悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

人財島 根本聡一郎 

7月2日に起きたKDDIの通信トラブル。
携帯電話がつながらない問事だけではなく、金融サービスや物流にも多大な影響があったようです。
私の職場でも大変な騒ぎになりました。
よりによってクレーム対応中のお客様との現物のやり取りで約束した時間を守らないということでさらなるクレームに発展。
いや、配送業も現場は最善を尽くしてやっているわけです。
同時に進捗を確認しようにもそれらのサイトも止まっていましたから、お客様の感情は煮えくり返っていましたね。
大迷惑ですね。

遅れてしまったことはお客様にとっては大変な損失だとは思いますが、避けられないことですので、理解をしてもらいたいのですけどね。

 

さて今回も通勤で読み終えた本の紹介。

最近続けて読んでいる、根本聡一郎さんの本ですね。

人財島(じんざいじま)という本。
なにやら怪しげですが、読んで見れば更に怪しさ満開です。

人材を人財と書くのが流行するようになったのはいつからなんでしょう?
とか言いながら、うちの会社も人財という風にスタッフを読んでいます。
最近は、人財よりも人材のほうが良いイメージがありますけどね。
財はお金にかかわることであり、金になる人という意味と解釈できます。
材は才能という意味もあり、人間の才能という意味にも取れるわけですね。
人財をドヤ顔で言われても気持ち悪さすら感じますよね。

 



この本の目次

第一章 人財

第二章 出港

第三章 人在

第四章 JP

第五章 RULE

第六章 GAME

第七章 DUST

第八章 STAR

第九章 CF

第十章 人材

第十一章 計画

第十二章 密航

第十三章 暗部

第十四章 人間

あらすじ

冒頭では新聞記事が紹介されます。
やまと銀、離島の新研修施設を支援
この物語はこの離島の新研修施設での物語です。
人材派遣会社のパシフィストに勤める北原直人は、就職難のこの時代にやっとの事で得たこの職場に馴染めないのでした。
真面目には働いているものの、宗教じみた社訓に違和感を感じているのでした。
そういった北原の態度を目ざとく見つけ、彼に人事異動を申し渡すのでした。
人財島(たからじま)と呼ばれる生産性の低い人間を再教育する施設での勤務なのです。
その島、人財島では人間を4つのグループに分けています。
とりあえずその島に行くと「人在」(あり)となります。
そのランクで実績を上げると「人材」(マルタ)に昇格することができます。
さらにここで実績を上げると、晴れて「人財」(タカラ)となり、この島から出ることができるというシステムでした。
北原は出向ということでてっきり人材の再教育をする側だと思っていたのですが、実は自分が教育される側であると知ります。
同じくこの島にやってきたのはメガバンクに努めていた野沢俊之。
人当たりのよい野沢はどこまでも楽天的で、前向きな人間でした。
こんな良い人がどうしてここに飛ばされてしまったのか疑問に思います。
そして北原にはもうひとり気になる人を目にします。
ずっと引きこもりをしていたという女性怜花(レイカ)でした。
また三白眼の男、目黒も油断ならない怪しさを持っていました。

彼らはまず、農業施設たからじまファームで農業に従事させられます。
農作物はキャッサバ芋
手作業でそれらを掘り起こし、成果物ボックスと言うところに持っていくと、JP(ジンザイポイント)がもらえるという仕組みになっています。
ちなみにこのジンザイポイントは彼らを管理しているジンザイリングに同期しており、この島での買物などもJPで簡単に決済できるようになっています。
ところが、ありとあらゆるものが有料で、例えば軍手一つにしても料金が取られるのでした。
買い切りではなく、サブスクリプションサービスとしてスコップや軍手、一輪車と言った者にもサービスのためのJP価格があるのです。
頑張って「生産性」を上げて働いてもせいぜい4000JPほどしか稼げません。
更には食事にもJPが必要でそれらの価格は1JP=1円くらいの感じでした。
つまりべらぼうに安い賃金で働かされているわけです。
最低賃金だ!と訴えようにも、この土地には訴えるべき場所がありません。
個人所有のものはすべて召し上げられ、スマートフォンなどもなく外界とは連絡が取れなくなっています。
スマートフォンはありませんが、この島の中にはクローズドなネットがあり、TAKARAJIMA.NETでは「なんでもJちゃんねる」というところで島民の声を聞いたり、投稿したりすることもできるのです。

「人在」から「人材」へランクアップするためには100万JP必要ということを知ります。
更に「人財」となるためにはJPが必要なわけでどう考えても1年以内にこの島を脱出することはできそうにありません。

この島には闇カジノがあり、そこでは一攫千金を狙ってなけなしのJPをかけて勝負を挑む人達がいるのでした。

闇カジノに詳しい堂下という男が北原に近づいてきます。
野沢は北原に注意を促しますが、若い北原はだんだん堂下に巻き込まれていき、カジノに手を出してしまいます。
そこに怜花もついてきて、カジノを見学するのでした。

北原たちはこの後どうなってしまうのか?


 

感想

ひどい島だなあ~というのを感じました。
同時に思い出したのが、北朝鮮政治犯収容所をアニメで描いた映画「トゥルーノース」です。

 


 


あちらは本当にひどいのですが、それとそんなに変わらない施設です。
タコ部屋以上ですね。
何と言ってもこの島から抜け出すことが不可能ですからね。

作者の根本聡一郎さんは、若いながらも本当に面白い小説を書いてくれますね。
つい最近読んだ「プロパガンダゲーム」は傑作だと思います。
読んでいない人は是非読んでみてほしいですね。

 


それ以上に私が個人的に気に入ったのが、「ウィザード・グラス」。
もはやテクノロジーとしてはこんな時代に来ているんだと感じます。
こちらもぜひ読んでもらいたいですね。
ITやガジェット好きなら読むべきでしょうね。

 



根本聡一郎さんは私の娘の世代。
特にどこでも働くところはあるけれど、生涯の仕事を選ぶとなると、就職ということが非常に厳しい。
そう感じていた「負」のエネルギーを小説という「舞台」で最大限に発揮した作品!と勝手に思ってしまいます。
この物語には「生産性」という言葉がしょっちゅう出てきます。
もちろん生産性を上げることが悪いとは言いません。
数字を上げることの素晴らしさはよくわかります。
でも現実の仕事では数字以上に価値のある仕事をしている人、いわゆる縁の下の力持ちのおかげで成り立っていることって多いと思うのです。
個人的な意見で申し訳ないですが、コールセンターで多くの電話対応をし、CPHやAHTなんてものがあります。
CPHはコールパーアワー、つまり時間あたりに対応したコール数。
AHTはAverage Handling Time、平均処理時間のことですね。
どちらも数字が高いほどパフォーマンスが高いオペレーターということになります。
しかし、CPHやAHTが低くても、難しいお客様の対応をこなせる人はそれだけで素晴らしいことですし、そういった数字で測れない素晴らしいオペレーターもいるのです。
特に業務上、数字では評価されにくい人材も、職場の人間関係を円滑にするための潤滑油のような人もいます。
それらを「生産性」という言葉で片付けられないと思っていますけどね。
お陰様で私の職場はそんな雰囲気ではないです。
逆にちょっとは「生産性」を意識しろよ!って思う人はいますけどね。

面白おかしく書いていますが、この人財島は瀬戸内海にある青沖島となっています。
そんな島は知らないのでおそらく架空でしょう。
阿賀戸(あがと)という地名も架空と思われます。
そしてパシフィストと言う会社、これはもろにパソナを指しているのでしょう。
となると、本社を移転した淡路島こそが青沖島であり、阿賀戸は明石と神戸をくっつけた地名?と言えるかもしれません。
社長の名前が南雲信蔵(なぐもしんぞう)です。
パソナ南部靖之氏と取締役の竹中平蔵氏の二人をかけ合わせているのかと推測します。
まあ、お二方もお金持ちで著名人ですが、色々ときな臭い噂が消えない人たちです。
ちなみに私が若い頃、南部靖之氏の講演を聞いたことがあります。
どちらかというとニュービジネスのリーダーとして、顧客のための講演会で、私は座席の設営とか、後片付けとかやっていました。
彼の話していた内容はさっぱりおぼえていないのですが、当時パソナはテンポラリーセンターと言う名前でして、南部氏は、どこかの会合で会場で名前を書くときに走り書きで「テンポラリーセンター」と書いたのですが、「テ」の文字の縦が突き抜けて「チ」になってしまったというネタだけが印象に残っています。

キャッサバ芋の生産は近年ブームになっていた「タピオカ」ですし、サブスクリプションという言葉もこの小説に出てきます。
ユーチューバーのヒカリンも登場しますし、売れないユーチューバーも登場します。
ヒカリンは当然HIKAKINのことでしょうね。
ジンザイリングはアップルウォッチのような機器で、しょっちゅう充電する必要があります。
そしてそこに搭載されているAIがSINLA。
これはアップルのSiriのことですよね。
丁寧な話し方をするけれど、人間味がなく、慇懃無礼の見本と書いていましたね。
そのとおりだと思います。
そんな人工知能から呼び捨てにされて、ムッとするシーンも有りました。

南雲社長の訓示をいくつか上げておきます。
ありきたりな、どこかで聞いたことのあるような内容ですが。
「日本中の企業が社内の無駄を徹底的に削減し、筋肉質な組織へと生まれ変わる必要がある」
「淘汰とは、変化を恐れるばかりで努力しないものは倒れ、強い意志を持って果敢に行動するものだけが生き残ると言うことだ」
「圧倒的な当事者意識を持って課題解決に邁進」
こういった訓示を受けて、出世する人たちは、盛大なる拍手と感動を表現するのです。
そうすることが自分たちの出世につながるから。
まるでその光景は宗教のようです。
なんとなくわかります。

この小説を娯楽小説としても読んでもいいし、自分の働き方のヒントにしてもいいと思います。

オススメですね。

 

 

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