悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

デッド・オア・アライブ 楡周平

画像はAmazonより

GWに突入しました。
我が職場はずっと休みがなくて交代で休みを取っていたのですが、クライアント先の方針で営業時間の短縮。
今年は暦通りに休めることになりました。
仕事に状況はよくありませんが、私どう悩んでもどうにもならないので、気楽にやっています。

さて、いつものように通勤で読んでいました。
少し前に読み終えたものですが、バタバタしていたもので、本の感想などもまとめていませんでした。

結構な分量もあり、読み応えありました。
まだ新しい本ですが、Kindle Unlimitedにあります。


自動車産業は確かに裾野の広い日本の基幹産業ですが、内燃機関が終演を迎えて電気自動車にすべて置き換わってしまったらという近未来を描いた作品です。
この流れは止められないのでしょうが、電気が100パーセント正解とも思えないのです。
もちろんこの本に出てくるようなリチウムに変わる画期的な二次電池「シエラ」が作れるようになれば話は変わるかもしれませんが、そんなものが一朝一夕に生まれてくるはずもありません。
実際にシエラとこの本では描かれている高性能電池が生まれれば、世界でトップクラスにある日本の内燃機関の技術は過去のものとなります。
電気自動車のノウハウももちろん自動車メーカーは先行しているものと思いますが、これまでの先行していた技術やノウハウは全く通用しなくなります。
それどころか、巨大な企業ゆえの動きの鈍さ、意思決定の遅さに機能停止状態に陥ってしまうかもしれません。
そうならないようにすでにあらゆる方面に手を打っているとは思いますが、内燃機関の車とは全く違った業態になる、ということがよくわかります。
グループ企業、下請け企業を含めると本当に巨大な産業。
それが部品点数が圧倒的に少なくなり、色んなメーカーから部品を発注して組み上げていくというこれまでとは違った産業形態になりそうな気がします。
この本を読むとそういう気持ちにならざるを得ません。

ここに登場してくる企業は架空の日本企業ですが、新聞やニュースなどを見ていれば誰でも気づくことでしょう。
不正会計、原発事故で信用は失墜し、ハゲタカに美味しいところから持っていかれてしまう会社コクデンは東芝のことですね。
原発問題もさることながら、不正会計、粉飾決算は許しがたいことです。
規模が小さければすぐに潰れてしまうところですが、これくらい巨大な企業になると簡単には潰せないということなのでしょうか。
それとも原発との絡みもあって後処理をきちんとさせることができる政治家や官僚がいない、つまりは現状を放置して根本治療をせず、ただなんとか生きながらえさせるためにカンフル剤を打ちまくっているような状態でしょうか。

日本の自動車産業のトップであり、世界でもそのシェア、ブランドは高いタカバ自動車はもちろんトヨタ自動車のことです。
巨大な政治献金をバックに日本の政治をも動かしうる巨大企業となっていますが、そんな会社がこの本の中では下手を打っていますね。

そして軽自動車しか作っていない、自動車産業の中では非常に弱いところとされているのがダイハツでしょうか。
実際のダイハツトヨタの支援を受けて子会社みたいなものになってしまっています。不正が発覚してあの会社も大変ですが、今回の内容とはちょっと違うみたいですね。

 

原子力発電所から家庭用電化製品まで扱う総合電機メーカーのコクデンは上層部の判断によって粉飾決算に手を染めてしまいます。
そして、それが明るみに出て会社はボロボロの状態。
そんな会社の一部門であるエナージー部門はこの巨大な会社の米びつを見つけるべく充電電池の研究開発に賭けます。

内燃機関自動車産業のトップに君臨するタカバ自動車は、裾野が広いこの産業の将来を考え、水素自動車こそが未来の車のあるべき形、ということで政府をも動かして来ましたが、水素自動車を手掛けるのはタカバのみで、将来性を危ぶむ声も。
ただ、この方針を打ち出したのは現在の社長であり、そこに異を唱えるのはタブー。
将来は会社のトップを狙う野心家の野中は、うまくトップに取り入りながら利にさとい政治家を動かし、商社も巻き込んで弱小の軽自動車メーカーのイナズミを配下に収め、電気自動車に乗り出そうと動き出します。

イナズミは軽自動車のみを作っている会社で自動車メーカーではタカバの足元にも及ばない会社です。
しかしながら軽自動車というメーカーとしてはある意味マーケットを限定し、そこで勝負をしてきて利益をずっと出してきた企業。
これまでの成功経験からか、チャレンジ精神に欠け、将来を考えるということを怠ってきました。
そんなイナズミにあって会社の危機を感じて行動を起こす人物たち。



電気自動車というこれからの次代を見据えて、ベンチャー企業のミライモータースと話を進め、腹黒いタカバ自動車の鼻を明かすという痛快なビジネス小説です。

 

 

 

なんとなく気に入ったフレーズでメモをした部分

「世界中のどこからでも通話ができる。こんな時代が来るなんて、想像もできなかったよな」
「技術の進歩ってのは、そんなもんですよ」

たしかにそうですよね。
私が学生の頃には携帯電話すらなく、そんなモノが一人1台の時代になるとは思ってもみませんでしたからね。

 

「…内需、つまり社内需要で黙っていても一定量は捌けると考えていた我々が甘かったんだ。もはや、社内需要に期待はできない。」

これもそのとおりです。
巨大グループ企業はグループ全体で稼げているときはグループ企業内で自社製品の需要が相当ありますから、売れていない部門でもそれなりに売上があったのですね。
今はグループ企業だからといって、メリットのない製品を高い価格で使うほど余裕はありませんから、グループ内の需要に甘えているとこうなるということですね。

 

パソコンメーカーに先駆けて、スマートフォンを開発できていても不思議ではなかったのだ。
 それがなぜ、スマートフォンという発想が生まれなかったのか?
 全ては、担当外の仕事に口を出すのは法度、そんな暗黙の掟が社内にできあがってしまっていたからだ。

本当は当時からそういったものを作ろうという部署もあったと思います。
ところがそういう商品はお互いのテリトリーをまたぐ商品となるので、社内での調整ができず、いわば幹部のポストのためにみんな気遣ってそうしたということなら、本当に顧客をみていなかったということです。

 

たった二十年前までは、あって当たり前だった製品が、市場そのものが消えて無くなってしまったのだ。

ということでデジカメしかり、携帯音楽プレイヤーしかり、ガラケーしかりですね。

 

追い込めば、追い込むほどに、願いを叶えてやる条件は高くなる。
新たな利権を手にする臭いを嗅ぎつけた。
市吉の中で政治家の本能が覚醒しはじめたのだ。

日本の国、国益というものを最大限にするのが国会議員の仕事なのですが、彼らはその仕事の前に議員でいることが必要。
そして議員で居続けるためには金、利権です。
結果、日本の国益はないがしろにされる、というかそもそもそういった抽象度の高い視点から眺める人はいなくなってしまったのでしょう。
政界財界を含めて。

 

役員のポジションを射止めた人間は、新入社員の頃から与えられた職務を完ぺきにこなすことに専念し、百パーセント達成してきた者たちだ。有能ではあるだろう。知恵もある。だが、それは、敢えてリスクは冒さない、余計なことは考えない。つまり、新しいことに挑戦する意欲を端から放棄し、点取り虫に終始してきた者たちによって占められているということだ。

これは高級官僚を頂点としたエリートたちのことを指していますね。
彼らの終着駅は事務次官であり、一流企業のサラリーマンたちは代表取締役社長を目指すわけです。
減点主義でしか評価軸を持たない日本の悪しき慣習。
こんなにスピーディな変化の時代に、全くそぐわないですね。

 

これだけ技術の進歩に加速度がついてしまうと、投資金額を回収する前に、技術、製品そのものが陳腐化してしまって、誰にも見向きもされなくなってしまう可能性のほうが高い

だから二番煎じや漁夫の利を狙うというほど甘くはないと思いますね。
とはいえ、日本独自の仕様というものが多すぎるのも良くないです。
世界のスタンダードとはなにか?という問題もありますが、何より国際政治の舞台で発言力がなく、いいものを提案しても否定されて、美味しい部分だけ持っていかれてしまっている、という気がします。

 

イノベーションの本質は、既存技術と既得権益の破壊だ。

そのとおりですよね。
そして上に立つものほど本能的にそれらを避けようとします。
これらも減点主義がもたらしたものでしょう。

 

自分が現職でいる間さえ凌ぎきればいい。将来のことなど知ったこっちゃない。そんな考えが、透けて見えるような話だ。

サラリーマン社長、官僚のトップはみんなそうじゃないですかね。

 

その点イノベーターにしがらみなんてものは一切ありませんからね。いかに既存産業を崩すか。そこに大きなビジネスチャンスが生まれるんですから。

そういうイノベーター、ベンチャーが日本は経済規模に比して圧倒的に弱いと感じます。

 

レコードはCDに、やがてネット配信に変わり、いまではレコード店を街で見かけることはほとんどない。テープやビデオの磁気媒体も姿を消したし、タイプライター、写植機はパソコンに、ポケベルや留守電サービスも一時代を築いたのだが、それも携帯電話の出現で姿を消した。

想像できなかった。
当時を思うと心の何処かではそういう時代が来ると思っていたけど、一気にこうなってしまうとは思っていませんでしたね。

 

図体が大きくなれば、組織が硬直化し、リスクテイクを避けるようになる

これもそのとおりですね。
小さな会社の間は、潰れたら解散という覚悟で常に背水の陣であり、戦闘力も高かったのでしょう。
大軍団になると、みんな中軍に集まりたがって、矢面に立つ人間ほどボロボロになって捨てられていくだけ、そんな気がします。

 

問題点を指摘することに終始するのは能無しのやることだ。
肝心なのは、問題をどうしたらクリアできるか、そこに知恵を絞れるかどうか。いや、その姿勢を見せることが肝心なのだ。特に前例のない仕事に従事する人間には、そうした資質が必要不可欠だ。

まさにその通りなのですが、口で知恵を絞れというものの、現場は今の仕事を回すのに必死。

 

産業規模が大きくなればなるほど、動きが鈍くなる。だからこそ、そこに我々ベンチャーがつけ入る余地が生ずるわけです。まさに「素早く動いて破壊せよ」ってやつです。ベンチャーが成功するにはそれしかないんですから

 

「素早く動いて破壊せよ」とは、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグが、市場環境が激変期を迎えた際に、大企業の既得権益ベンチャーがいかにして奪うか、そのあり方を示した有名な言葉だからだ。

そのフェイスブックも巨大企業です。
メタに社名変更してからはかつての輝きが~

 

「神輿が勝手に歩ける言うんなら、歩いてみいや。おう!わしらのいう通りにしとってくれりゃ、儂らも黙って担ぐが」ってな

 

大企業がリスクを冒して先陣を切らずとも、有望なビジネスとなる気配が見えたところで乗り出しても十分間に合う。そんな甘えや油断もあったと思う。

先述した通りで、二番煎じで美味しいところだけを持っていこうとしてうまくいくほど甘くはないでしょう。
日本がか弱い時代にはアメリカの庇護があってそのやり方が通用したと思います。
そういう成功体験を引きずっている人が日本のトップ層に長くい続けたことが衰退の遠因となっています。

 

解決しなければならない問題は山ほどある。そういって、自分たちに不都合な未来に目を瞑る。

棚上げ、先送りは今の立場を守ろうとする上層部の得意技です。

 

過去の経験や実績が物を言う時代はとっくに終わっていたんだ。

過去の武勇伝をいつまで語るのでしょうね。

 

「時代の流れを敏感に察知し、会社の将来、業界の将来を真剣に考えているのは、役員じゃない。これから何十年とこの会社で働いていかねばならない若い世代なんだな」

まさにその通り。
会社だけでなく政治も同じ。
後何年行きられるかわからない政治家に本当に日本の将来を考えて行動するなんてことはできるわけがありません。
そもそも政治改革すらまともにできない人たちなのですからね。

今回は書いているうちにぐちばかりになってしまいましたね。
読み応えのあるビジネス小説ですから、面白かったのは確かです。

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