悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

閉鎖病棟 帚木蓬生

この作家の名前が難しすぎて読めなかったけど、結構有名な作家らしい。
まあ、そんなわけでこの作家の作品はこれが初めて。
書棚にあった本を無造作に手にとって題名を見る。「閉鎖病棟」。なんか暗そう。ちょっとネガティブな気持ちになって、読むのも若干億劫になったのは前に読んだ「クライマーズ・ハイ」と同じ。
読み始めからいきなり重いネタ。年端も行かない若い娘が人工中絶のシーン。で、まったく話は変わり、復員兵の話になる。そして次は知恵遅れの青年の話になって、先が読めない。てっきり短編小説集なのかと思ったくらい話がバラバラである。
精神病院の中の描写に移り、そこに昭八の名前を見つけて話が繋がっていることを確認する。そうこの話の中心は精神病院の中でのことである。
精神病患者を扱った小説も結構あると思うが、病院の中の患者をクローズアップして描いている作品を読むのは初めてである。しかもこの精神病院には犯罪を犯し、その精神状態から病院送りになった人たちが中心である。
もっぱら話は塚本忠弥ことチュウさんを中心に描かれていく。そこに元死刑囚で、死刑執行から生き残った梶木秀丸さん、先程の知恵遅れの青年が昭八さん、中絶した女子中学生の島崎さんを中心にして話が展開していく。精神病院の日常から彼らのバックグラウンドが描かれ、そこに凶悪な元ヤクザで覚醒剤常用者の患者、重宗も絡み、物語は大きく展開する。
精神病という理由で刑務所に入ることもなく、病院で他人に被害を与えるしかなかった重宗。精神病という烙印を押されて行き場を失った人たちを描いた作品。

楽しい作品ではないが、絶対読んだほうがいいなあ、と思う本。

追記
重宗を病院送りにし、刑務所に入れなかった警察、裁判所も鬼。彼は刑に服し、処罰されるべきだったろう。彼が病院にいた事で新たな不幸が起こってしまう。
島崎さんが病んだ原因の義理の父。彼がシャバで堂々と行きている事自体が鬼畜。彼こそ閉ざされたところで更生されるべき人間のはず。
チュウさんの妹夫婦の冷たさ。ほんの少しの優しさがあれば、チュウさんはもっと早く退院できたはずなのに。母の死に目にも会えなかった。
悪いのは誰?


閉鎖病棟 (新潮文庫)

閉鎖病棟 (新潮文庫)

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