悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

ビタミンF 重松清

ちょうど私の世代が登場人物の短編小説集だと思う。
そこに登場するのはごくありきたりの「おっさん」だ。妙にくたびれた感があり、そこに共感を覚えるものの、読んでいて辛い所も多い。
この作者、重光清氏は私とほぼ同世代。だから時代背景やおっさんぶりは本当によくわかる。まあ、あんまり分かりたくない部分も多いが…。
37歳のおっさんを描いているが、実際はそれより年配のおっさんを対象にしているような気もする。10年ほど前の作品なのかも。


「ゲンコツ」という作品に登場する「仮面ライダー」はまさに私の世代のヒーローだった。変身ポーズやオープニング曲は未だにしっかりと覚えている。社会問題にまでなった仮面ライダースナックについてくるカードなど懐かしい。ここに登場する親父は四十前。私よりも十年ほど若い。ちょっとライダー世代とは違うが、この作品が書かれた時期からすると丁度よいのだろう。

「はずれくじ」という作品は父と息子の微妙な関係を描いている。妻の入院で息子と二人になるのだがほとんどすれ違いで、お互いの気持を測れないもどかしさがある。ラストシーンがなかなか良いのである。

「パンドラ」。これはパンドラの箱からタイトルをつけたものだ。知ってはならないことを知ってしまうと…。考えるだけで恐ろしいかも。今度は娘と父との関係で話が展開するが、本当のところは自分の過去と女房の過去と言うところがミソなのかも。年頃の娘を抱える男親としては微妙な気持ちにさせてくれる話である。ここでも中学生の娘よりも小学生の息子がいい味を出していて殺伐としたこの作品のエンディングを良い感じにしている。

「セッちゃん」はイジメがテーマ。イジメを苦にした娘が親に真実を告げられず、「セッちゃん」という人物を創り上げてしまうちょっと切ない話。普段から明るく快活な娘を演じていたことに気づかないのんきな親。複雑な年頃の娘の話を描いている。

大学生時代の恋人との過去を懐かしむ「なぎさホテルにて」という作品。ここでの主人公はちょっと身勝手で冴えない。別の女性と結婚したのなら普通はこういうサービスを利用しない。奥さんにとっては残酷な内容。個人的にはありえないよなあという印象。子供はやっぱりかすがいとも感じさせる話である。

「かさぶたまぶた」も家族のつながりを描いた作品。真面目で善人の主人公だが、強引でうざい。その父親に合わせる子供たちと妻。多感な娘と鈍感な息子という思いが実は誰よりも鈍感なのは父親だったという事。仮面を脱ぎ捨てて、対等に付き合えるようになり、また楽しい家族に戻るというエンディングがなければ、本当に殺伐としたことになっていたかも。

最後の作品の「母帰る」というのは個人的には全く理解のできない家族愛の話である。読み進めていくとこういう家族もあるのかもなと思うが、認めたくない。他人が共に暮らすのが夫婦。そして子供ができる。夫婦は別れてしまえば赤の他人に過ぎないが、親子は親子。しかし赤の他人でも子供よりも長い間付き合っているわけでそこには子供に対するものとは別の感情もあるのだろう。複雑な思いのする作品だ。

ビタミンF (新潮文庫)

ビタミンF (新潮文庫)

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