悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

月島慕情 浅田次郎

明治の頃、人身売買が公然と行われていた頃の話。吉原の女郎としていきてきたミノの生きざまを描いた「月島慕情」。売春婦。現在の軽いノリからは信じられないようだが、当時の売春宿とはこういうモノだったのだろう。なんだかやるせない。
わかかりし頃に夫婦だった。元夫が亡くなった。何の義理もないはずの男だが、通屋に顔を出す事になった。「供物」。お酒が好きだった元夫。行きたくはなかった場所だが、そこへ行く意味は確かにあった。
南方戦線は如何に悲惨だったか。後方にいる大本営はその事実を抹殺する。いつの時代もどこの場所でもそうなのかもしれない。現場は悲惨だが、首脳陣はそのことを少しも分かっていない。仲間のためにも鰻は二度と口にすまいと誓った「雪鰻」。
地方から上京した大学生。学生運動のさなか、都会の孤独さを描いた「インセクト」。下宿の隣りに住むのは魅力的な女性。そして主人公になつくのは無責任な男との間にできた子供。大人の身勝手はともかく、間にできた子が不憫でならない。
葬式でわかるすばらしいおばあちゃん。「冬の星座」。こういう人を本当の聖人というんだろうか。素晴らしい人である。
目が不自由なために儚く終わった若き日の恋愛「めぐりあい」。諦めたはずの色恋だが、やはりどこかで待っているのだろうか。
リストラをやってくたびれた元銀行員が、立身出世中の人物のお抱え運転手になる。彼の過去には・・・「シューシャインボーイ」という名の競走馬。
泣かせるような話が沢山詰まった短編集。やはりこういう泣きの語り口は浅田次郎ならではか。

月島慕情 (文春文庫)

月島慕情 (文春文庫)

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