悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

楊令伝 十五 北方謙三

ついに最終巻である。
読んでしまった。
正直言って結末が楽しみでもあったが、楊令がどういう形で最期を迎えるのかというのが非常に気になっていた。
残念である。十五巻、最終ということで何処かで命を落とすということはわかっている。そしてそういうことを予めわかって読むというのは本来の読書の姿勢ではないと思っているが、どうしてもそう考えてしまう。

この巻でも水滸伝から続く大物が亡くなる。
公孫勝が亡くなり、そして死ねない武松も命を落とす。
阿骨打と幻王楊令との関係も弟、呉乞買の代になってかなり変貌する。呉乞買は楊令を心から恐れきっていたが、死の間際に遺言として楊令、梁山泊を討つように伝える。
自由市場を標榜する梁山泊は金国へ軍師宣賛が訪れるが、囚われ処断される。それに気づいた武松が梁山泊へ報告しようとするが、多勢に無勢でついに死ぬ。
一方、死に場所を探していた呉用南宋の李富を探し出し、道連れにしようとする。そして呆気無く李富を殺害することに成功。その場所から逃げ出すときに呉用をかばった公孫勝は亡くなる。

梁山泊は強い軍と強大な富の力で自由市場を国中に広めようとする。それに抵抗する南宋。そしてそれを受け入れられない同盟国である金。
南宋との戦いは南宋岳飛、張俊を取り込んでもやはりれっせいであった。梁山泊は圧倒的な力を持っていた。南宋は金国とも対峙しながら梁山泊友戦わねばならず、複雑。
しかし前もって金国と南宋とは敵国ながら反自由市場という点で一致しており、三国のバランスは微妙なものに。金の傀儡である斉はもはやないものと同様だった。
梁山泊は何層の水軍を壊滅し、南宋の糧道を断つ。そしていよいよ岳飛との決戦を迎える。兵力は劣るものの、勢いのある梁山泊岳飛を追い込み、楊令が参戦してからは一気に追い詰めることに成功、そしていよいよ最後を迎えるその時に伏せていた金国の軍の総帥、兀朮が梁山泊の背後を奇襲で襲う。そこれも梁山泊は決して総崩れになることなく、大勢を立て直し、金軍へ痛撃を与え、北国への退却を余儀なくさせる。
梁山泊の本拠も非常に手薄であったが、呉用の采配と駆けつけた遊撃隊の史進の活躍により撃退。
ここまでの激しい戦いで若い青騎兵の張平、騎射の名手である一軍の将の花飛麟をも失うものの、後はヨレヨレの岳飛と平らげ、南宋を滅ぼし、金国に目にものを見せるはずであった。
しかしなんと楊令の最期は戦ではなく身の回りの世話をしていた従者の欧元による暗殺であった。なんとも嫌な終わり方であった。欧元は李富のボディガードであった周炳のいとこである周杳である。完全に忘れていた。
残りページを考えつつ、岳飛に討たれるのかと思っていたにもかかわらず、毒殺という暗殺であった。意外というか残念というか。欧元の存在も非常に長い間信用を得るために働き続けた結果であるにせよ、なんともびっくりする展開であった。

暗殺という最期はさておき、呉乞買の遺言は許せない気持ちだ。そして苦渋の決断をした粘罕もやっぱり残念な人物である。蔡福が死んでやはりおかしくなってしまったのか?金国の帝とはいえ、なんの能力もないけれど、兄から王を譲り受けた無能な弟の呉乞買ごときの遺言なんてどうにかできなかったのだろうか。ある意味知識人だっただけに、梁山泊の目指す未来に恐怖を感じていたのだろう。それでも残念。
それまで憎まれ役であった撻懶が立派に見えてしまう。梁山泊の商隊を襲い、楊令に囚われの身となり、本来は一度は死んだはずの訛里朶は討ち取るが軍の総帥の兀朮は討ち取れず。その辺りもなんだか残念な気持ちが…。

長い話である。水滸伝19巻+楊令伝15巻で34巻にもなる。その中の初期メンバーは殆ど死んだが、早い時期からのレギュラーメンバーである呉用史進は結局死に場所を探しているにもかかわらず、死ねない。
魅力ある多くのキャラクターが亡くなった。一人ひとりにストーリーがしっかりあるので、そういう思い入れも強い。

楊令伝に話を戻すと、童貫戦までとその後で随分と違う展開である。
特に当初は圧倒的に梁山泊は弱者であり、不利な立場であった。青蓮寺による梁山泊の残党狩り。頭領不在のまま、梁山泊の存在自体があやふやな苦難の時代であった。
楊令は幻王として金国建国に大きく関わった。そして梁山泊への帰還と同時に頭領となる。そして童貫との決戦を余儀なくされる。これは運命とはいえなかなかつらいものだ。
梁山泊が頭領を迎えて童貫と戦うためには時が必要で、そこで呉用は江南のボスである方臘に近づき、反乱の手助けをする。この部分が童貫戦までのハイライトと言えるだろう。かなりのボリュームがあるが、個人的には方臘が嫌い。宗教主導者というものにはろくなことがない。方臘という刃部の描き方を見て、作者である北方謙三氏もそうなのかもしれないと思う。
童貫戦では古参のものもいたが、若い世代の台頭もあった。それが2世たちの活躍である。なんとも皆優れている。DNAの勝利というところか。
童貫戦のあとは覇権を巡る争いである。梁山泊がこれに加わらなかったというのがなんとも言えないところ。替天行道の示す国造りを化が得抜いた結果が民のための国、自由市場、交易による国である。意外なことだ。
童貫戦後、燃え尽きた感が読者の中にもあったと思う。私もそうだ。少しダレ気味だったが、後半になってまた国のありようを問う戦いという大きなテーマがあり、梁山泊、金、南宋の三つ巴の戦いが面白い。そして今度は強者としてである。

現在「岳飛伝」というものが出ているらしい。作者の岳飛に対する思いが強いということだろう。この作中でも非常に魅力のある人物として描かれている。それだけに楊令は岳飛に討たれて欲しかった。

楊令伝 15 天穹の章 (集英社文庫)

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集英社文庫 水滸伝BOX (水滸伝)

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