悪魔の尻尾

みなさ~ん、元気にしておりますか?

母性 湊かなえ

画像はAmazonより

昨夜は仕事がうまくいかず、若干落ち込んでいました。
不機嫌な私を見て、妻は何も言わずにお避けが飲めるような雰囲気を作ってくれて、家で少し飲みました。
不思議と落ち着くことができましたね。
お酒を飲んだ後は、息子にも方をもんでもらったりと、救われたような気持ちになりました。
家族に感謝ですね。

さて、今回の紹介する本は、そういったものとは正反対のなかなかえげつない内容の作品です。
「告白」とか、「白ゆき姫殺人事件」なども映画化されていますが、この本も映画化されているので、いつか見てみたいと思いますね。
タイトルは「母性」なのですが、この本に登場する女性は「母性」の塊のような母親に育てられたものの、自分の娘には「母性」を感じることがなかった女性です。
主人公はルミ子というお嬢様育ちの女性です。
父は教師では母とても優しく自愛に満ちた女性。
ルミ子はお嬢様のまま絵画教室で出会ったちょっと変わった田所という男性と結婚します。
その結婚の理由が、母が田所の絵を気に入ったから。
母が喜ぶからと言うのが大きな理由で田所に愛情は感じていなかったようです。
それでも娘の清佳が生まれ、その清佳を見て喜ぶ母、つまり孫をかわいがっている母の姿を見て幸せを感じていました。
ところがある事件を境に、ルミ子は不幸になっていきます。
その事件でルミ子は最愛の母を失います。
そして、家を失ったルミ子の家族は夫の田所の実家に入ることになります。
お嬢様育ちのルミ子でしたが、実母の言葉を信じて人のためになることをする女性でした。
しかし、最愛の実母が亡くなり、厳しい田所家では虐げられます。
その仕打ちはとてもひどいですね。
ルミ子は歯向かうことなくその仕打ちに耐えていました。
ルミ子の娘の清佳はとても利発で成長するにつれ、母がいじめられていることに反発します。
ところが清佳が義母と喧嘩をすると結局それはルミ子に回ってくることを知り、清佳はだんだん逆らわなくなります。
姑だけでなく田所の娘たちもなかなか最悪の姉妹で、ますますルミ子たちは不幸になっていきます。
まずは婚期を逃した甘えったれの下の娘は金を無心するだけの半端な男のあとを追いかけて駆け落ちをするという始末。
そこそこの家に嫁いだ長女はしょっちゅう実家に帰ってきては上げ膳据え膳のお客様扱いの上、子育てもまともにできず、犬畜生のような振る舞いをする息子の世話をルミ子に押し付ける始末です。
夫の田所は無口で何も言わず、妻がいじめられていても見て見ぬふりをする始末でした。
なんというかこの夫はサイテーな男です。
絵は上手だったのかもしれませんが、人間としてというか男として最低です。
一応腐っても田所というその土地では名の通った家の長男。
色々と大変なことはあるでしょうが、甲斐性もなく妻に対する愛情もありません。
面倒なことからは逃げて知らんぷりをする人物。
そして裏切り。
こんなサイテーな男を結局許すルミ子はある意味慈愛に満ちた女性なのでしょう。
そしてこんな人格を作った親、特に父親、つまり田所の父も最低です。

主人公のルミ子はやはり愛情をたくさん受けて育てられた女性だと思えます。
しかし、彼女の人生は不幸としか言いようがない。
そして彼女の不幸は娘の清佳にも伝染したかのように。
その一番の責任を負うべき人間がこの夫だと思うんですけどね。
偉そうなことを言えるわけではないですが、何故か無性に腹が立ちましたね。

この本は「母性について」というタイトルの短い新聞記事のような文章で始まります。
とある女子高生が団地の4階から転落し、見つけた母親が警察に通報したというものです。
そして次の章が「母の手記」。
その冒頭の文章が、「私は愛能う限り、娘を大切に育ててきました。」というものです。
すでになにか違和感がある気配。
そしてこの「母の手記」を読んでいると、この母というのがかなり病んでいる人に違いないと思わざるを得ませんでした。
「母の手記」に続くのが「娘の回想」です。
ごく普通の女子高生の話ですが、途中から異様な感じになります。
この女子高生も病んでいるとしか思えないです。
まあ、実際最後まで読んでみるとふたりともものの見事に不幸を背負って、それと戦い、病んでいます。
本来なら母娘手を取り合ってお互い励まし合いながらであれば幸せになれたのでしょう。
貧しくても、生活が厳しくても母娘が愛情を持っていれば、なんてことなかったと思います。
しかし、母ルミ子の心のなかには「実母を奪った娘」という気持ちが払拭できない。
愛情に飢えている娘はなんとか母に振り向いてほしい、この鬼たちが住む家の中で苦労して頑張っている母を助けたい一心だったのに、母は娘に愛情を注ぎませんでした。
なんて不幸な母娘でしょう。
いたたまれない気持ちになる小説でしたね。


 

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