか?という点は途中何度か書かれているものの、結局明かされることもありませんでしたね。

安養寺財閥の頂点に君臨する長老の高康の下には市長である安養寺公康の他にも娘婿がいます。
それぞれライバルであり、お互い後継者の座を巡って熾烈に争っているところは、大浜ファミリーの後継者争いと何ら変わるところがなく、その対比もじっくり読めたら面白かったと思うのですが、話がややこしくなるためなのか、割とすんなりと描かれているのみです。

結局の所、赤松は偽名でただの殺し屋だったのでしょうか。
殺し屋を雇ったのは安養寺公康だったのでしょうかね。


長編小説で、読み応えは十分あります。

映画化はされていませんが、1982年にテレビドラマ、サスペンスとして映像化されているようですね。

 

 

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