悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

豹変 今野敏

いつものように通勤時にKindleにて読んだものです。
この本を先に読んでしまったのですが、本当は「鬼龍」から読むべきなんでしょうね。

 

 

登場人物

富野輝彦
主人公。
警視庁生活安全部・少年事件課・少年事件第三係の巡査部長

有沢英行
富野とコンビを組む5歳下の警察官

鬼龍光一
鬼道衆の一族。
上から下まで黒ずくめのお祓いをする人物

安倍孝景
上から下まで白ずくめの男。
鬼龍と同業者で「奥州勢」と呼ばれています。

佐田秀人
中学3年、14歳。
同級生の石村健治を刃物で刺す。

石村健治
中学3年、14歳。

与部星光(よぶせいこう)
ネイムというSNSアプリ開発者。
天才と言われる人物

 

 

 

あらすじ

都内の中学校で生徒同士による刃物での傷害事件が発生し、学校からの通報があります。
警視庁生活安全部・少年事件課・少年事件第三係の巡査部長である富野輝彦は、5歳下の巡査長の有沢英行を連れて現場に行きます。
そこで確保した加害少年、佐田秀人はまるで老人のようなしゃがれた声と話し方で、罪の意識が全くありません。
この加害少年の姿は中学生ですが、目つき山取った雰囲気から普通の中学生と片付けるには違和感を感じます。
そして悠然と所轄署から立ち去ろうとします。
華奢な14歳の中学生の姿に似合わず、引き止める富野や警官たちを軽々とふっとばして消えてしまいました。
細身で全身黒尽くめの怪しい男、鬼龍光一が富野を待っていました。
富野には受け入れられないお祓いの類の仕事を生業としている男です。
過去にも何度か事件に協力してもらったことがあり、信じているわけではないものの解決に力を貸してくれた人物、協力者なのです。
鬼龍は鬼道衆と呼ばれる一族で、あの卑弥呼が使っていた術ということらしいのですが、怪しすぎて本当のことかどうかもよくわかっていません。
鬼龍とともに病院にいる被害者中学生石村健治に会います。

鬼龍は、富野からの情報と被害少年の話を聞いて、富野に告げます。
加害少年佐田は「狐憑き」の状態で、その狐は老狐と呼ばれるとても力の強い部類といいます。
佐田と石村という二人の中学生は仲の良い親友というわけではありませんが、SNSを通じてやり取りのある知り合いでした。
鬼龍たちは佐田の自宅へ行きます。
そして佐田の自宅では彼の母親が鬼龍を待ちわびているようでした。
鬼龍はお祓いをして、佐田少年から老狐を追い払います。
佐田少年は普段どおりの普通の少年に戻っているのでした。

病院で被害少年の石村に会っている有沢に連絡すると、病院ではその少年に会わせろという全身白づくめな変な人が来ているといいます。
どうやら鬼龍の同業者である奥州勢の安倍孝景がその病院に来ているようでした。
病院に行くと孝景は警察官に取り押さえられ、石村はいなくなっていましたが、すぐに公園のそばの稲荷神社の小さな祠で発見されます。
鬼龍と孝景によって石村から老狐を祓い、石村は14歳の普通の少年に戻りました。

こんな非科学的な事件、非日常的なことを事件として報告すれば、富野はたちまち気が狂ったのか?と思われてしまいます。
二人の少年が狐憑きの状態から開放され、どちらにも大きな悪意がないことがわかりました。
しかし事実として刃物で刺したという傷害事件は処理しなければならず、富野は知恵を絞り穏便に済ませるために、二人の少年に「指導」します。

ところが事件はこれだけでは終わらなかったのです。
今度は江戸川区の河川敷で少年が金属バットでめった打ちにするというものでした。
今回の加害者と被害者も14歳の中学生でした。
警察署でまた一波乱があったものの鬼龍によって老狐は払われます。

さらに事件は続き、今度は女子中学生(14歳)が4人の若い男たちにバンで拉致されます。
おそらくわいせつ目的をだったのでしょう。
ところがこの少女が自分よりも力に勝る4人の男性たちを気絶させてしまいます。
そして彼女も同様にしわがれた老人男性の声でした。
鬼龍によって祓われ、もとの少女に戻ります。

このような連続した不思議な事件。
鬼龍にも老狐による狐憑き自体が非常に珍しく、このように連続することが普通はありえないと、言われます。
富野は、14歳の少年少女であることと、彼らがネイムというアプリを使っているという共通点に引っかかりを感じるのでした。
富野はスマートフォンやアプリと言った者に興味も知識もありません。
自分よりはそういった点に詳しい相棒の有沢にネイムについて調べるように告げます。
ネイムというSNSはものすごく普及しているアプリで、有沢が調べていくうちに占いというものがあり、特定の選ばれた者だけが入れるところがあるようでした。
富野はこのアプリに注目し、作った会社であるサイバーパンサーを訪問し、作った人物である与部星光に面会を申し入れます。
与部星光は日本のスティーブ・ジョブズと呼ばれるほどでこの会社のアプリはほとんど彼が手掛けているものでした。
まさに天才で、彼なしでは会社は存在し得ないという人物です。
富野は多忙な与部星光に押しかけるも、彼は警察の「普通」の話に興味は持っていません。
ところが、「狐憑き」という言葉に興味を示し、さらに鬼龍の存在には身を乗り出すほどに興味をそそられるようでした。


感想

序盤は警察小説?と思わせつつ、「狐憑き」と祈祷師の登場で、一気にオカルト風の小説となってきます。
そういう系統の物語も嫌いではないのですが、今野敏さんの作風ってそういうのもあるんだ、と思いながら読んでいると、どうもそうでもないです。
前半は「狐憑き」による14歳の少年少女たちが巻き起こす事件が中心ですが、後半になると与部星光というキャラクターの登場によって、話は変わっていきます。
スマートフォンSNSアプリ開発と言ったところに話は移り、鬼龍光一との対話によって真相がわかってくるんですね。
ただ、こういうアプリを作ってしまっても罰する法律はありません。
それは現実の世界でも同じなのでしょう。
青少年が犯罪に巻き込まれる原因となっていても、スマートフォンを今更禁止することもできませんし。
この本ではじめて知った鬼龍光一というキャラクターですが、すでに何冊も鬼龍光一シリーズとして出ているんですね。
これは登場した作品を読まなくてはならないと、その後「鬼龍」も読みました。
また別の機会にそれはお伝えしたいと思います。
この「豹変」では富野という警察官が鬼龍たちと同じ人間なんですね。
富野自身はこのような非科学的な「憑き物」やら「お祓い」と言ったものを信じていませんし、自分の血筋がそういったものであるということも肯定していないんですね。
ところが、脇にいる鬼龍や孝景は、富野は当然そういった能力を持っていると思っています。
そして物語の途中で能力の片鱗が見えるんですね。
このキャラクターを主人公とした物語が描かれたので、今後のシリーズでも同じように活躍させるシーンが登場するのでしょう。
「豹変」の後の「呪護」でも登場するらしいですね。
読んでみたくなります。
物語の後半部分の中心となる与部星光というキャラクターも強烈な個性を発揮しています。
天才とはこういう人なのでしょうね。

与部星光の強烈なキャラクターは後半部分に描かれるのですが、彼はお金も手にしていますし、そもそもそういった俗物には興味が持てず、会社の経営自体も周りの人間に任せたままです。
自分の好奇心を刺激してくれるものにしか興味を示さないタイプです。

頭が固い科学者なんて、役に立ちません。
本当の科学って、常に新しい発想が必要なんですよ。
過去の理論に縛られているような連中は、学者であっても科学者じゃない。
心霊現象を否定する証拠って何です?
さっき、家の広報課長が言ったように、バカバカしいということだけでしょう?
それを真剣に考えたことがない人の言い草ですよ。
少なくとも、科学的に否定されたわけではありません。むしろ、科学的発想が生まれるかもしれません。
僕はそう考えています

序盤部分で富野も同じようなセリフを相棒の有沢に告げます。

本物の科学者は、減少をありのままに受け入れて、それを研究する。
中途半端な科学者は現象をこれまでにわかっている範囲の理論に当てはめようとする。

富野はITや脳科学と言った者は専門でもありません。
しかし警察官としてのカンが、アプリ開発者に目を向けさせたのか、それとも「トミノ氏」の能力がそうさせたのかはわかりませんが、結果としてこの事件の真相にたどり着くんですね。

娯楽小説にすぎないのですが、読んでいて面白かったですね。
オススメです。

 

 

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