悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

殺意の盲点 森村誠一

私が中学生くらいの頃、森村誠一氏はベストセラー作家として君臨していた。
幼い私にはあまり読む機会がなかったが、高校生、大学生となった頃に古本屋で購入した本などを読んだ記憶がある。
日本アルプス殺人事件とか山岳関連の本が多かったことから、この作家は山登りなどが好きなのかと漠然と思っていた記憶がある。

で、KindleUnlimitedにて最近読んでみたのがこの「殺意の盲点」。
長編ではなく、短編小説集である。
殺意の盲点
交通事故で我が子をなくし、途方に暮れる夫婦の支えになったのは真犯人を見つけ出して、復讐を遂げること。そしてその努力の結果、復讐を遂げた。と思えたが、実は別の人間が真犯人だったという最後のオチ。

憎悪集中橋
交通戦争と言われていた時代。そして自動車のために人間が歩道橋をある化されるという理不尽がまかり通っていた時代。歩道橋は足の不自由なお年寄りにとっては本当に迷惑なものである。大掛かりな予算をつけて取り付けた歩道橋だが、ほとんど利用する人もなく、危険なことがわかっていても平面道路を横断するという気持ちはわかる。そして車で走る方も信号がなく、横断歩道もないところなので、いくら制限速度などを設けてもやはりスピードは出るし、歩行者に対する注意は低下する。
大きな幹線道路ができて、歩道橋が作られたことによる架空の団地における悲劇を描いている。

無医村の神
無医村と言われる場所にいた医者は実は無資格の医師だった。その記事を書くきっかけになった人が村八分となり・・・。
閉鎖的な田舎の村の悲劇。

堕ちた山脈
登山小説が多い森村誠一氏の本領発揮な短編。ヒマラヤ頭頂経験のあるプライドの高い登山家グループと初心者ばかりの大学の登山部員が「協力」しあって危険な状況からの生還を果たしたという美談の裏には人間の醜悪な諍いがあった。短いながらも非常に読み応えがあった。

ゴマメの復讐
嫌な感じの内容。男も男なら、女も女。どちらもなかなかしたたかで腹黒い。

シジフォスの刺した人形
人形とは石を持たないきれいな存在。この作品に登場するアイドルはまさに人形だったという話。

赤い髪飾り
政略結婚をさせられる深窓のお嬢様とベトナム兵の短い休暇での出会い。なんとも言えない内容。

団地戦争
憎悪集中橋と同じく団地に住む人々にスポットを当てた内容。この作品では都心からやってきた高学歴層の団地族が悪者になっているが・・・
今や過去の話。昭和が終わり、平成が終わった現在では、団地族も今や高齢者ばかりで空き家が目立つのだが・・・

挑戦の切符
この作品も山岳が舞台。失恋をきっかけに生きていることに意味が見いだせずに、死に場所を求めている女性が山で見つかったが、おりしも悪天候で助けに行くことが難しい状況。都会での生活に破れた心境で打ちひしがれていた男性は過去に登山で鍛えられた人間。その男性が遭難した女性を救うことによって、自らがもう一度チャレンジする勇気を得たという非常にいい話。

奔放の代償
フリーセックスなどに対する警鐘とも言える作品。今の時代ではない。過去の作品だが、人間はそれほど変わっていないということか。

蟻の競争
なかなかいやらしい社内抗争の話。大会社ではこのようなことがあるんだろう。私にはそのような経験がないのでわからない。わかりたくもない。

殺意中心世帯
最低な男の話。オチでは最低なのは弟さんということになっているが、弟も兄も似たようなものである。奥さんは不幸だね。というか普通は結婚しないと思うし、好きになるなんてことも絶対にないと思う。無理がありすぎるかな。

 

非常に多くのタイトルで、面白かったものと今一つであったものがある。
タイトルになっている「殺意の盲点」よりも「憎悪集中橋」や「団地戦争」などのほうが面白かった。ただ、時代背景もあり、今の時代に読んでもピンとこないだろうという気もする。その時代を過去に知っている人にしかわからない感覚のようなものがある。

 

 

 

殺意の盲点 (角川文庫)

殺意の盲点 (角川文庫)

 

 

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