悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

遺骨 内田康夫

バタバタと忙しい一日でした。
昨日と続けてこんな時間に帰宅。
疲れすぎないようにしないといけませんね。

 

日大理事長の会見が行われたようですね。
日大への家宅捜索で発覚した薬物。
その前日には、林真理子理事長による「そういった事実はない」と言い切ったことから、やはり隠蔽体質か?などと厳しい意見が相次ぎました。
林真理子さんは、すでに作家としてかなり著名な方であり、今更大学の理事長という名誉職を必要としているわけでも、望んでなったわけでもありません。
日大アメフト部の悪質タックルから、日大の異常な体質がさらされることになり、改革が急務。
そこで白羽の矢を建てられ、母校への思いもあって引き受けたのだと思います。
今回のことでも結果としては非難を浴び、下げなくても良い頭を下げざるを得ない状況になりました。
覚悟の上に引き受けた理事長ですが、今回の流れをどこまで把握していたのかわかりませんが、損な役回りだなあと思いますね。

さて、前置きが長くなりましたが、ジャンルとしては推理小説になるのかな?と思っています。
通勤などの時間を利用してKindleで読んだ本です。
結構古い本になりますが、特に違和感もなく読みやすかったですね。

この本の目次

プロローグ

第一章 淡路島

第二章 足尾銅山

第三章 長門仙崎港

第四章 大阪の女

第五章 死生観

第六章 反映の系譜

第七章 哭く骨

エピローグ

自作解説

あらすじ

父親のいない子供として、寂しい思いで育った森喜美恵は、生まれ故郷の長門市に戻ってきました。
友人にも何も言わずにいなくなった彼女でしたが、今回も温泉旅館で働いていると言うことがわかってから、またしても姿を消してしまいました。

ルポライターとして淡路島に取材に来ていた浅見光彦は、フェリーで偶然知り合った男性のただならぬ様子に違和感を感じます。
そしてその後、その男、龍満智仁が殺された事件を知ります。
殺されたのはマンションの駐車場で、刺殺でした。
龍満は大手製薬会社、グリーン製薬の営業職。
龍満は常隆寺に父親の遺骨を預かって欲しいという依頼をしたようなのです。
彼の妻に事情を聞くと、妻は夫のそういった行動を何も知りません。

常隆寺の住職は龍満から預かった遺骨をある女性に渡しました。
その女性は石森里織と名乗っていました。
ところが奇妙にも田口と名乗る男性もその後やってきて、預けてある遺骨を渡してほしいという言うのでした。
龍満の妻は龍満の部下である田口に遺骨を淡路島にある常隆寺に持って行っていることを告げます。
田口は何かを知っているのか、感づいたようでしたが、その後田口は何者かによって殺されてしまいます。
殺害されて遺棄されたのが栃木県の足尾銅山の渓流でした。
製薬会社の営業職二人の殺人事件でしたが、警察の動きは悪く、浅見は独自の推理と行動力でこの問題に食いついていきます。

感想

浅見光彦シリーズとしてテレビサスペンスドラマとして有名らしいのですが、そもそもテレビを見ない人間としては名前くらいしか知らず、内容は全然知らないわけです。
内田康夫さんも名前は知っているけど、これまで読む機会がなかったのか、全然記憶にありません。
流石にTVシリーズで人気を博しているように、とても読みやすくて展開も良かったです。
淡路島、大阪が登場し、その中で南海線泉大津などが出てきましたので、より身近に感じたのかもしれません。
名探偵ではなく、ただのルポライターという人物ですが、兄が警視庁の大物ということで主人公浅見光彦が活躍するというのも設定として違和感がないですね。

 

それにしてもこの物語の中心になっているのは製薬会社、医療行政といったところに対する問題を鋭く描いています。
製薬会社のプロパーという営業はそれこそ凄まじい「実弾」攻勢を仕掛けてくるというのは有名です。
いわば金銭などを供与する、賄賂ですが、公務員でもないため、表沙汰にはならないらしいです。
医者のタイプにもよりますが、それが当たり前に思っている人物もいるらしく、露骨に賄賂を要求してくる不埒な医者もいるとか。
ともあれ、莫大な利益が製薬会社に転がり込むことがわかっているからこそ、そういった「経費」が認められるのでしょう。
医療という人の命を預かる業務に携わる仕事において、高い倫理観が求められますが、実際にはそういうことは綺麗事に過ぎないということなんでしょうか。
この物語のもう一つの主題は、「脳死」「臓器移植」といった点にも鋭く切り込んでいるところで、脳死判定、臓器移植に関しては高い倫理観が求められます。
まさに生殺与奪を握っているのは医者ですしね。
更には現在の医療行政についての疑問も小説内で登場人物の台詞として書かれています。
「メーカーから病院へ、病院から患者さんへ流れる薬の量の膨大なことは、中にいるものでさえ呆れるぐらいです。病院では無用な検査と無用な投薬が日常茶飯事。こんなことでは日本の健保制度はどうなってしまうんやろ」

この小説の割と早い段階で、
「薬害をもたらすものは、プロパーや研究者といった個人ではなく、製薬企業そのものの体質であり、組織的な犯罪要因によるものであることははっきりしている。」
とまで書いています。
薬害をテーマにした小説や映画というものは結構多く、そこには巨額のマネーが動くだけに細かい「正義」は踏み潰されてしまうのでしょうか。

脳死と臓器移植」の問題についても浅見家の会話のおかげで非常にわかりやすくなっています。
「どうしても第三者の、それもなるべく新鮮な、できれば生きた状態の臓器がほしい。だからといって生きている人間から臓器を取り出す訳にはいかない。そこで脳死問題がクローズアップされてきたのです。」

脳死を意図的に作り出すことさえありうるということだと、僕は思っていますけどね。」

医者の先生という素晴らしい頭脳を持つ方は研究者としてそれを極める道ももちろん大切ですが、医療実務者として、患者に寄り添う「心」の部分、そして高い倫理観が求められます。
現実はどうなんでしょうね。  

Copyright ©悪魔の尻尾 All rights reserved.