悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

風に舞いあがるビニールシート 森絵都

短篇集というには読み応えのある分量の作品が6本入っている文庫本。
読んだことがない作家。家にあったおそらく妹の本。かってに拝借して読んだ。
スムーズに読めたかというとそこそこ通勤時間で読んだだけなので時間がかかった。面白い作品だと通勤時間だけでなく家でも読んだりするのですぐに読破してしまうが、時間がかかったということはそれほど面白くなかったということか。
女性の視点で描かれている小説はやっぱりあんまり合わないのかもしれない。日常的なことを書いているが、それぞれ人生は違うので共感はない。

冒頭の「器を探して」カリスマパティシエに使える女性の物語。これぞ女性の作品だなあという感じ。得意なジャンルではない。才能に恵まれるパティシエだが男運がなく、アシスタントの主人公の恋路を邪魔するというなんともいやらしい感じがなあ。
「犬の散歩」もペットを飼っていない私にはあまり実感はなかったが、それでも飼うなら最後まで責任を持つべきという気持ちは強い。殺処分されるペットたちのニュースを見ると心が痛む。
「守護神」。凄そうなタイトルとは裏腹に大学の論文の代筆をしてくれるものの話である。ただし、私が経験していたようなぬるい大学生活ではなく、苦学生である。かなりクセのある登場人物だが、主人公の男性、と守護神ニシナミユキとの会話の中からお互いを知りつつ、理解しあっていく。
仏像に魅せられた青年の半生を描いた「鐘の音」。少しくらいはなしであるのと、昔気質の職人の親方である松浦が好きになれない。
「ジェネレーションX」は面白かった。青春を賭けた野球を通じて、それまで距離を置いていた歳の離れた社会人同士の話。とても良かった。半日ほどの短い時間に詰め込まれた内容は面白く、あっという間に読めたという印象。
最後にはタイトルにもなっている「風に舞いあがるビニールシート」。あまり縁のない世界でピンと来ない部分があるが、最初はタイトルの意味がわからなかったが、終わりに近づくに連れ重みを増してきた。重い話。

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

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