悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

暗黒の巨人軍論 野村克也

 

巨人ファンであったことを明言している野村克也氏の本。
そして自らの師として仰ぐ川上哲治氏が監督時代の巨人の黄金期、V9の偉業を讃え、その後の巨人、とりわけ長嶋茂雄氏が今のダメな巨人を作った張本人のような描かれ方をしている。

まあ、戦力的に難しい中で勝負してきた野村さんと恵まれた戦力で戦ってきた長島氏にたいするやっかみもかなりある。現役時代から何かと目の敵にしてきた長嶋茂雄氏である。
しかし、野球人、プレイヤーとしての長嶋茂雄氏のことは「天才」と評価する。自らを「凡人」と評価していることと比べると異世界の人間というふうにずっと感じているようである。むしろことごとく自らの記録を消していった王貞治氏に対してのライバル心とは全く別次元であるように思える。

巨人憎しは巨人愛の裏返しでもあり、長島憎しも実は長島に対する憧れ、羨ましさの裏返しと見て取れる。その一方で「俺はお前とは違って、努力の積み重ねでやってきたんだ。負けてたまるか」という強い情念のようなものを感じる。

長島、王というスターがいて、巨人が強かった時代。戦力差もあっただろうが、それでもV9なんてことはできないと論じている。

長嶋茂雄氏が監督となった初年に最下位を経験し、その後、巨人が優勝したものの、長嶋茂雄氏の監督評価はこき下ろされている。特に2度めの巨人監督時代にはなりふり構わない大艦巨砲主義で各チームの4番打者を根こそぎ持っていった時代。そんなことで勝てるほど野球は甘くないと言い切っている。

かつてのような圧倒的な強さは戻らず、派手なスターティングオーダーを揃えても一流の投手からは点が奪えず、勝つ場合は派手なドンパチで大量得点勝ち。負けるときは後味の悪い逆転負けみたいなことが多くなった。ある意味今の巨人の伝統を作ったのはこの時代ではないだろうか。圧倒的な戦力(攻撃力)でボロ勝ちするので、勝利に対する気持ちが希薄になっている、そして接戦を落とすというパターンである。

名将の一人として数えられるようになった原辰徳氏に対しても「バッサリ」である。巨人の戦力なら誰がやってもあの程度はできるということらしい。監督としての振る舞いや選手に対する指導、特に人間教育がなっていないということらしい。

当時、派手な野球で優勝争いが毎年行われていて、巨人の人気は維持できていたように思うが、時代は変わっており、今や巨人が強かろうが弱かろうが野球自体が数あるスポーツコンテンツの一つに過ぎない。
一流選手のメジャーへの流出もあるし、Jリーグやワールドサッカーなどの人気もある。

 

野球界にすべてを捧げてきたノムさんから見れば寂しい限りだったと思う。

 

 

 

暗黒の巨人軍論 (角川新書)

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