悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

最後の決闘裁判 勝ったほうが真実、裁判とはそういうものなのか

画像はAmazonより

映画の概要

監督:リドリー・スコット

脚本:ニコール・ホロフセナー/ベン・アフレック/マット・デイモン/

原作:ジェイガー・エリック「決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル」

製作:イギリス/アメリカ 2021年

上映時間:153分

製作費:100,000,000ドル

興行収入:30,552,000ドル

 

 

あらすじ

百年戦争さなかのフランスで、ある決闘裁判がおこなわれます。
ことの原因は、ノルマンディの騎士ジャン・ド・カルージュの妻マルグリットが強姦され、犯人として従騎士ジャック・ル・グリの名が挙げられます。
犯罪者としてル・グリの処刑を望むカルージュ。
そして目撃者もいないことから、無罪を訴えるル・グリ。
ふたりの主張は平行線をたどり、解決の糸口すら見えない争いの決着は、生死を賭けた決闘裁判にゆだねられます。
王侯貴族や数千もの群衆が見つめるなか、甲冑に身を固めたふたりの男が、血を流して倒れるまで闘いつづけるのです。

感想

利害の対立や主張の食い違いなど、紛争を解決するための裁定を下すのが裁判。
そしてそれらが行われた場合、やはり勝たなければ意味がありません。
真実は神のみぞ知る。
神の加護があれば勝つことができる。
逆に言うなら神の名のもとに偽りを述べたものには制裁がくだされるとされた時代ならではの裁判ですね。
この物語は史実として残っている話らしいです。
タイトルからは騎士同士の決闘で、「男と男の誇り」をかけた戦いのように見えますが、本来なら、この物語の主人公は女性でしょう。
女性にとってとても理不尽で厳しい時代にしっかりと戦ったマルグリットの物語です。
それにしても許せないのはカルージュの代わりに領主におさまった人物ピエールです。
人間的にも領主に収まるべき人物ではないですが、頑固で融通の効かないカルージュは、勇敢で名誉を重んじる騎士で、本来はピエールではなくカルージュが収まるべきところです。
しかし、西洋も同じなんでしょうか、コネがあるピエールがその席に収まり、要領のよいル・グリが従騎士としてピエールに付き従います。
このいけすかない領主を演じているのが脚本、製作にも加わっているベン・アフレックです。
彼はどちらかというとヒーローのイメージが強いのですが、この映画では脇役とはいえ、悪漢でしたね。
ル・グリを演じていたのは新しいスター・ウォーズ・シリーズのカイロ・レンを演じていたアダム・ドライバーです。
ハンサムな従騎士ということで女性にモテる人物ですが、腹は黒い人物。
そしてこの時代の騎士そのものとも言えるマルグリットの夫ジャン・ド・カルージュを演じたのがマット・デイモンです。
このジャンも今の時代から見たらとんでもない人物でしょう。
マルグリットと結婚したのは、彼女の親の財産目当てですが、彼女の親はイングランドに一時的に寝返っていたという引け目があったからですね。
ジャンが妻の実家に対して金銭や土地の要求は当然というのが信じられませんが、それに対して何をその家に与えるのか?と問われたときの彼の返答が、「名誉ある自分の家名」と答えたのですね。
こんな辺鄙な貧しいところ、更には姑までいますが、夫婦仲は決して悪いわけではなく、マルグリットは夫に尽くします。
ただ、子供ができません。
そして子供ができるために医者が言うのもこの時代を表していますね。
姑が決闘裁判になった際に嫁にこぼした言葉もかなりひどいですが、当時の女性ならそういうものなのかもしれません。
決闘裁判に持ち込んだジャン・ド・カルージュは勇敢な騎士ですが、妻のために決闘裁判をしたのではありません。
彼は彼の名誉のために行ったのです。
もし彼が負ければ、マルグリットの訴えは嘘となり、彼女も処刑になってしまうのですが、そんな大事なことも妻の同意もなく無断で事を進めてしまいます。
ジャンにとっては今、追いやられている立場が耐え難く、命をかけて名誉を挽回する必要があったのでしょう。
妻のためではないです。
ともあれ、ジャンに罪はありません。
憎むべきはル・グリであり、その上司であるピエールであり、更に言うなら国王そのものでしょう。
もう一つ、胸糞悪いシーンは、マルグリットがル・グリがイケメンだと発言したということを法廷に告げ口するのです。
友人の言葉よりも、イケメンを助けたいのでしょうか?
女心はわかりません。

この映画は巨匠リドリー・スコットが作った映画ですが、興行的には全くふるいませんでした。
巨匠は興行的な結果についてスマートフォンで育った若い世代を暗に馬鹿にしているような発言をしています。
私も見ていて、楽しい映画ではないです。
見ているのがしんどい映画だとも言えます。
その理由は、画作りにもあると思います。
暗く、陰鬱な映像の長回しが多く、カラー作品にも関わらずモノクロ映画を見ているような雰囲気です。
暗いシーンが多いので見づらいということもあります。
派手な映像、迫力のあるシーン、特撮、CGというものを見続けていると、こういう映画は本当につまらなく、途中で挫折しそうになるのかもしれませんね。

ジャンの視点から描かれる第一章は「ジャン・ド・カルージュの真実」。
ル・グリの視点の第二章は「ジャック・ル・グリの真実」。
そして最後はマルグリットから見た終章は「マルグリット・ド・ガルージュの真実」となっています。
歴史的には対して意味のない小さな事件にすぎないかもしれませんが、女性の置かれた立場、そしてそんな時代に勇敢に戦った女性を描いた作品として、もっと評価されるべきだと思います。
画作りについて、色々苦言を申し上げましたが、変なバイアスがかかったようなところはありませんし、それぞれの立場から描き切ることに徹していました。
そういう意味でリドリー・スコットは渾身の作品だったのですが、観客には受け入れられなかったことに不満だったのでしょう。
まあ、見ていて胸糞悪くなるシーンが沢山あるとは思いますが、最後まで見て感じるものがあれば、多分巨匠もお喜びでしょう。


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見て損はないと思います。
ただ、映画があまり好きではない人は退屈でしょうね。

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