悪魔の尻尾

50代から60代へ~まだあきらめない

ヘイトフル・エイト

タランティーノ監督の映画。
当然殺人シーンがわんさかの映画。
西部劇。そして密室殺人事件。ミステリー?まさか。
そんな期待と不安を感じながら見た。
女房いわく、かったるい前半で見ているのがしんどいらしい。
(ちなみに女房は見ていない。友人からの受け売りらしいが)

長い映画。168分もの長尺。R18。あえてR18にしないと行けないようには思えなかった。
まあ、あまり幼い子供が見るのはどうかと思うが、これよりも残虐な映画でもおR18ではないと思う。
まあ、フルヌードシーンが有るらしいからか。(男性だが)

西部劇だが、ものすごい吹雪に見舞われて、とある山小屋で8人の男(一人は女性だが)とその場所に缶詰になる。その密室でのやり取りが全てと言っても良い映画。
章立てで話は進んでいく。
第1章、第2章で主人公および主要な登場人物が加わっていく。
そして第3章で8人全員が顔を合わせることになる。

第1章「レッドロックへの最後の駅馬車
遺体を運ぶ賞金稼ぎの黒人、マーキス・ウォーレン。演じるのは名優のサミュエル・L・ジャクソン
馬が倒れ、立ち往生。
そこへ馬車にて通りかかるのが「首吊り人」という異名を持つ賞金稼ぎのジョン・ルース。演じるのはカート・ラッセルである。
色々なところでも指摘されているが、カート・ラッセルと雪の組み合わせは「遊星からの物体X」である。当然、そのあたりも狙っての配役なのだろうと思う。
ジョン・ルースは賞金首の女、デイジー・ドメルグを次の町のレッドロックへ護送中である。
マーキスは事情を話し、馬車に乗せてくれと頼む。頼む方も頼まれる方もお互い信用なんてできるわけがない。
それでも結局は同乗させることになる。
このあたりのやり取りもものすごく興味深い。そして登場人物の人物描写がまたなんともアクが強い。
この映画に登場する人物は皆そうなのだが、強烈な個性をはなっている。
女賞金首のエイジーもものすごい女である。どうしようもない女で減らず口。ジョン・ルースからは何度も顔面にパンチを打ち込まれて目の周りはパンダのような状態である。それでも口の悪さは収まらない。その後も何度も容赦ない肘打ちなどが彼女の顔面を襲う。
物語の半ばでも取り上げられ、終盤も出てくるマーキスと大統領との手紙のやり取りがこの第1章で登場する。
その手紙をルースは見たがるので見せてやるとデイジーは手紙につばを吐きかけ、マーキスの怒りを買って打ちのめされる。
その勢いで馬車から転落し、護送しているため手錠でつながっているジョン・ルースも転落する。

第2章「ロクデナシ野郎」
そして次の章でレッドロックで新保安官になるというクリス・マニックスがやはり同じようにこの吹雪のために進めず、馬車に乗せてくれと言って近づいてくる。
クリス・マニックス南北戦争時代の南軍で悪名高きマニックス略奪団の末息子だという。南部出身南軍のクリスは当然黒人差別主義者であり、マーキスとは仲が悪い。
ジョン・ルースも信用していないが、見殺しにも出来ず馬車に同乗させる。
ただし、先に乗ったマーキスのほうが信用できると判断したのか、彼に銃を渡してクリス・マニックスを警戒させる。
この後の物語にも北軍、南軍の立場による主義主張が展開されるが、その前フリのようなところもあるのかもしれない。

第3章「ミニーの紳士服飾店」
レッドロックへ行くまでに山小屋の「ミニーの店」に立ち寄り、猛吹雪を凌ぐことになる。
到着したジョン・ルース、デイジー、マーキス、クリスの4人。
しかしこの店をよく知るマーキスはこの山小屋の状態にすでに不信感を抱く。
さらにジョン・ルースも警戒を説いていない。この賞金首がいかなる価値を持つのかをよく知っているのである。
彼女を奪還しようとする手下どもが何処かで狙ってくるかもしれないと言うのは十分考えていたようである。
この店には先客がいた。
しかしこの店の主人やいつもいるべき人間がいない。
店の留守番を頼まれて、この店の主人たちは出かけたという。
山小屋の先客はティム・ロス演じるオズワルド・モブレー。処刑執行人をしているという。
英国紳士風であり、ガラの悪い連中ばかりのこの映画にあって、唯一の紳士然としている人物だが、信用できない。
そして山小屋の留守番を任されたボブ。メキシコ人。この映画にあっては脇役でセリフも多くはないが、信用できない。
そして暖炉のそばの椅子に腰掛けている老人、サンディ・スミザーズ。元南軍の将軍であり、息子の墓に行く途中だという。南軍では英雄的な将軍らしいが、多くの黒人を殺してきた人物。
当然、北軍のマーキス・ウォーレン少佐とは仲良くできそうにもない。
カウボーイというジョー・ゲージ。演じるのはこれまたタランティーノ作品の常連のマイケル・マドセン
これで一応8人揃ったはずである。
マーキス・ウォーレン
ジョン・ルース
デイジー・ドメルグ
クリス・マニックス
オズワルド・モブレー
メキシコ人のボブ
サンディ・スミザーズ
ジョー・ゲージ

この中に会えて含めなかったのが馬車の御者であるO・B。
特に北軍とも南軍とも言う立場もなく、黒人差別主義者でもない。お金さえ貰えれば特にこだわりなく馬車に乗せて移動するという仕事をコツコツこなす職人。まあ、胡散臭いものだらけのこの物語で一番マトモそうな人物である。

この第3章は非常に展開が大きく進む。人物がいっぺんに沢山増えたこと。場所が変わったこととともに、初めて人が死ぬ。
先に述べたマーキスと老将軍は北軍と南軍で互いに敵視している。マーキスは老将軍の息子を知っており、彼の死について話をはじめる。その内容はえげつないのである。まあ、この老将軍に銃を抜かせるために挑発するのが目的。
老将軍の息子はマーキスによって殺された。それも人間としては耐えられない仕打ちで殺された。
たまらず老将軍は銃を向けるが、実力のある賞金稼ぎである元北軍騎兵隊少佐のマーキスは彼を銃殺する。

第4章「ドメルグには秘密がある」
この銃殺劇の間にこっそりとコーヒーに毒を入れるものがいた。
そしてそれを見ていたのがデイジー
ここから話は一気に密室殺人事件へと発展していく。
というのであればまた違った楽しみもあったが、それほど推理小説じみた展開は長続きしない。
すぐに種明かしされていまう。
探偵役は主人公のマーキスである。
マーキスはもともとこの山小屋の状態に不信感を抱いていた。
そして老将軍銃殺の後も、警戒は解いていない。コーヒーを飲んだ「首吊り人」ジョン・ルースは血を吐き出して死んだ。
同じようにコーヒーを飲んだ馬車の御者であるO.Bも血を吐いて死ぬ。全く罪にないO.Bは本当に可愛そうなもんである。
二人が毒で死ぬが、このシーンはえげつなく血を吐く。もう気持ち悪いくらいに汚らしいのである。
デイジーは毒を入れるのを知っていたのでジョン・ルースが死んでいくのを不敵な笑顔で見ていたのであるが、手錠でつながれており、最期に力を振り絞ってジョン・ルースはデイジーを殴りつけるもついに血を吐き出して死んでいく。彼女はその血をまともに浴びて血だらけである。
ある意味このデイジー役の女性が一番気持ち悪いかもしれない。はじめの登場シーンからサイコパスの匂いがものすごくしており、ただの凶暴でガラの悪い女性という以上の物があった。

話を戻す。マーキスはすぐに残りの男達を無抵抗にさせる。それだけの腕が彼にはあったという設定だろう。
そしてコーヒーを今にも飲もうとしていたクリス・マニックスをまず開放する。
彼が犯人でないことは明白だからである。南軍で黒人嫌いの新保安官というクリスがマーキスと仲間となってこの中の犯人をあぶり出す。
まずはメキシコ人。彼は明白な理由があると言って、メキシコ人を射殺。この店をメキシコ人に任せるということはありえないということ。
このミニーの紳士服飾店の店主がメキシコ人が嫌いであることを知っていたのである。
そしていつもいるはずのスイート・デイブがいないこともその理由としていた。
マーキスはデイジーを救出するためにこの場所を利用して奪還しようとしている。なので残りの3人乗誰かが、あるいは全員がデイジーたちの一味であるという。
3人のうちメキシコ人は射殺。顔面も拳銃2丁で至近距離からふっ飛ばしてしまう。タランティーノ作品ならではのエグいシーン。
しかし、実はもう一人いた。床下に隠れていたデイジーの弟、ジョディが床下からマーキスの股間を撃ち抜く。
それと同時にオズワルド、ジョー・ゲージも呼応して銃撃戦になる。


第5章「4人の乗客」
この章は時間を巻き戻す。
後から到着したジョン・ルース、マーキスたちが来るよりも数時間前に4人の乗客がこの「ミニーの紳士服飾店」に来ていた。
そしてミニー他の店の関係者を油断させてから全員を抹殺。後ほど到着するであろうジョン・ルースを待ち構え、そこでデイジーの奪還を企てていた。
ジョン・ルースもそのあたりは警戒していたが、最終的には毒殺されてしまったのである。
店の者たちや彼らをここまで運んできた馬車の御者たちはこのならず者たちによって無残に殺されてしまったのである。

最終章「黒い男 白い地獄」
そしてまた話は現実時間に戻る。
股間を銃撃されたマーキスと脇腹を撃たれたクリスだったが、二人は銃撃戦に打ち勝つ。
弟のジョディもオズワルドもジョー・ゲージもデイジーたちの悪党一味であったが、3人共銃殺に成功する。
ならず者たちを一掃したマーキスとクリスだが、どちらも大量出血している。
武器は持たないが、仲間を殺されたものの自由を得ようとしていたデイジー
彼女は悪魔のような囁きをクリスにほのめかす。
このあたりの心理戦の駆け引きもかなり面白かった。
この女がやはり高価な賞金首である理由がわかるような気もする。
それにしてもこの悪名高きギャングのボスが弟のジョディだが、なんともあっけない死に方であった。タランティーノ作品に登場はしたものの名前を残せないような登場と終わり方。チャニング・テイタム、若手の有望株俳優だと思うがもったいない配役。まあ、この映画の強烈な個性の中では活躍できる場所がなかったような気もする。

この最後のシーンで「首吊り人」ジョン・ルースはこの女を殺そうと思えばいつでも殺せた。そして賞金首としては生死を問わずとなっていたので、殺しても全然構わなかったのであるが、彼は一流の賞金稼ぎで仕事に誇りを持っていたのである。犯罪者を裁きにかけて吊るすと。
このまま生き延びようとするこの女を殺すためには吊るすしかないと瀕死の状態の二人は主義主張を越えてこの女の首吊りを実行する。
なんとも言えないエンディングである。
考えればこの映画、登場人物は全て死んで終わりである。
後味の悪さったらない。

本当に後味の悪い3時間弱の映画であるが、最高傑作。

現代版のマカロニ・ウエスタン。
ジャンゴも良かった。そう思える私はやっぱりこういう映画を見て楽しめる人間なのだろうとも思った。(自慢にはならなないがwww)
マカロニ・ウエスタンが好きな人は見たらいいと思う。
意味不明なホラーなんかよりもずっと面白いと思う。

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