悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

兎の眼 灰谷健次郎

読み始めたときは退屈な小説なのかもと思いながら、力強く語りかけてくる登場人物の語り口にドンドン引き込まれていく。新人教師の小谷芙美が主人公。医者の娘というお嬢様で美人、新婚という設定である。ここまでの設定はよくあるパターンだが、主人公が物語の中心ではない。矛盾しているようだが、小谷先生が単なる主役の小説ではない。それぞれの話は短い。ハエ博士の鉄三、その祖父のバク爺さん、教員ヤクザと言われる足立先生、その子分のような熱血漢の太田先生がその話題の中心になったりする。
みな子ちゃんが登場した頃から教師としての成長、クラスの子供達の成長がわかる。淳くんがなかなか素敵な子供。子供から教えられるというのがこういうことなんだろうが、それを素直に受け止め、考えを改める淳くんの親も素晴らしい。
特殊な世界を描いているようで身近な話題でもある。この作品を読むまでは知らなかったが、かなり有名な作品で、教育者のバイブル的な本でもあるようだ。学校の道徳教育にもなりそうだが、話題が学校側(教頭や村野先生)のこともあるのでそのまま作品として採用されることはないだろう。賞賛の声もアチラコチラにあるのは当然だが、批判もあるようである。もちろん余りにも出来すぎに感じるところはあるが、人間というものを再度見つめ直す上で考えさせられるところが多かった。
非常に素敵な先生である小谷先生がつまらない新婚生活を送っていることが残念すぎる。これほど考え方が離れた人が一緒に暮らすというのは不幸でしかない。

兎の眼 (角川文庫)

兎の眼 (角川文庫)

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