以前原作である帚木蓬生さんの原作を読みました。
とても読みにくい名前の作家さんですね。
ははきぎほうせい、と読むのですね。
そしてこれを書けと言われてスラスラ書ける自信は全くありません。
さて、この映画ですが、精神病院内の物語であることは覚えていたのですが、ストーリーはかなり忘れてしまっています。
そのため、新鮮な気持ちで見ることができました。
以前読んだのは11年前。
こんなに忘れているんだと思うと、人間の記憶とは儚いものだと感じます。
ともあれ、原作にはある程度忠実に作られているんだとも感じましたね。
映画情報
監督 平山秀幸
脚本 平山秀幸
原作 帚木蓬生
上映時間 117分
公開 2019年
キャスト
塚本中弥 綾野剛
島崎由紀 小松菜奈
昭八 坂東龍汰
ストーリー
死刑囚である梶木秀丸は絞首刑となるが、奇跡的に死ななかったのです。
法的には死刑は完了し、彼の存在はなくなったのです。
もう一度死刑を執行するということもできず、とある「施設」で彼は余生を過ごすことになります。
ここは片田舎にある特殊な病院。
チュウさんこと塚本忠弥は、外出が許されている患者です。
彼はお金を使って、買い物をし、病院内の患者たちに売りさばいたりしています。
この病院は心、脳といった部分に障害を抱える、精神病院です。
チュウさんは見た目も行動も普段は全く普通の人間と同じなのですが、普通の社会に戻ることができていませんでした。
そんな病院に新しい「患者」がやってきました。
まだ高校生の女の子の島崎由紀でした。
彼女は誰とも溶け込まず、この施設にも馴染めず、尖りきっています。
彼女は駆け出して、病院の屋上から身を投げてしまうのでした。
由紀は家庭内で心に強いショックを受けているのでした。
妊娠していたのですが、高所から飛び降りたせいでお腹の中の子供は助かりませんでした。
この病院には元死刑囚であった梶木秀丸もいます。
絞首刑のときの後遺症で歩けなくなっており、車椅子生活。
現在は焼き物を作っていたりして過ごしています。
彼は一度死んだ人間で、生きていることに対して虚しさを感じています。
精神病患者ではありませんが、死んだことになっている人間のため、この施設で生きながらえていると言う状態でした。
死刑囚というくらいですから、秀丸が大きな罪を犯したことは間違いありません。
チュウさんも普通に社会に溶け込めるはずなのですが、時折襲いくる「幻聴」に悩まされています。
そんなチュウさんの妹夫婦は、母も痴呆症が進んでいるので、老人ホームに入れて、家は売却するというのです。
チュウさんは、反対します。
飛び降りた由紀はまだ若く、心と体に大きな傷を追っています。
再婚した母の伴侶、つまり義理の父に犯されると言う屈辱を味わったのでした。
母は娘を守るというよりも、伴侶を娘に取られまいとするかのように娘をこの病院に送るのでした。
この精神病院には覚醒剤中毒の後遺症のために入院している粗暴な元ヤクザの重宗というものがいます。
気が短く、病院でもその行動が粗暴なために誰からも嫌われているのです。
一方、元死刑囚の秀丸は患者たちとも仲良く、特にチュウさんや由紀とは仲が良かったのです。
チュウさん、秀丸のおかげで由紀も笑顔が戻り、生きる希望が少しずつ湧いてくるのでした。
しかし、重宗は由紀に目をつけ、暴力を奮って彼女をレイプしてしまいます。
立ち直りかけた由紀は失踪してしまうのでした。
事実を知った秀丸は、由紀の苦しい心の中を察し、重宗を刺殺します。
秀丸はまたしても人を殺めてしまいました。
秀丸の裁判が始まります。
そこに証人として現れたのは疾走していた由紀でした。
由紀は涙ながらに自分の受けた屈辱を語り、本来重宗を殺していたのは自分であり、自分の代わりに殺してくれたのが秀丸であると告げるのでした。
感想
この映画では完全に主役は笑福亭鶴瓶さんの演じる梶木秀丸です。
原作ではチュウさんこと、塚本中弥が主人公だったと思います。
そしてこの映画で語られていなかった「患者」も描かれていたように思います。
また読み返してみたい気もしますが、この映画は原作を読まなくても十分に見る勝ちはあると思います。
綾野剛さんも良かったのですが、鶴瓶師匠も雰囲気がありました。
悲しい運命を背負った秀丸を演じきっていましたね。
役者としてみると、どうしてもお笑いタレントとして有名すぎるので、その点で割り引いてみてしまうのですが、この映画の中での鶴瓶師匠は貫禄がありました。
粗暴な重宗に対して恐れることはない人間。
人を殺し、死刑になった人物なのです。
どこかで生死というものを達観しているかのようなところがあるのです。
鶴瓶師匠の演じる梶木秀丸は死刑囚ですが、とても気の毒な方なのです。
痴呆症の母を残して、妻に面倒を見てもらいながら仕事をする夫ですが、相談相手であるはずの役所の人間と妻の肉体関係を目の当たりにして、殺害してしまいます。
そして痴呆の母をも殺してしまい、茫然となっていたのです。
原作とは異なります。
原作では塚本中弥が主人公ですが、細かい点が描ききれてしません。
また昭八のこともほとんど描かれてしませんので、この映画は梶木秀丸を主人公にした映画であることがわかります。
そのため、秀丸の犯罪についてもかなり書き換えられているようです。
しかし、この物語のエッセンスはほぼ性格に伝わると思います。
暗い話ですが、ラストシーンの法廷で証人として語る由紀の姿は涙を誘います。
演じているのは、最近、人気俳優の菅田将暉さんと結婚を発表した小松菜奈さんですが、彼女は顔立ちがきれいとかそういう点ではなく、不思議と人を惹きつけるところがあります。
この映画でも熱演していますね。
ぜひご覧ください。
映画も良くできていますが、この本もおすすめです。
邦画で、予算は限られていますが、きちんとそれぞれの俳優に役割を与えています。
そして、やはり社会の仕組みが外国と日本では違うため、同じようなストーリーを扱っていても、洋画では、しっくりこないのですね。
人気タレントを揃えて、ファンに見てもらいたい!というだけの映画にはなっていません。