悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

源義経と静御前 中島道子

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NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が放映中ですね。
戦国時代と比べると地味なのですが、それでも武家政権を樹立したこの時代にあって、判官義経はとても人気の高い悲運の武将です。

中島道子さんの著作、源義経静御前を読みました。
サブタイトルは源平合戦の華若き勇者と京の舞姫となっています。
当時の時代が義経を中心に描かれた物語です。
現在放映中の大河ドラマの内容を理解するにはピッタリだと思いましたね。

 

大泉洋が演じる頼朝。
武家の棟梁として坂東武者をまとめ上げ、武家政権を樹立。
その後の武士の支配が続く礎を作りました。
後の武家は、みんな頼朝を目指したわけですね。

そんな頼朝をドラマはかなり情けなく描いています。

「佐殿のすけは助平ののすけ」というのがTwitterのトレンドになったくらい、女好きで、武士として戦に強い、といった面は皆無。
三谷幸喜さんが脚本で、鎌倉殿が大泉洋さんですから、格好の良い武士を描くはずがありません。
どこか情けない人間として描かれるに違いないですよね。

ちなみに、この小説を読んでも、頼朝は政治家であって武士にあらず、というのがよく見えてきます。

頼朝と初めて顔を合わせる義経は、嬉しさいっぱいでしたが、頼朝にしてみれば、手駒のうちの一人に過ぎなかったのです。

頼朝の「して、味方はいかほど?」という言葉にあるように、義経軍勢(人数)を期待していただけに、僅かな手勢で駆けつけた義経を軽んじたのですね。

それでも義経は軍事的な天才でした。
戦上手とは彼のような人物を指すのでしょう。
もちろん「運」にも恵まれていたと思います。
「武運」は限りなく恵まれていたけれど、自身の人生の「運」には見放されたんでしょうか。

遷都した都を急襲した一ノ谷の戦い鵯越による逆落としでの鮮やかな勝利。
暴風雨の中、兵船を走らせ、予想外の速さで攻め入った屋島の戦い
そして平家を滅ぼした壇ノ浦の戦い
いずれも平家物語などを題材に後世に脚色された可能性はあるものの、これらの戦績を見ると、この時代の軍功第一は間違いないと思いますね。

この小説では、頼朝の指示によって義経を見張っていた梶原景時は徹底的に悪役として描かれています。

頼朝は武家政権樹立の英雄ですから、表立って批判はできない。
そこで作り出されたのが梶原景時だったという説もあります。

歴史はいろいろなところで脚色され、それが民衆に受け入れられると、そちらが本物として語り継がれます。
例えば、私が好きな三国志という物語も、歴史ではあるものの、一般的に知られている三国志は、蜀、劉備玄徳を主人公とする物語として多くの人は認識しているのだと思います。
実際はぜんぜん違うだろうと思っているのですがね。


それと同じく、義経という武将も、判官贔屓という言葉ができたように、民衆の心の奥に深く突き刺さる物語として語り継がれてきたのでしょう。
赤穂浪士なども同様に日本人の美学にピッタリとハマった存在。
それが源義経だったのでしょうね。


義経が平家を滅ぼすことにおいて大きな役割を持ったことは間違いないと思います。
軍事的には稀有な存在で天才なのでしょう。

しかし、幼いというか、思慮が浅く、老獪な人間にうまく利用されたという気がします。
後白河法皇なんかは政治の舞台での経験値が桁違いで、義経はうまく利用されてしまったのでしょう。
頼朝が鎌倉にて巨大な軍事力を持つに至っては、あっさりと見殺しにしてしまうのですね。
ひどいもんです。

この小説のタイトルになっているもうひとりの人物、静御前
静御前の中に母、常盤御前の姿を見たのでしょう。
都で大変な人気者であった義経ですが、彼の寵愛を一身に受け止めたのが静御前です。
義経は、幼い頃の境遇から、その気持はわかりますが、かなり強烈なマザコンですね。
そしてこの静御前もかなり意志の強い女性として描かれます。
落ち目になった義経都落ちになりますが、それに付き従う身重の体でした。
この物語では生き抜いた事になっていますが、行き倒れた、自害したとされる墓があると言います。
この時代の烈女は北条政子がいますが、静御前も負けず劣らず烈女であったと思いたいと著者は結んでいます。

この物語に登場する義経の父親代わりの存在が平泉藤原氏の秀衡。
頼朝の人間を早くから見抜いていたものの、義経は兄とともに平氏を撃つということしか考えておらず、自分の立場というものを見誤ったのですね。
義経は過去に秀衡に諭された意味がわかったときにはすでに時遅し。
頼朝に都を追われ、平泉に再度保護されるのですが、結局は秀衡の死後、義経は殺されてしまうのです。

 

 

 

 

 

 

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