悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

覚慶の長く暑い夏 中南元伸

画像はAmazonより

kindle unlimitedにあったこの本。
ダウンロードしたのは良いけれど、そのまま放置になっていました。
スキマ時間を利用して読みました。

 

覚慶という文字を見てすぐに足利義昭を思いついた人はかなりの歴史ファンでしょう。
学校の教科書で習うときは足利義昭で、出家していたけれど還俗して将軍となった人物ですね。
著者の中南元伸さんは、先日読んだ「筒井順慶の悩める六月」以来です。
時代はかなり違いますが、歴史の表舞台に名前は登場するものの主役になりきれなかった人物という点では同じです。
ただ、筒井順慶と違って覚慶は室町幕府の将軍にまでなる方。
さてどんなものかと楽しみながら読み始めました。

 

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歴史小説ですから、ストーリーは史実通りなのですが、足利義昭を主人公にした小説だけあって、どのような流れで将軍になったのかがポイントです。
始まりは第13代将軍である足利義輝三好三人衆たちに討たれてしまったところからになります。
それまでは一乗院で僧侶として過ごしており、その名前が覚慶。

この物語で登場するのは

覚慶、のちの足利義昭(義秋)は主人公なのでもちろん登場シーンが多い。

松永霜台(松永弾正少弼久秀)は脇役ですが、役どころ多し。

松永久通 松永久秀の息子でまだ若く、あまり細かいことはわかっていません。

三好三人衆三好長逸岩成友通三好宗渭)三人衆とまとめられているように十把一絡げの扱いであまり目立ったところはありませんが、長慶時代から引き続き松永久秀に三好党が牛耳られているため面白くありません。

三好義継 ザ・神輿の上の人、若輩で本人も思慮不足。
長慶の跡を継いだことと、三人衆に乗せられて将軍になれると思っている愚かな男。

慶寿院 義輝および義昭(覚慶)の生母で、へそ曲がりで政治に口を挟む悪女役。

御所巻という将軍に対する直訴(強訴)は基盤の脆弱な室町幕府では過去にも何度もあったことですが、今回の御所巻では、足利義輝が志望します。
言ってみれば、これらのスケールの小さい武将たちが権力を争ったがために起きた事故なのです。

更にこの後の物語の展開は、次の将軍をするために覚慶を還俗させて将軍職にするということです。
ところがこの覚慶は「麿は将軍なんかになりとうない」と言い続ける人物。
そこにはこの人物のちょっと拗ねたところや、一乗院門跡という僧侶としては高位ながらもある意味気楽に堕落した生活を楽しんでいるところがあります。
彼の世話をする珍念という小僧から見ても、30歳にもなろうかという立派な大人の覚慶が子供っぽく写っていることからもわかります。
覚慶は、文泉という未亡人で尼僧を愛人としている生臭い僧侶ですが、足利将軍家嫡流ということで特別扱いを受けているわけです。
こんな放蕩癖のある人物でも血筋というものが物を言う時代。
覚慶は早速松永久秀の管理下に置かれるのです。
松永が面白くない三好三人衆によって新たな将軍を担ぎあげられたのが第14代将軍足利義栄です。
そして彼らは担いだ神輿にとって邪魔な覚慶を亡き者にしようと松永久秀に命令をするのですが、野心家の彼はのらりくらりと情勢を見ながら対応します。
そんな双方との覚慶を巡る争いに加わったのが、明智十兵衛光秀と筒井家の侍大将の島左近清興と島左近の舅の北庵という医者です。
ここからは北庵という人物が大活躍するのですが、彼の言葉は「アレ、ソレ」ばかりのわかりにくい日本語で、その言い回しが皆に伝染します。
まるで阪神の岡田監督みたいですよね。
この北庵が物語を面白くかき回してくれます。
結局のところ、彼らの覚慶救出作戦が成功するまでの話で、「嫌や~、将軍なんぞなりとうない」と駄々をこねていた覚慶も最後は腹を決めて将軍になり、麿という一人称も辞めてしまうという話です。

いや、まあ、面白いです。
関西人には。
関西風の言葉でコテコテですけれど、三好三人衆松永久秀たちとの三つ巴の中でのやり取りですね。

 

 

 

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