悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

楊令伝 十二 北方謙三

北に金国。そして梁山泊。中原には岳飛と張俊。南に南宋があり、金国の傀儡である斉が建国。そして西には西夏、更にその西に耶律大石が西遼を建国。
めまぐるしい政治的な駆け引きとともに本格的な戦にならずとも小競り合いが続く。
明確な同盟を結んでいるところはどこもないが、これまでの流れから金と梁山泊は盟友であると見られていたが、その梁山泊に金国の王だった阿骨打の息子の一人が襲い掛かる。大軍を持って襲いかかるもののすんでのところで、救援に向かった楊令に蹴散らされ、首謀者の訛里朶は捕らえられる。訛里朶の兄の兀朮の計らいで戦争状態は避けられたものの後味が悪い状態になる。
多くの独立性力がうごめく中、強国なのは金。そして軍事的、経済的にも強い梁山泊。税が1割という楽園で、経済的にはこれまでの闇塩によるものが破綻してからは交易による膨大な利益で運営される。広大な土地と多くの役人を抱えて強国になりつつある南宋。国こそ南宋であるが、青蓮寺そのもの、あるいは李富の国と言っても良いかもしれない。小競り合いが続くのは金と南宋の本格的な戦を前に中原で行われる。
複雑で面白いが、人物が多く、楊令伝というタイトルにそぐわないように楊令の登場シーンは案外少ない。そして童貫との戦い以降は大きな戦もなく、小競り合いで勇将が戦死するが、その都度その人物像にスポットを当てるなど、話が広がりすぎるところがある。前作の水滸伝を読んでいない人にはちょっと話に入って行けないような気がする。そもそも前作を読んでいない人がこの小説を手にすることも少ないと思うが。
かつての勇士たちの活躍がめっきり減り、二世たちの活躍が目立つ。今回は秦明の息子の秦容が凄まじい。もはや武術という点では楊令をもしのいでいるような気さえする。この巻でも訛里朶の奇襲を受けた際に一兵卒だったにもかかわらず、見事に闘いながら貴重な時間をかせぐことに成功する。そして双頭山で張俊の奇襲を受けた際に鮑旭の奮闘もあったが、駆けつけた秦容のお陰で全滅を免れるなど、神がかり的である。相変わらず、子午山の王進塾は健在。もはや仙人のようなものか。
どの勢力も天下統一するには実力が足りず、梁山泊は棟梁である楊令自身その意志がない。そのことに対して梁山泊の人からの批判もある。
なんとも複雑ながら、人間模様を色々と描いていて読み物としては楽しめるが、大きなストーリーの流れはなんとなく退屈。

楊令伝 12 九天の章 (集英社文庫)

楊令伝 12 九天の章 (集英社文庫)

Copyright ©悪魔の尻尾 All rights reserved.