悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

メインバンク 咲村観

先日から読み始めた本です。
咲村観さんの本は読んだことがないのですが、読書の水先案内をしてくれているムッくん様のブログの影響もあり、読んでみようと思いました。

読み終えて随分経過しているのですが、ブログを書く時間がなかなかとれず、ようやく投稿できました。

nmukkun.hatenablog.com

ムッくん様の紹介記事とは違う本ですが、その中にあった「メインバンク」という小説に興味を持って読み始めたのです。
私が就職した時代よりもかなり前の時代にになりますので、今ひとつピンとこないところはあるものの、石油ショックやら大型倒産というのは、まだ学生であった頃から、そろそろと足音もなく忍び寄ってきたという時代でしたね。
かなり前の作品なので今の時代とは違います。
まだ大蔵省銀行局が圧倒的な支配力で持って銀行を指導していた時代、「護送船団方式」と言われていた時代の話ですね。

この本の目次

第一章 経営破綻

 青天の霹靂

 メインバックとは

 経営者交代

 合併への模索

第二章 銀行管理

 出向

 相克

 混濁

 人員整理ま

 報復

 しがらみ

 合併覚書調印

第三章 崩壊

 泥沼の攻防

 合併への思惑

 巨星墜つ

 余燼

 

あとがき

 

 

登場人物

桜田光男
浪速銀行営業第一部長。
倒産を避けられない岩佐商事を銀行による管理下に置くために出向する主人公。
乗り込んだ岩佐商事では専務の肩書。

木島副頭取
浪速銀行副頭取。
岩佐商事の倒産に際し、メインバンクとしての社会的責務を果たすために、岩佐商事を銀行管理下に置くことを進める人物。

堀内常務
浪速銀行常務。
管理のために岩佐庄司に乗り込み、合併を完了するまでの責任者。
岩佐商事では社長となります。

 

磯貝会長
浪速銀行の会長で当銀行の絶対的な実力者。

 

岩佐社長
岩佐商事三代目の社長であり、同社においては誰も逆らうことができ兄絶対的な人物。
経営破綻し銀行管理下となってもその感覚は抜けきらないものの、メインバンクである浪速銀行に従わないとすぐにも倒産することは目に見えており、渋々その管理下に入ります。

 

長野
岩佐商事労働組合中央執行委員長
労働組合さえなかった岩佐庄司だったが、急遽設立され、管理下に置く銀行側と真っ向から対立する。

 

飛鳥田社長
関西商事社長。
岩佐庄司とはライバル関係にある商社で、倒産する岩佐商事を引き受けるにはこの会社しかないと浪速銀行から合併へ向けてアクションを起こします。

あらすじ

桜田は銀行マンとして今や浪速銀行の営業の部長となっています。
浪速銀行がメインバンクとなっている岩佐商事の経営破綻が問題となり、どうやっても倒産は避けられない状況であることを知ります。
浪速銀行では債権回収を急ぎ、その被害額を抑えるという方針の意見が多かったのですが、木島副頭取は、岩佐商事の関連企業などを含めると経済的な影響を考え、銀行の社会的責務を果たすべきであるとの意見を述べます。
浪速銀行の磯貝会長は結局、木島副頭取の意見を取り入れ、岩佐商事を放置せず、銀行管理下に置いて合併を目指すことになります。

そこで白羽の矢が立ったのが、岩佐庄司の経理状態に詳しい桜田でした。
もちろん上には堀内常務がおり、彼らは岩佐商事を管理するために出向します。
出向した日から、管理される側の岩佐社長たちからの猛反発もありましたが、あまりのわがままさに、浪速銀行は「脅し」を交えながら答えていきます。
結局岩佐商事はメインバンクに引かれるとすぐさま倒産してしまう自体にもなりかねないため、受け入れざるを得ない状況になります。
岩佐商事をこのまま倒産させるより、有力な合併先を模索。
結局岩佐商事のライバルであった関西商事に話を持ちかけていきます。
ただ、関西商事も慈善事業ではないため、それらの調整には骨が折れるのでした。

労働組合さえなかった同族系の岩佐商事でしたが、労働組合ができ、銀行の管理下に置かれて合併を模索していることが発覚していきます。
社員も同社の経営状態のことはわかっているものの、サラリーマンとして向かう方向はわからない状態。
労働組合の委員長である長野は非常に切れる男で、その行動力は凄まじいものがあります。
合併へと方針を定めた桜田たちははたして、岩佐商事を導くことができるのか、苦労の連続です。

 

感想

大きな会社の長たるものは、従業員の生活を預かる立場であり、倒産という自体になった場合には、その責を負うのは当然でしょう。
この物語の3代目ボンボン社長の最後はなんとも言えない後味の悪さです。
銀行も大企業ですが、その社会的な役割は大きいです。
この物語では銀行が主役なので、「善」として描かれていますが、個人的にはバブルの後処理で日本が停滞したことを考えると銀行を「善」と見るような気持ちにはとてもなれません。
もちろん、この小説はバブルよりも前の時代の物語ですが、当時のバンカーにはこのような矜持があったのでしょうかね?
どちらかというと大蔵省からの強制的な指導によってイヤイヤやっていたのではないのか?と思うんですね。
いずれにしてもこれほど巨大な穴を作ったオーナー社長の責任は重いです。
成長するときはとても優秀な人材でも、業績に陰りが出た時にどのように対処するのかということに本当に経営者としての手腕が問われるのでしょう。
多くの偉大な経営者もそういう機器を乗り切ってこそなのでしょう。
裸一貫から大きな会社に成長させた成功譚はたくさんありますが、逆風が吹いた時期に、その大きくなったその屋台骨を壊すことなく乗り切るというのは難しいのでしょう。
よく言われるようにトップを取る難しさよりもトップを維持するほうが遥かに難しいと。

この物語の中盤は労働組合との闘いでした。
悲しいかな組合には勝ち目はないのですが、あのような行動しか取れなかったのでしょうかね。
優秀な人間でもある長野委員長が気の毒でなりません。
またそういう人物であることを早々と見抜いていた桜田もまた優秀な人間です。
ただ、仕事を完璧にすればするほど、「死刑執行人」と呼ばれるなど、人間として精神的に追い詰められていきます。
こんな仕事にやりがいを感じていけるのでしょうかね。

個人的な話になりますが、私も家業の廃業、その後勤めていた老舗の会社が倒産と、会社がなくなるということに対して、それなりに実感を持って読んでいました。
この物語ではにほんの10大商社の1つとして数えられていた安宅産業の倒産をモデルとしていますが、そういう大企業の倒産は全然わかりません。
それにしても会社が潰れてしまうとき、どういう行動を取るのか、いろんな人間模様が垣間見えてきます。
倒産した会社に残って残務整理をする人(清算が終わるまでは、とりあえず給料は出る)。
さっさと見切りをつけて、説明会以降は次の職を探すもの。
私はその中間でした。
途中までは会社の清算のために、残務処理をやっていましたが、誰もやる気を出してする仕事でもなく、このままでは人間としてダメになるなあ、という気がして、次の職を探すことに。
一度、事業を始めようかと検討したこともあったのですが、結局は経験もなく、リスクを考えると見送らざるを得ませんでした。
チャレンジ精神が足りなかったとも言えますね。

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