悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

楊令伝 十四 北方謙三

十四巻にもなった。今回の題字は李英である。
李媛、李英の姉弟。前巻で物資輸送中に阿骨打の息子の訛里朶による襲撃で姉李媛に激しく非難され、梁山泊軍の中でもやや浮いた状態になる。そしてその不満を見て取った敵国の策略により梁山泊から出奔したことになってしまう。
しかし心には梁山泊の志があり、斉国の帝に拝謁するときに帝と扈成の暗殺を試み、扈成の殺害はできるが、帝を殺すことはできず、殺される。
なんとも悲劇的な人物で、日本人としてはこういう人物に共感してしまう。類まれなる才能はありながら、将器としてはやはりやや小さい人物だったのだろう。戦闘部隊の隊長としては優れた戦術や判断などができるが、ネガティブな思考をしてしまうタイプだったのかもしれない。呼延凌や花飛麟と並び称せられるほどの若手の中では戦上手だったが、残念な人生。
今回は梁山泊初期からの戴宗も死亡。公孫勝から引き継いだ致死軍の隊長の侯真との中は最悪で、この作品の中ではかなり酒癖の悪い老害の代表格みたいな存在であったが、最期は美しく描かれている。


童貫戦の後は宋は勝手に滅び、金国が台頭。しかし金が広大な土地を収めきれず、持て余す。梁山泊は独自路線で交易に道をつけ、李富は宋が朽ち果てることを先読みして方臘の後の南の地区を予め次の支配地として計画を進めていた。そして計画通りに岳飛、張俊を取り込む。二人は童貫配下の将軍だったが、それぞれ岳家軍、張家軍という軍閥を形成。しかし必ず自ら建てた南宋に入ってくることを予測し、事実その通りになるなど政治家としては優れすぎている。
戦は国のありようをめぐって複雑に。対立軸は2つ。
漢族と女真族という南宋岳飛、張俊VS金という戦い。金は傀儡政権の斉国を抱えて強大だが、内政にも不安を抱え、政争は付きないところ。梁山泊は同盟こそしていないが、金国よりである。
もう一つの対立軸は自由貿易、これからの国VS規制、今までの国というもの。なんだか国内のTPPの議論みたいなところもあるがどうなのだろう。
この対立軸は楊令を中心とする梁山泊VS南宋、金ということになる。梁山泊内でも帝を戴かず、覇権を目指さないことに対して批判はあるようで、戴宗などはその例。
面白いのは民族的には南宋VS金だが、経済政策的には同盟をで強大な梁山泊へ対抗しようというところ。


長い長い物語。いよいよラスト第15巻。
多くの同志たちが亡くなった。残るは史進くらいなものか。なんとも味のある人物でいなくなると非常に寂しい。終盤の南宋との戦で死ぬのではという予感があったが、今回も生き残ってしまった。最終巻でどのような結末になるのか。

楊令伝 14 星歳の章 (集英社文庫)

楊令伝 14 星歳の章 (集英社文庫)

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