悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

秋山善吉工務店 中山七里

タイトルからは想像できない展開になった小説です。
面白かったですね。

この本の目次

一 太一、奮闘する

二 雅彦、迷走する

三 景子、困惑する

四 宮藤、追及する

五 善吉、立ちはだかる

登場人物

山善
この物語のタイトルにもなっている人。
主人公。
もちろんタイトル通り工務店を営む人、大工の棟梁。

秋山春江
善吉の妻。
善吉が昔気質の職人なら、その妻は肝っ玉母さん。

秋山景子
秋山史親の妻。
つまり秋山家の嫁ですが、家を火事で失い、夫の実家へ引っ越してきました。
怖い舅が苦手で、早く仕事を見つけて親子三人で暮らしたいと思っています。

秋山雅彦
秋山史親、景子の息子。
長男ですが、いじめの経験から強く生きていくすべを子供の頃から身につけています。

秋山太一
雅彦の弟、つまり次男です。
兄とは違って要領よく事なきを得ようとしますが、引っ越してきた学校ではいじめに会います。

秋山史親
親の善吉とは馬が合わず、稼業ではなくソフトウェアエンジニアとして働いていましたが、会社と反りが合わずに退職。
火災で自宅が焼け、二階にいたため焼死。

宮藤賢次
所轄の警察官(刑事)
失火によって志望した火災事故に事件性を感じ、とことん真相を究明しようとする鬼刑事。

あらすじ

秋山景子は二人の息子、雅彦と太一を連れて、夫の実家である秋山善工務店へやってきました。
そこでは大きな怒鳴り声が響き渡る家でした。
声の主はこの家の主である秋山善吉。
いつもしかめっ面で無愛想な典型的な昔気質の職人でした。
秋山春江は彼の妻、つまり景子にとっては姑ですが、ニコニコと嫁と孫たちを迎え入れます。
景子にとっては居心地が悪く、早く仕事を見つけて子どもたちと水入らずに暮らしたいと思っています。
下の息子の太一はこの気難しい爺ちゃんとは妙にうまく距離感を合わせています。
上の雅彦は母の景子と同様にあまり良い印象を持っていません。

転校した太一は人当たりの良さで新しいクラスに溶け込もうとしましたが、陰湿ないじめをするグループに目をつけられます。
兄の雅彦は幼い頃いじめに会い、いじめに対しては強くなっていじめられなくなるしかないという意見でした。
そして複数でやられたなら、自分が乗り込んでいってやると言っていました。
太一は辛抱すればいいと思っていましたが、父が亡くなったことをバカにされたため、いじめている子どもたちに腹をたてるのです。
待ってましたとばかりにいじめの対象となった太一。
いじめられて帰宅した孫に温かい言葉をかけるわけでもなく、いじめる奴らとはどういうやつなのかということを諭す善吉でした。

雅彦はお金のない家のことも気にしていましたし、火事で失ったゲーム機なども早く書いたかったこともあって、アルバイトを始めます。
中学の悪の先輩は雅彦の喧嘩の強さを知っており、彼にアルバイトを紹介します。
そのアルバイトはハーブを売っている店番で、仕事の割に賃金がよく、幼い雅彦には魅力でした。
しかし、甘い話には色々と問題があるものです。
先輩はヤクザの準構成員であり、その店のオーナーは完全なヤクザでした。
ハーブは違法なものも扱っており、それを吸引した人が事故を起こしてなくなりました。
それを知った雅彦はアルバイトを辞めたいと言うのですが、今度は暴力が本業のヤクザに脅されることに。
事態を察した善吉は、雅彦を連れてヤクザの事務所に乗り込み、話をつけるのでした。

太一はいじめを乗り越えたくましくなり、雅彦は祖父を尊敬するようになり、大工の手伝いを始めました。

景子は直ぐに仕事が見つからず、焦っていました。
ようやく見つけた仕事、そしてパートではなく正社員への採用を目指して努力しますが、恐るべき悪質なクレーマーの的になってしまいます。
クレーマーの脅しに屈したのか、お金をせびられるようになり、ついには工務店の金庫に手を付けようとします。
それを見ていたのは春江でした。
春江は事情を聞いて、考え、そのクレーマーの自宅へとでかけていきます。
クレーマーをしっかりと抑え込んだ春江。
そして景子は春江を見習い、店の手伝いをするようになります。

引っ越して忙しいさなかにも何度か宮藤という刑事が秋山家に事情聴取に来ています。
宮藤は失火でなくなったということに疑問がありました。
そして執拗に追い詰め、あともう少しで景子が落ちる=自供するだろうと思っていたときにやってきたのが、善吉でした。
彼は手強く、自分の息子が嫁の手にかかって亡くなったということは全く考えていないようでした。
むしろあんな息子の妻で苦労をしてきた嫁や子どもたちを守ろうとしているのです。
事件の真相はいかに?




感想

はじめは火事で家を失い、夫という大黒柱を失った家族が、昔気質の大工の実家で馴染んでいく人情物語だとてっきり思っていました。
でも中山七里さんの小説でそんなことはありえない。
案の定、これはそういう物語ではありません。
ミステリーの要素があります。
犯人は最後に明かされますが、その犯人に対して宮藤刑事は追求をすることはありません。
中山七里さんの小説に登場する宮藤刑事も若かりし頃は物分りの悪い若造だったんだな~というのがわかるエンディングになっています。
転校生に対するいじめ、悪い先輩からヤクザな世界への闇落ち、悪質クレーマーに絡まれるパートのおばさんといった、あまり嬉しくない内容ではあるものの、ある意味どこにでもある内容です。
そういう意味で人は追い込まれて思考回路を閉ざされてしまえば、どうすることもできない状態に追い込まれてしまうということですね。
経験豊富な善吉とその妻の春江はやっぱりたくましいです。
私も職場、現場では長老?になる年齢です。
なので追い込まれてしまっている若い人たちのフォローをしなければなりませんが、結構難しいんですよね、クレームって。

 

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