悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

白昼の死角 高木彬光 実話をもとにした小説

Kindleにてしばらく放置していたのですが、通勤などを利用し、読みました。
本来はある程度まとめて読み切ったほうが良い本だとは思います。
なかなかの分量があるので、結構時間はかかりましたね。
電子書籍なのでページ数がイマイチわかりませんが、文庫本で800ページ以上あるとのことで、かなりあの分厚さですね)

 

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目次

  1. 恐るべき天才
  2. 一生を分で刻む男
  3. ムッソリーニ作戦
  4. 詐欺からのがれるための詐欺
  5. パクリという詐欺
  6. 虚栄の変相
  7. 完全犯罪
  8. 導入を使う詐欺
  9. ジョーカーを捨てる
  10. 八方破れの戦術
  11. 三人の女
  12. 三日間の報酬
  13. 殺人者の笑い
  14. 運命の反転
  15. 神を恐れざる男
  16. エピローグ

登場人物

高木彬光
作者ですが、この小説の冒頭のシーンで登場します。


鶴岡七郎
この映画の主人公。
知力、胆力ともに優れた人物。
いかなる場合も冷静さを失わず、顔には表さない人物です。
このような人物が熟慮の末に立てた犯罪計画は、緻密です。


隅田光一
鶴岡が犯罪者になるきっかけとなる「太陽クラブ」を作った人物。
切れすぎる頭脳と人を惹きつける弁舌を持つが、人間性には大きな問題があります。
学問は優秀で興味もありますが、お金に対する野心も半端なく、また異常なほど性欲が強い人物です。


木島良助
「太陽クラブ」の仲間。
隅田が社長で、木島は副社長です。
経済犯罪(詐欺)においては、暴力に訴えないということが大前提ですが、彼は追い詰められた局面で、殺人を犯します。

九鬼善司
「太陽クラブ」の仲間。
当初は城島と同じく隅田に心酔。
後には鶴岡に頼り切ります。

 

太田洋助
香具師の親分で定子の夫。
鶴岡の人物に惚れ、それ以降様々な犯罪の片棒を担いでいきます。

 

福永検事
鶴岡にとって、司直の人間も取るに足らない人が多い中、彼だけはとてつもなく手強い相手でした。
知力と胆力を総動員して、彼と犯罪を通じて闘うのです。






 

あらすじ

箱根の温泉で隣の部屋にいた若い男性とひょんな事で将棋を指し合うことになった作者の高木彬光氏が、この将棋の相手であった人物から恐るべき犯罪の告白を受けます。
彼の名前は鶴岡七郎。
恐るべき犯罪者であり、彼の申し出に従って、作家である高木氏がこの小説を書いたのです。

戦争帰りの東大生である隅田光一、鶴岡七郎、木島良助、九鬼善司の4名が金を作るための組織、「太陽クラブ」を作ります。
リーダーは隅田光一。
かれは歴代の東大生の中でもとてつもなく優れた頭脳を持っており、その切れ味は恐ろしいほどなのでした。
結局隅田光一が立ち上げたのは金融業でした。
後に「東都金融」と名を改めます。

東大生、弁舌の立つ隅田はたちまち巨額の出資を集めていきます。
しかし、彼が理想とすることとは程遠く、高利で集めた出資金の配当を捻出するだけでも大変な状況に陥るのです。

結局、彼らの行ったことは、欲の皮が突っ張った人たちから、お金を集めただけの「詐欺」ということになります。
警察にしょっぴかれた隅田を救い出すために、鶴岡は留置場にいる隅田に暗号で励まし続けるのです。
同時に金融業を繋いでいくために様々なところに力を注ぎます。

カミソリのように切れる頭脳を持つ代表の隅田でしが、人間性はとんでもない人物であり、女癖の悪さも手伝って、彼は身を滅ぼします。
最終的に自殺してしまうのでした。

鶴岡、木島、九鬼の幹部もその責任は問われたものの、特に鶴岡は事前に隅田との距離もおいてあったため、厳しい追求を受けずに済んだのでした。

東大生ですが、もはや大学にも帰れず、彼らはやはり金融業を営むことになるのです。
天才的な頭脳を持つ隅田に盲従していただけの木島、九鬼でしたが、隅田の強引で横暴なやり方に批判的な気持ちを持っているのでした。
彼らは、隅田よりも鶴岡のほうが頼れるリーダーとして接していきます。

鶴岡は隅田と違い、現実的な感覚の持ち主でした。
彼はもともと悪意のある人物ではなかったのですが、隅田と始めた金融業において、お金を得るための、方法、心得を若いながらも取得していくのです。
隅田が歯牙にもかけなかった金融王ともいわれる金森光蔵の言葉に深い感銘を受け、鶴岡は金融犯罪史において驚異的な成功を収めていくことになります。

鶴岡の犯罪は、緻密な計画と人間に対しる鋭い洞察から作られているものでした。
戦後、新憲法のもとで法治国家として歩みだした日本において、法律、それを守るための公的な組織などはまだまだ不十分な時代だったのです。
そこにつけ込み、法の盲点(死角)を徹底的についた「完全犯罪」だったのです。

隅田と同時に東都金融がなくなった後、鶴岡たちはやはり金融業を始めます。
鶴岡は隅田のやり方、失敗から学び、法の盲点を突いて、絶対に捕まらない方法を編み出します。
彼は表向きはまっとうな手形金融を行っていますが、手形詐欺などを繰り返し、連戦連勝、つまり完全犯罪として尻尾を掴まれることなくゆうゆうと逃げ切ります。

彼は大勝利の後も非常に冷静で、同じ手口は繰り返さず、独創的な犯罪方法を次々に成功させます。
もちろん犯罪ですので、高いリスクはあるのですが、そのリスクを減らすための努力は惜しまないのです。

最終的には、福永検事という、これまた恐るべき知力を持った豪腕の検事によって、彼の犯罪は追い詰められていきます。



感想

冒頭の部分、「恐るべき天才」のところで、著者である高木氏はこの犯罪を行った人物からの言葉を受けて、この小説を書いたということになっています。

実際にこの小説はベースになっている実話があり、それは終戦後の動乱期に発生した詐欺事件、「光クラブ事件」がベースになっています。
推理小説ではなく、経済犯罪、知能犯の告白から描かれた話となっています。
鶴岡七郎という、前例を見ない恐るべき犯罪者の伝記のような小説です。

ライバルというか、鶴岡にとって最大の敵は福永検事ですが、鋭利な頭脳を持つ福永検事ですら、まともに行けば鶴岡には及ばないのです。
鶴岡のもとにいる人間のミスから破綻していくのです。
なんと言っても某国の領事館のゴンザレスが金を使い果たして帰国してきた誤算もありました。

闇の世界には色んなものがありますが、手形をパクる物が入れば、それを取り返すサルベージと呼ばれる人達もいるんですね。
いずれも正業ではなく、裏稼業です。

 

この小説には女性も重要な役回りがあります。
最初に登場したのは隅田をして「ズベ公」と言わしめた血桜の定子こと吉屋定子。
彼女は遊女であり、のちに香具師の親分の妻になる人物。
入れ墨をしたいかつい女性ですね。

彼女の妹分である良子を鶴岡に斡旋します。
その良子を通じて、男たちの性癖などを知り、自分の部下をも管理把握しようとしていたのが隅田という男です。


隅田の女癖の悪さは凄まじく、色んな意味で「天才」ですね。
その人間性は破綻しているというか、狂人の部類になるのではないでしょうか。

若くしてお金を持った隅田は、人間の「質」に違いがあり、己の「質」は優れているので、劣等な庶民、特に女性は全て自分の言いなりになるための存在であり、男も優秀な自分に奉仕するために存在すると考えている人物です。

渡辺きぬ子
隅田は、この年増の女性に手を出して捨てたのです。
この年増女の恨みは凄まじく、隅田たちの宴会の席に乱入してきます。

山川恵美子
隅田とは優秀な大学生同士のカップルでしたが、あまりの女癖の悪さに父親が乗り込んできます。
彼女の父は娘が「なぐさみもの」になった怒りをぶつけますが、隅田は全く意に介したところがありません。


藤井たか子
古い武家の娘を思わせるような貞淑な女性。
隅田が死ぬときに一緒に死のうとしたくらいです。
結局その後、鶴岡の妻となります。

杉浦珠江
この小説に登場する女性は不幸な女性が多いかな、彼女は悪女です。
隅田の贔屓を利用して会社の金を使い込んだ挙げ句、逮捕された隅田を見限って逃げた女性。
その後、良い男性と巡り合ったものの、鶴岡は恨みのある彼女をターゲットにし、最悪の結果を招きます。

綾香(綾子)
鶴岡の妻の一人となる芸者。
たか子とは違い、鶴岡とともに悪党になることを決意する強い女性。
鶴岡のよく寝られた犯罪の片棒をかつぐ貴重な相棒です。

凄まじい人生を歩み女性たちですが、ほとんどは隅田の女癖の悪さからくるものですね。

しかし、一人だけ異色な女性、杉浦珠江がいるのですが、彼女はうまく立ち回り、男の上前をはねるような女性。
そんな彼女に対して鉄槌を落としたのが鶴岡です。
彼女に対して行った罠は、まさに悪党そのもので、一番恐ろしい気がしますね。

映像化もされているんですね。
映画の方は「狼は生きろ、豚は死ね」というキャッチフレーズがウケたんですね、
私がまだ中学生の頃の映画ですね。
機会があれば、ぜひ見てみたいですね。

 

 

 

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